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第五章 世界の向かう先
58.魔獣狩り狩り
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真琴の作った魔道具の助けを借り、強い力の方向を目指し走り続けて一日半、僕でも奴らの力を感知できるくらいのところまで近づいていた。おそらくあと数時間もかからず出くわすことができるだろう。
「それじゃこの方向に来るはずだから魔獣ちゃんを待機させておこう。
倒されちゃわないように身体強化と攻撃反射の魔術をかけてあげるからねー」
「そんなことできるならこんなデカい魔獣はいらなかったんじゃないの?
ポチみたいな小さい獣じゃダメだったのか?」
「こら! 無礼者め!
ワシは獣ではない、高貴なるドラゴンじゃぞ!」
「だから大きさの話、あくまで大きさだってば。
ポチって意外に短気だよなぁ」
「短気なのではない、自尊心の問題じゃ。
お主らだってジジイを蔑まれたら怒るじゃろうに」
「まあそうだけどさ、実際のドラゴンもそんなに気難しいのかなって。
なんというか本物よりも本物らしいって言うか、厳格過ぎると言うか……」
「言わんとすることはわかるぞ。
生き物であれば経験や知識の中から最適を完璧に引き出すことは出来んじゃろ?
だがワシは作り物、指定された行動原理と言うものがある。
基本的にはそれを全てなぞるような発言や行動を起こすと言うわけじゃ」
「なるほど、って、自分でそれがわかってるのはおかしくないか?
本心で言っているわけじゃなくてプログラムされた言動って意味に聞こえるよ?」
「当たらずも遠からずじゃな。
通常の生物なら忘却したり言漏らすことまで克明に発すると言う事じゃ。
決して機械的に話しているわけではないぞ?」
「なんか難しすぎてわかんないけどAI的なもん?
随分と高度な仕組みで出来てるんだなぁ。
爺ちゃんは魔術をどこまで極めたんだか想像もつかないよ」
「平和の世になってからジジイは何十年も暇しておったからな。
元々の才を活かすとなるとやはり魔道具開発だったのだろうな」
元々の才、大した才能に恵まれていない僕にとっては微妙にへこむ言葉だ。それでも努力でカバーできる範囲は拡大してきたわけで、こちらに来た当初よりは大分自信を持って行動できるようになっている。だからこそできることは全力で、出来ないことは割り切って頑張ろうと決めているのだ。
とまあ、僕とポチがそんな話をしている間に準備は進んでいたらしく、真琴が連れてきた魔獣には強化魔術がかけられて体表に輝く魔力をまとっていた。
「それじゃお兄ちゃん、ポチ、ちょっと行って来るね。
この子とプレイヤーが戦ってる間に次どうするか考えておいてよ?」
「ちょっと待てって、おい真琴!
もうすぐ夕方だし明日にしろって、待てってば!」
僕は真琴の暴走を必死で止めたつもりだったが、制止の言葉を無視して魔獣に跨り走り去っていった。後に残されたからと言って呆けている場合じゃない。僕はカバンへポチを放り込んでから慌ててバイクへ跨り後を追うことにした。
魔獣の足とバイクのどちらが早いかは明らかで、僕はあっという間に真琴へ追いついた。かと言って力ずくで止められるようなものではない。仕方ないので並走しながら叫ぶしかない。
「真琴! そんなにはやるなってば!
作戦はわかったから一緒に行くよ!
な? だからいったん止まれって!」
「このままもう少し進むとプレイヤーって人たちのルートに重なるの。
早く行かないと待ち伏せできなくなっちゃうから急ごう!」
「なんだよ、そんなギリギリだったのか。
奴らは予定通りに進んでるのかな、このメーターだけじゃよくわからないよ」
「そんなにピッタリじゃなくてもこの子の大きさなら見えるはずだよ。
さすがに魔獣を見つけて逃げ出したりはしないでしょー」
「そうだよな、これくらい相手に出来なかったら冒険どころじゃないもんな。
奴らだって覚悟してるんだし、失敗しても死ぬわけじゃないから気にしないで挑むはず。
今はどのくらいの強さなのか気になるくらいだな」
「まあなにかあれば吹き飛ばしちゃえばいいしね。
ふっふふっふふー、楽しみだなー」
満面の笑みを浮かべながら物騒なことを言っているが、それが本心なところがまた恐ろしい。とは言っても今日は戦力分析の様子見のはずだから大ごとにはならないはず。そう思ってないと真琴と行動を共にすることすら難しい。
機嫌が良ければ万事OKとはいかないが、悪くて暴走されるよりはまだマシだ。なにかの切っ掛けであんなトンデモ魔術を使われでもしたら村どころか世界まるごと吹っ飛ぶんじゃないかって心配になる。ここはおとなしく妹のやりたいことを応援する兄でいるのだ。
ほどなくして目的のポイントへ着き、真琴は巨大な魔獣をその場に待機させてから睡眠の呪文をかけた。あとはプレイヤーたちが襲い掛かれば眠りから覚めて戦闘になると言う手はずだ。
「もう結構近くにいるからすぐにここまで来るよ。
マコたちは隠れてこっそり見てよっか」
そう言って真琴は呪文を唱えて隠れるための岩壁を作りだした。二人でこうやって隠れて様子をうかがっているとなんだか幼い頃を思い出す。あの頃は家の中だけが遊び場だった。
「ねえお兄ちゃん、こうしてるとちっちゃい頃を思い出さない?
