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第四章 魔術研究と改革
46.魔道具
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最近は地下の工房に籠ることが多くなってきた。当然僕は、腕を覆う魔道具を生成する練習を繰り返している。その甲斐あって、五回に三回くらいはまともな形で表れるのだが、その他は雑念のせいでおかしな造形になってしまう。そして今日も段ボールだったり振りザルだったりを産み出していた。
真琴はと言うと、庭の手入れをしたり書庫の本を読み漁ったりする合間に地下へやってきて、ロミの護身用武器について試行錯誤しながら試作を繰り返していた。優秀な妹がなぜそんな苦労をしているのか。
それは少し前の話――
「ねえお兄ちゃん、ロミちゃんが獣をなかなか追い返せないんだって。
今はナイフを使ってるみたいなんだけどもっといい方法ないかな?」
「うーん、剣とか槍は扱いが難しいもんなぁ。
追い払うだけなら胡椒袋とかで良さそうだけどね。
こっちの世界には銃は無さそうだし、森へ行くのは危ないからやめたらいいのに」
「あー、鉄砲があればいいのかな。
作ってみよう! お兄ちゃんって鉄砲詳しいでしょ?」
「詳しくなんてないよ。
昔おもちゃの鉄砲持ってたくらいじゃん。
獣の類を倒したり追い払えるようなのは本物でしょ」
「じゃあどんな作りかだけでもいいよ?
どうやったら弾が出るの?」
「それはね――」
なんてやり取りが有り、真琴は僕の説明したうろ覚えで微妙な知識を元に銃を構築するという無謀な挑戦を始めたのだった。ちなみに僕が教えられる程度の知識は、火薬の爆発で金属の弾を飛ばす程度という酷いものだった。
火薬が実用化されているわけではないこの世界でも、魔術を使えば似たようなことは出来る。それが出来ないのは魔術適性に欠けている、魔人の中の約一割の存在と言うことになる。そのうちの一人であるロミの為には魔術に頼らない魔道具が必要なのだ。
こうして完成したのが封じ込めた魔術で弾を撃ちだす拳銃だった。構造はゾンビゲームとかで見るようなショットガンを小さくした形状で、銃身が二本あり後ろから弾を差し込むものだ。弾は圧縮した空気を封じ込めた薬きょう的な物の先端に胡椒の粒を固めた物がついていて、発射すると解放された空気が胡椒の粒を目の前にばらまくことができる。
「これはまだ試作だから不格好だけどさ。
工房で同じような形を作ってもらって弾だけ魔術で作ればいいよね。
そしたら森に入る人たちの役に立てるんじゃないかなー」
「うんうん、とってもいいと思うよ。
金属の弾を使えば狩りにも使えるだろうし、きっと役に立つよ」
「あ、そっかぁ、そしたら人も撃てることになっちゃうんだね。
やっぱり危ないかな……」
「まあ確かに危ないけどさ、やろうと思えば魔術で直接攻撃できるだろ?
結局は道具の問題じゃなくて使う人次第だよ。
だから真琴が責任を背負う気になるのはいくらなんでも考えすぎってもんさ。
包丁でも、タダの木の棒でも他人を傷つけることは出来るんだからね」
「まあそうだね、別に本当に死んじゃうこともないんだし。
でもどうせなら魔術で人には向けられない制限とかつけられたらいいのになー」
「それは別で研究してみたらいいんじゃない?
標的を認識する機能とかってことだろ?
カメラの顔認識みたいな感じで出来るかもしれないよ」
「さっすがお兄ちゃん!
今度考えてみようっと。
あ、これから工房まで一緒に行ってもらえるかな……」
「もちろん、ついでにラーメン食べに行こうか。
試食会以来食べてないけど結構流行ってるみたいだよ」
「いくいくー
お爺ちゃんのラーメンとは結構違うけどマコは好きだなー」
「そうだね、まったく同じには出来ないけど雰囲気は出てたもんな。
醤油がないのがホント残念だけど無いものは仕方ない」
こうして僕たちは村へと出掛けて行った。最近はチャーシが護衛で着いてくることもなく少し寂しい気もするが、格闘修行が認められて嬉しい気持ちにもなっている。というわけで今日のお供は、植木を見に行くよう真琴から頼まれたルースーと、新しいシーツを欲しがったメンマである。
村に入るとルースーは植木を見に、メンマは寝具を探しに出かけて行った。二人はスマメが使えないから支払いは出来ないが、コ村内で商売をしている人たちはちのメイドだとわかっているので全部ツケである。
コ村にはメンマたちの他に獣人は住んでいないので非常に目立つし、自分が取り扱っている品物を買って欲しいのか、隙を見せるとグイグイと押してくる。だがそうでない店もわずかに存在し、その一つはこの観光案内所である。
「マイさん、こんにちは。
これから工房へ行って、その後ラーメンを食べに行こうと思って。
温麺屋は最近もまだ混んでるかな。
良かったら一緒にどうですか?」
「雷人君、真琴様、こんにちは。
温麺屋は相変わらず塩ラーメンが好評ですが、夕方なら比較的すいてますね。
