『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)

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第四章 魔術研究と改革

51.繋がりの棘

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 おかもちに残されていた卵が孵ってから十日以上が経ち、その間真琴はヒヨコ? の世話に夢中でプレイヤーへの鉄槌のことをすっかり忘れていた。そのことでは一安心だったのだが、現在進行形で別の問題が発生している。

「本当にお主は魔力制御が下手じゃの。
 やることなすこと大雑把すぎるんじゃ。
 いいか? 真綿で首を絞めるように柔らかくするんじゃ」

「棉で首を? 絞めるの?
 ポチの言ってることってよくわかんない」

「なぜわからんのじゃ!
 では箸で豆を摘まむようにそっと慎重に、これならわかりやすいはずじゃ。
 とにかくお主にはゼロか百しかないのがいかん。
 ほれ、もう一度最初からやってみるのじゃ」

 その問題の主は、割と厳しく真琴へ魔力制御の訓練を付けていて、魔力弾とでも言えるあの山に穴をあけた魔術を練習していた。そして今、魔力弾の標的となっているのが僕だった……

「ほれ、お主もきちんと受け止める準備をせい。
 またふっとばされて痛い思いをしたいのか?
 ゆっくりでいいからやってみろ、一枚一枚丁寧にイメージを作るのじゃ。
 なるべく小さく、そのほうが受けた衝撃を分散できるからのう」

「は、はい、いきます!」

 僕はの言葉に戸惑いながら、ゆっくりと丁寧に一枚の鱗を腕に生やした。それを繰り返すように念じていくと、数秒で右腕すべてが竜隣に包み込まれる。手先には大きなカギ爪を生やし好守兼ね備えた僕の新しい武器であり鎧である。

「お兄ちゃん、行くよー
 また死んじゃったらごめん!」

「大丈夫だ! 今度は受け止めてみせる! さあ来い!」

 真琴の人差し指が僕を見据えたその直後、視界が歪み何かが迫ってくる気配を感じた。これは見えない魔力弾がこちらへ飛んできていることを表している。顔の前を右腕で防御すると、あっという間に着弾し鱗が数十枚はじけ飛んで消えていった。

「ほれ、無くなった分はすぐに補充するのじゃ。
 だがお主なら着弾した瞬間に吸収することも出来るはずじゃぞ?」

「そんな、見えもしないのに無茶言わないでよ。
 真琴! 今のでどのくらいの威力なんだ?」

「えっとね、十段階で二か三くらいだと思う。
 結構弱く撃てたはずだよ」

 それであの威力か…… その前は右腕が肩までふっとばされて瀕死の重傷だったから、それよりはうまく制御できたらしい。まったく、相変わらずすさまじい威力だ。

「なーにを言っとるか!
 最弱で撃てと言ってるじゃろうが。
 今のでさえ屋敷が消え失せるほどの威力じゃぞ?
 そんな未熟さで森へ入ったら木々が全て無くなってしまうわい」

 新しい魔術の先生のお蔭で僕は実用的な身体強化魔術を身につけつつあるし、真琴も魔力のコントロールがうまくなってきていると感じる。だがしかし、いくら爺ちゃんの命を受けた相手とは言え、本当はこの先生に教わりたくはなかった。

「よし、今日はこのくらいにしておこう。
 二人ともわずかではあるが上達が見られてなによりじゃ。
 ライは生成速度を早めて一秒以下で全身を包むことを目標にするのじゃぞ?
 マコはあの植木の葉を一枚だけ撃ち落とすのが目標じゃ」

「ねえ、ポチ自体は魔術使えるの?
 最弱の魔術の例が見てみたいんだけどな」

「ふむ、仕方ないのう、よく見ておれよ。
 本当は見世物ではないのだか特別じゃ」

 するとテーブルの上に乗った小さなドラゴン・・・・・・・は口を開けて炎を吐いた。それはライターの火と変わらない程度のごく弱いものだ。続けて同じくらいの炎を翼についたカギ爪の指先に灯す。

「どうじゃ? 尊敬していいぞ?
 とは言ってもワシは魔術特化だから出来て当たり前なのじゃがな。
 それにしても魔力が逆回りしている個体が現れているとは想定外じゃ」

「やっぱり昔はいなかったのか。
 でも僕のように体内で魔術を具現化すでばいいんだよね?」

「膨大な魔力量を持つなら、じゃな。
 平均的な魔力量ではとてもできんわい。
 だが解決方法がないわけではない」

「あるの!? だったらロミちゃんに教えてあげてよ。
 後ついてでマハルタちゃんにもさ」

 真琴はいまだにマハルタを敵視しており、なんとか家から出ていってほしいようだ。いずれ裁縫をマスターすれば出ていくことになるんだから気にしなければいいのに、なぜか僕とマハルタがくっつくんじゃないかなんて考えて余計な心配をしている。まだ十歳とは言え色恋の話が好きなのはやっぱり女の子と言ったところか。

 だが今はそんなことより、ロミ達のような魔術適性がない人が魔術を使えるようになるという解決方法について聞く時だ。手のひらサイズでヒヨコのようなドラゴンというふざけた外見なのに、実は人工生命体で魔術のエキスパートという盛りだくさんスペックな魔術の先生に。

「まあわかってしまえば簡単な事じゃ。
 まずはこう言った魔道具を用意してじゃな――」

 そう言って、ポチは手元から指揮棒のような物を産み出して僕に手渡してきた。その棒を受け取って握ると手のひらにトゲが食い込んで刺さったのでとっさに手から落としてしまう。

「これこれ、魔術棒はちゃんと握らないとダメじゃぞ?
 その小さなトゲを強く握るのじゃ
 さすれば傷口から魔力が流れるようになるからの。
 痛みを嫌うなら対価も得られぬ」

「つまり……? 我慢すれば魔術は使えると?
 本当にそんな簡単な話なのか?」

「試してみればわかる、疑う前にやってみるが良い。
 なあに、傷と言ってもほんの少し刺さるだけじゃ、なんてことはない。
 杖を握って炎でも光でもいいから杖の先に出すことを念じてみるのじゃ」

 僕はポチの言葉にうなずいてから魔術棒を構えて先端に魔力を流す。普通の魔人にとって補助道具が必要になることはなく、手のひらなり指先なり、力を凝縮するイメージがつかめれば何でもいいはず。それが出来ない僕らみたいな連中でも、この方法でなら魔術を使えるということを証明できれば画期的と言えそうだ。

 緊張しながら魔術棒の先端に雷を発生させるイメージを持つと、なんだかできそうな気がしてきた。手のひらに刺さったトゲを伝って体内から魔力が流れていくように念じる。すると先端がパチパチと音を立てて帯電しているように見えなくもない。

 試しに帯電した棒っきれの先を天へ向けて電気を飛ばすようイメージした。すると天空へ向かって一筋の雷(いかずち)が登って・・・いってはじけ飛んだ。

「で、できた! マジで出来た!
 おい真琴! 今の見てたか!?」

「う、うん、見てたよ、ちゃんと出来てたね、でも――」

 不安げな表情でこちらを見る真琴の視線の先は頭上へ振りかざした僕の腕で、そこには多量の血が流れていた。
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