一緒に段ボール箱被ってお爺ちゃんに見つけてもらったよね。
あの時の全然隠れられてないかくれんぼ、楽しかったなぁ」
「あ、ああ、随分昔のこと思い出したんだな。
僕も同じようなこと考えてたからちょっとびっくりしたよ」
「こうやってずっと一緒にいられたらいいのになぁ。
でもいつかはみんなバラバラになっちゃうんだよね。
お兄ちゃんがあの子と一緒にいるならマコの居場所は無くなっちゃうから……」
「何言ってんだよ、あの子ってマハルタのことか?
そんなことあるわけないだろ、何考えてんだよ!
僕たちはずっと一緒に決まってる! 決まってるんだ!」
思わず興奮して大きな声を出してしまったが、真琴は微動だにせず遠くを見つめたまま突っ立ったままだった。まるで感情を失ったような無表情に冷たさすら感じる。二人で黙ったままなことがこの静寂に拍車をかけなんとも言えない居心地の悪さだ。
それ以上どう言えばいいかわからず続く沈黙、そんな気まずい状況を解消してくれたのは意外にも第三者だった。
「おい見ろよ、あんなところでデカブツが寝てやがるぜ。
肩慣らしにちょうど良さそうだから相手してやろうぜ」
「おう! やっちまおうぜ。
見たところただのでくの棒みたいだしな。
この人数で一斉にかかればイチコロだろ」
「それでは初撃着弾を合図にしましょうか。
回復手段が限られますから前衛は無理しすぎないようにお願いしますよ?」
どうやらプレイヤーたちが到着したようで、あれこれと戦略を相談する声が聞こえてきた。そしてしばらくすると魔獣への攻撃が開始された。
どういう仕組みかわからないが奴らの中には魔術を使うものがいる。もしかしたらあれが神術なのかもしれないが、天神がいなくなった今どうやって使えるようにしたのだろう。そう思いつつも思い当たることはもちろんあって、それは天神と対極にいるはずのポンコツ神だ。
そのポンコツ神の犠牲者とも言えるブルジョアの顧客たちは、目の前で頑張って無駄な攻撃を繰り返していた。真琴の施した強化魔法の効果でビクともしない巨大な魔獣は、プレイヤーたちに反撃することもなくただただその場にいるだけだ。
「なんかこのままじゃつまらないね。
それなら、えいっと」
真琴が何やら呪文を唱えると、魔獣の表面を覆っていた光りの膜が消えて行った。その直後からプレイヤーの攻撃は魔獣自体へ届くようになったらしく、あちこちを剣で切られ矢が刺さり光球が表皮を焼いていく。
自分たちの攻撃が目に見えてくるとやはりモチベーションが上がるのだろう。ますますやる気に満ちて攻撃を繰り返している。こうなるともう時間の問題でまもなく魔獣は討伐されそうだ。
「よしいいぞ、これでトドメだ!
