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5.引っ越しとクリスマス
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学園祭は思ってもみない展開で終わりを告げた。なんと言っても突然美咲が倒れてしまったことで僕は告白どころじゃなくなってしまったのだ。でもそれを必ずしも残念だとは思っていない。
もしあの時告白したとして、夢で見たように振られてしまっていたらどうだっただろうか。次の日から同じように友達に戻れた自信は無い。結果的にはどこかでホッとしている自分が情けないが、それが今の僕の立ち位置だとも言える。
美咲の具合は、翌日には良くなっていたそうだ。女子が数人連れだって売れ残りの大学芋を差し入れに行き様子を見てきたと言っていた。もちろん僕もメッセージで聞いて知ってはいた。それでも実際に顔をあわせてきたクラスメートの報告は、なにより僕を安堵させてくれたのだ。
学園祭休みが明けた次の日、美咲が欠席したこともあって、わざわざ僕に本人の様子を教えてくれた女子に感謝である。だけどなんでわざわざ聞いてもいないのに教えに来てくれるんだろう。それだけを不思議だと感じつつも、二人が実行委員だったから学園祭が終わってからも気を使ってくれたのだろうと捉えていた。
欠席の次の日から美咲は再び元気な姿を見せてくれるようになった。すっかり良くなったみたいでなによりだ。二度とこんなことが起きないよう、今まで以上に様子に気を付けなければいけないと思ったが、あまり観察しすぎるのも、下手するとストーカーまがいな気がするので程々にと自分を諫める。
そんなこんなで戻ってきた日常、今も僕と美咲の関係は何も変わっていない。つまり告白していないから進展も破局もないと言うことだ。良くも悪くも現状維持ってことで日々は緩やかに過ぎていった。
だがある日の昼休みのこと――
「えーそうなの? でも田舎って言ったって色々じゃない。どの辺の予定とか決まってるわけ?」
「うんー、一応パパの仕事の関係で信州か北陸になりそうかな。こないだも倒れて迷惑かけちゃったしさ。空気のいいところがいいんだってお医者さんでも言われちゃったの」
「でもすぐってことは無いんでしょ? 夏休みとか来年末とかそれくらい?」
「どうだろう、早ければ年明けてすぐとか? 新学期に間に合うと丁度いいかもって行ってたから春休みくらいになるかもしれないかな」
「そんなに早いの!? なんか随分と急展開なんだね、焦ってるとか?」
「考えすぎだよ、夏休みなら遊びに誘えるから来てもらってもいいしね。きっとリゾート地だから夏なら楽しく過ごせるんじゃないかなー」
いつも隣の席に集まって話し込んでいる、美咲と仲の良い女子グループの会話が今日も漏れ聞こえてくる。実はこれがなかなか役に立つ情報源なのだ。
しかし今日の会話はそんなのんきに聞いていられるものではなかった。流れを追う限りどう聞いても美咲が引っ越す話じゃないか!?
体のことを考えて空気の良い所へ引っ越す、これは理にかなっている。もちろん美咲の体のことを考えると正しい選択だとも思う。だからと言って高校在学中に引っ越すなんて……
さらにショックだったのは、美咲の態度からは未練とか寂しさを感じなかったことだ。引っ越した先の高校には隣の席に僕はいない。それをショックだと思ってもらえない程度だと言うことなんだろうか。
それならそれで構わないけど、だったら僕にだってやらなきゃいけないことがある。きちんと告白してきちんと振られ、きっぱりと諦めることだ。そうじゃないと引っ越してしまった後に、あの時告白だけでもしておけばよかったなんて後悔する未来が待っているんじゃないかと考えてしまった。
幸いもうすぐクリスマス、誘ってみて断られたら完全に脈無しだから告白するまでも無いだろう。しかし二人きりで出かけることができたなら―― 覚悟を決めて告白するんだ、絶対に!