うおおおおおお!!」
プレイヤーの一人が光りに包まれた剣を頭上に構えてから振り下ろすと、魔獣の体は真っ二つに切り裂かれた。その瞬間、驚くべきことが起こった。
「うぎゃあああ!」
魔獣一対プレイヤー十の戦場で、完全有利なはずの側から断末魔が上がる。それはたった今魔獣にとどめを刺したはずの剣士が自らの斬撃によって真っ二つになった瞬間だった。
「むっふん! トドメで発動する反射呪文がうまくいったみたい。
お兄ちゃんどう? マコのオリジナルなんだよ」
誇らしげに胸を張る真琴の瞳には、血柱を残して消えていく一人の剣士が映っているように思えた。それを見ながら口元に笑みを浮かべている姿は僕の知らない、いや、知りたくないと思っている妹の姿だった。
「それじゃこの方向に来るはずだから魔獣ちゃんを待機させておこう。
倒されちゃわないように身体強化と攻撃反射の魔術をかけてあげるからねー」
「そんなことできるならこんなデカい魔獣はいらなかったんじゃないの?
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「こら! 無礼者め!
ワシは獣ではない、高貴なるドラゴンじゃぞ!」
「だから大きさの話、あくまで大きさだってば。
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「短気なのではない、自尊心の問題じゃ。
お主らだってジジイを蔑まれたら怒るじゃろうに」
「まあそうだけどさ、実際のドラゴンもそんなに気難しいのかなって。
なんというか本物よりも本物らしいって言うか、厳格過ぎると言うか……」
「言わんとすることはわかるぞ。
生き物であれば経験や知識の中から最適を完璧に引き出すことは出来んじゃろ?
だがワシは作り物、指定された行動原理と言うものがある。
基本的にはそれを全てなぞるような発言や行動を起こすと言うわけじゃ」
「なるほど、って、自分でそれがわかってるのはおかしくないか?
本心で言っているわけじゃなくてプログラムされた言動って意味に聞こえるよ?」
「当たらずも遠からずじゃな。
通常の生物なら忘却したり言漏らすことまで克明に発すると言う事じゃ。
決して機械的に話しているわけではないぞ?」
「なんか難しすぎてわかんないけどAI的なもん?
随分と高度な仕組みで出来てるんだなぁ。
爺ちゃんは魔術をどこまで極めたんだか想像もつかないよ」
「平和の世になってからジジイは何十年も暇しておったからな。
元々の才を活かすとなるとやはり魔道具開発だったのだろうな」
元々の才、大した才能に恵まれていない僕にとっては微妙にへこむ言葉だ。それでも努力でカバーできる範囲は拡大してきたわけで、こちらに来た当初よりは大分自信を持って行動できるようになっている。だからこそできることは全力で、出来ないことは割り切って頑張ろうと決めているのだ。
とまあ、僕とポチがそんな話をしている間に準備は進んでいたらしく、真琴が連れてきた魔獣には強化魔術がかけられて体表に輝く魔力をまとっていた。
「それじゃお兄ちゃん、ポチ、ちょっと行って来るね。
この子とプレイヤーが戦ってる間に次どうするか考えておいてよ?」
「ちょっと待てって、おい真琴!
もうすぐ夕方だし明日にしろって、待てってば!」
僕は真琴の暴走を必死で止めたつもりだったが、制止の言葉を無視して魔獣に跨り走り去っていった。後に残されたからと言って呆けている場合じゃない。僕はカバンへポチを放り込んでから慌ててバイクへ跨り後を追うことにした。
魔獣の足とバイクのどちらが早いかは明らかで、僕はあっという間に真琴へ追いついた。かと言って力ずくで止められるようなものではない。仕方ないので並走しながら叫ぶしかない。
「真琴! そんなにはやるなってば!
作戦はわかったから一緒に行くよ!
な? だからいったん止まれって!」
「このままもう少し進むとプレイヤーって人たちのルートに重なるの。
早く行かないと待ち伏せできなくなっちゃうから急ごう!」
「なんだよ、そんなギリギリだったのか。
奴らは予定通りに進んでるのかな、このメーターだけじゃよくわからないよ」
「そんなにピッタリじゃなくてもこの子の大きさなら見えるはずだよ。
さすがに魔獣を見つけて逃げ出したりはしないでしょー」
「そうだよな、これくらい相手に出来なかったら冒険どころじゃないもんな。
奴らだって覚悟してるんだし、失敗しても死ぬわけじゃないから気にしないで挑むはず。
今はどのくらいの強さなのか気になるくらいだな」
「まあなにかあれば吹き飛ばしちゃえばいいしね。
ふっふふっふふー、楽しみだなー」
満面の笑みを浮かべながら物騒なことを言っているが、それが本心なところがまた恐ろしい。とは言っても今日は戦力分析の様子見のはずだから大ごとにはならないはず。そう思ってないと真琴と行動を共にすることすら難しい。
機嫌が良ければ万事OKとはいかないが、悪くて暴走されるよりはまだマシだ。なにかの切っ掛けであんなトンデモ魔術を使われでもしたら村どころか世界まるごと吹っ飛ぶんじゃないかって心配になる。ここはおとなしく妹のやりたいことを応援する兄でいるのだ。
ほどなくして目的のポイントへ着き、真琴は巨大な魔獣をその場に待機させてから睡眠の呪文をかけた。あとはプレイヤーたちが襲い掛かれば眠りから覚めて戦闘になると言う手はずだ。
「もう結構近くにいるからすぐにここまで来るよ。
マコたちは隠れてこっそり見てよっか」
そう言って真琴は呪文を唱えて隠れるための岩壁を作りだした。二人でこうやって隠れて様子をうかがっているとなんだか幼い頃を思い出す。あの頃は家の中だけが遊び場だった。
「ねえお兄ちゃん、こうしてるとちっちゃい頃を思い出さない?
一緒に段ボール箱被ってお爺ちゃんに見つけてもらったよね。
あの時の全然隠れられてないかくれんぼ、楽しかったなぁ」
「あ、ああ、随分昔のこと思い出したんだな。
僕も同じようなこと考えてたからちょっとびっくりしたよ」
「こうやってずっと一緒にいられたらいいのになぁ。
でもいつかはみんなバラバラになっちゃうんだよね。
お兄ちゃんがあの子と一緒にいるならマコの居場所は無くなっちゃうから……」
「何言ってんだよ、あの子ってマハルタのことか?
そんなことあるわけないだろ、何考えてんだよ!
僕たちはずっと一緒に決まってる! 決まってるんだ!」
思わず興奮して大きな声を出してしまったが、真琴は微動だにせず遠くを見つめたまま突っ立ったままだった。まるで感情を失ったような無表情に冷たさすら感じる。二人で黙ったままなことがこの静寂に拍車をかけなんとも言えない居心地の悪さだ。
それ以上どう言えばいいかわからず続く沈黙、そんな気まずい状況を解消してくれたのは意外にも第三者だった。
「おい見ろよ、あんなところでデカブツが寝てやがるぜ。
肩慣らしにちょうど良さそうだから相手してやろうぜ」
「おう! やっちまおうぜ。
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この人数で一斉にかかればイチコロだろ」
「それでは初撃着弾を合図にしましょうか。
回復手段が限られますから前衛は無理しすぎないようにお願いしますよ?」
どうやらプレイヤーたちが到着したようで、あれこれと戦略を相談する声が聞こえてきた。そしてしばらくすると魔獣への攻撃が開始された。
どういう仕組みかわからないが奴らの中には魔術を使うものがいる。もしかしたらあれが神術なのかもしれないが、天神がいなくなった今どうやって使えるようにしたのだろう。そう思いつつも思い当たることはもちろんあって、それは天神と対極にいるはずのポンコツ神だ。
そのポンコツ神の犠牲者とも言えるブルジョアの顧客たちは、目の前で頑張って無駄な攻撃を繰り返していた。真琴の施した強化魔法の効果でビクともしない巨大な魔獣は、プレイヤーたちに反撃することもなくただただその場にいるだけだ。
「なんかこのままじゃつまらないね。
それなら、えいっと」
真琴が何やら呪文を唱えると、魔獣の表面を覆っていた光りの膜が消えて行った。その直後からプレイヤーの攻撃は魔獣自体へ届くようになったらしく、あちこちを剣で切られ矢が刺さり光球が表皮を焼いていく。
自分たちの攻撃が目に見えてくるとやはりモチベーションが上がるのだろう。ますますやる気に満ちて攻撃を繰り返している。こうなるともう時間の問題でまもなく魔獣は討伐されそうだ。
「よしいいぞ、これでトドメだ!
うおおおおおお!!」
プレイヤーの一人が光りに包まれた剣を頭上に構えてから振り下ろすと、魔獣の体は真っ二つに切り裂かれた。その瞬間、驚くべきことが起こった。
「うぎゃあああ!」
魔獣一対プレイヤー十の戦場で、完全有利なはずの側から断末魔が上がる。それはたった今魔獣にとどめを刺したはずの剣士が自らの斬撃によって真っ二つになった瞬間だった。
「むっふん! トドメで発動する反射呪文がうまくいったみたい。
お兄ちゃんどう? マコのオリジナルなんだよ」
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