そしてやってきたクリスマス一週間前のこと、僕は意を決して美咲を誘うことにした。タイミングは帰る直前に声をかけてみよう。そう決めていたのでためらうことなく美咲へ予定を聞くことができた。
「ねえ小野さん、来週の二十四か二十五日の予定って空いてるかな? もし予定が無かったら一緒にイルミネーションを見に行かないか?」
「もしかしてクリスマスに誘ってくれてるってこと!? どちらも一応予定はあるんだけど…… イルミネーションってことは夜でしょ?」
「いやいや、夜はもう寒いし夕方には帰るくらいでと考えてるんだ。また体調崩すとまずいだろ? 僕は一日中暇してるから時間は合わせられるよ。だから小野さんの都合次第ってことでどう?」
「うーん、二十六日からなら大丈夫なんだけど…… クリスマスイルミネーションにはもう遅いよね? 二十四、五日はどうしても外せない予定があるの」
「もしかして別の誰かに誘われてるとか? それならそれではっきり言ってもらえれば大丈夫、僕だって変にしつこくはしたくないんだ」
僕はおもわずもうすでにしつこいだろ! と自分に突っ込みを入れたくなってしまったが、彼女はそんなことは気にせず優しく笑いながらその答えを返した。
「あのね、詳しくは言えないんだけど、小浦君が多分思っているようなことは無いから安心して。でもホント誘ってくれたことは嬉しいよ」
美咲の笑顔はなぜか寂しそうだった。断るにしたって彼氏やデート以外に言いづらいなにか特別な理由でもあるのだろうか。
もしあの時告白したとして、夢で見たように振られてしまっていたらどうだっただろうか。次の日から同じように友達に戻れた自信は無い。結果的にはどこかでホッとしている自分が情けないが、それが今の僕の立ち位置だとも言える。
美咲の具合は、翌日には良くなっていたそうだ。女子が数人連れだって売れ残りの大学芋を差し入れに行き様子を見てきたと言っていた。もちろん僕もメッセージで聞いて知ってはいた。それでも実際に顔をあわせてきたクラスメートの報告は、なにより僕を安堵させてくれたのだ。
学園祭休みが明けた次の日、美咲が欠席したこともあって、わざわざ僕に本人の様子を教えてくれた女子に感謝である。だけどなんでわざわざ聞いてもいないのに教えに来てくれるんだろう。それだけを不思議だと感じつつも、二人が実行委員だったから学園祭が終わってからも気を使ってくれたのだろうと捉えていた。
欠席の次の日から美咲は再び元気な姿を見せてくれるようになった。すっかり良くなったみたいでなによりだ。二度とこんなことが起きないよう、今まで以上に様子に気を付けなければいけないと思ったが、あまり観察しすぎるのも、下手するとストーカーまがいな気がするので程々にと自分を諫める。
そんなこんなで戻ってきた日常、今も僕と美咲の関係は何も変わっていない。つまり告白していないから進展も破局もないと言うことだ。良くも悪くも現状維持ってことで日々は緩やかに過ぎていった。
だがある日の昼休みのこと――
「えーそうなの? でも田舎って言ったって色々じゃない。どの辺の予定とか決まってるわけ?」
「うんー、一応パパの仕事の関係で信州か北陸になりそうかな。こないだも倒れて迷惑かけちゃったしさ。空気のいいところがいいんだってお医者さんでも言われちゃったの」
「でもすぐってことは無いんでしょ? 夏休みとか来年末とかそれくらい?」
「どうだろう、早ければ年明けてすぐとか? 新学期に間に合うと丁度いいかもって行ってたから春休みくらいになるかもしれないかな」
「そんなに早いの!? なんか随分と急展開なんだね、焦ってるとか?」
「考えすぎだよ、夏休みなら遊びに誘えるから来てもらってもいいしね。きっとリゾート地だから夏なら楽しく過ごせるんじゃないかなー」
いつも隣の席に集まって話し込んでいる、美咲と仲の良い女子グループの会話が今日も漏れ聞こえてくる。実はこれがなかなか役に立つ情報源なのだ。
しかし今日の会話はそんなのんきに聞いていられるものではなかった。流れを追う限りどう聞いても美咲が引っ越す話じゃないか!?
体のことを考えて空気の良い所へ引っ越す、これは理にかなっている。もちろん美咲の体のことを考えると正しい選択だとも思う。だからと言って高校在学中に引っ越すなんて……
さらにショックだったのは、美咲の態度からは未練とか寂しさを感じなかったことだ。引っ越した先の高校には隣の席に僕はいない。それをショックだと思ってもらえない程度だと言うことなんだろうか。
それならそれで構わないけど、だったら僕にだってやらなきゃいけないことがある。きちんと告白してきちんと振られ、きっぱりと諦めることだ。そうじゃないと引っ越してしまった後に、あの時告白だけでもしておけばよかったなんて後悔する未来が待っているんじゃないかと考えてしまった。
幸いもうすぐクリスマス、誘ってみて断られたら完全に脈無しだから告白するまでも無いだろう。しかし二人きりで出かけることができたなら―― 覚悟を決めて告白するんだ、絶対に!
そしてやってきたクリスマス一週間前のこと、僕は意を決して美咲を誘うことにした。タイミングは帰る直前に声をかけてみよう。そう決めていたのでためらうことなく美咲へ予定を聞くことができた。
「ねえ小野さん、来週の二十四か二十五日の予定って空いてるかな? もし予定が無かったら一緒にイルミネーションを見に行かないか?」
「もしかしてクリスマスに誘ってくれてるってこと!? どちらも一応予定はあるんだけど…… イルミネーションってことは夜でしょ?」
「いやいや、夜はもう寒いし夕方には帰るくらいでと考えてるんだ。また体調崩すとまずいだろ? 僕は一日中暇してるから時間は合わせられるよ。だから小野さんの都合次第ってことでどう?」
「うーん、二十六日からなら大丈夫なんだけど…… クリスマスイルミネーションにはもう遅いよね? 二十四、五日はどうしても外せない予定があるの」
「もしかして別の誰かに誘われてるとか? それならそれではっきり言ってもらえれば大丈夫、僕だって変にしつこくはしたくないんだ」
僕はおもわずもうすでにしつこいだろ! と自分に突っ込みを入れたくなってしまったが、彼女はそんなことは気にせず優しく笑いながらその答えを返した。
「あのね、詳しくは言えないんだけど、小浦君が多分思っているようなことは無いから安心して。でもホント誘ってくれたことは嬉しいよ」
美咲の笑顔はなぜか寂しそうだった。断るにしたって彼氏やデート以外に言いづらいなにか特別な理由でもあるのだろうか。
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