観光で訪れる方々は早めの時間か夜遅くに行っているようです。
今日は夕方到着の予約が入ってるのでご一緒できなくて残念です」
相変わらず忙しそうなマイと雑談を交わしてから工房へと向かった。工房に入ると、今や真琴は人気物なので少し安心する。一般の村人たちは真琴の強大な力を恐れているが、魔術上級や魔道具作成を学んでいる以上の人たちにとっては崇拝の対象と言っても大げさではない。
どうやら魔道具を直接産み出すには相当な魔力量と放出量が必要らしく、村一番の職人でも手のひらサイズの魔灯を作り出すことが精いっぱいである。なので真琴が作るような大きさは、現在の魔道具の中でも最高峰に近い。それでも爺ちゃんの作った品々よりははるかに小さく単純なのは魔術経験と人生経験の差なのだろう。
工房へ持ち込んで相談した結果、拳銃の基幹部分を手作業で作り、発射に関する部分のみを魔道具で作ることになった。構造を色々と工夫することでもっと良くできそうだとか、クロスボウの構造を応用できそうだとか話しているが僕にはピンと来ないしもちろん真琴もわかっていない。
それでも有用な物にはなりそうだし、魔術が使えなくても扱える魔道具は、今後別の物を作る際にも役立つだろうと職人たちは大騒ぎをはじめ工房は盛り上がりを見せる。持ち込んだ真琴も満足した様子で楽しそうに笑い合っていた。
例の事件以来、家にこもりふさぎ込むことが多かった真琴だったが、魔道具工房へ出入りするようになりすっかり明るさが戻っていた。やはり身近に理解ある人たちがいると言うのはいいことだ。責任を感じていた副校長のカナエも、こうなることを期待して工房長を紹介してくれたのだろう。
工房で時間を潰しているうちにメンマとルースーが戻ってきた。どうやら目当てのものがあったようで真琴が喜んでいた。その後温麺屋へ行き塩ラーメンを食べてから帰路についた。
こんな風に事件も騒ぎもなく過ぎていく毎日がコ村での日常なのだが、僕は少しだけ退屈していた。
真琴はと言うと、庭の手入れをしたり書庫の本を読み漁ったりする合間に地下へやってきて、ロミの護身用武器について試行錯誤しながら試作を繰り返していた。優秀な妹がなぜそんな苦労をしているのか。
それは少し前の話――
「ねえお兄ちゃん、ロミちゃんが獣をなかなか追い返せないんだって。
今はナイフを使ってるみたいなんだけどもっといい方法ないかな?」
「うーん、剣とか槍は扱いが難しいもんなぁ。
追い払うだけなら胡椒袋とかで良さそうだけどね。
こっちの世界には銃は無さそうだし、森へ行くのは危ないからやめたらいいのに」
「あー、鉄砲があればいいのかな。
作ってみよう! お兄ちゃんって鉄砲詳しいでしょ?」
「詳しくなんてないよ。
昔おもちゃの鉄砲持ってたくらいじゃん。
獣の類を倒したり追い払えるようなのは本物でしょ」
「じゃあどんな作りかだけでもいいよ?
どうやったら弾が出るの?」
「それはね――」
なんてやり取りが有り、真琴は僕の説明したうろ覚えで微妙な知識を元に銃を構築するという無謀な挑戦を始めたのだった。ちなみに僕が教えられる程度の知識は、火薬の爆発で金属の弾を飛ばす程度という酷いものだった。
火薬が実用化されているわけではないこの世界でも、魔術を使えば似たようなことは出来る。それが出来ないのは魔術適性に欠けている、魔人の中の約一割の存在と言うことになる。そのうちの一人であるロミの為には魔術に頼らない魔道具が必要なのだ。
こうして完成したのが封じ込めた魔術で弾を撃ちだす拳銃だった。構造はゾンビゲームとかで見るようなショットガンを小さくした形状で、銃身が二本あり後ろから弾を差し込むものだ。弾は圧縮した空気を封じ込めた薬きょう的な物の先端に胡椒の粒を固めた物がついていて、発射すると解放された空気が胡椒の粒を目の前にばらまくことができる。
「これはまだ試作だから不格好だけどさ。
工房で同じような形を作ってもらって弾だけ魔術で作ればいいよね。
そしたら森に入る人たちの役に立てるんじゃないかなー」
「うんうん、とってもいいと思うよ。
金属の弾を使えば狩りにも使えるだろうし、きっと役に立つよ」
「あ、そっかぁ、そしたら人も撃てることになっちゃうんだね。
やっぱり危ないかな……」
「まあ確かに危ないけどさ、やろうと思えば魔術で直接攻撃できるだろ?
結局は道具の問題じゃなくて使う人次第だよ。
だから真琴が責任を背負う気になるのはいくらなんでも考えすぎってもんさ。
包丁でも、タダの木の棒でも他人を傷つけることは出来るんだからね」
「まあそうだね、別に本当に死んじゃうこともないんだし。
でもどうせなら魔術で人には向けられない制限とかつけられたらいいのになー」
「それは別で研究してみたらいいんじゃない?
標的を認識する機能とかってことだろ?
カメラの顔認識みたいな感じで出来るかもしれないよ」
「さっすがお兄ちゃん!
今度考えてみようっと。
あ、これから工房まで一緒に行ってもらえるかな……」
「もちろん、ついでにラーメン食べに行こうか。
試食会以来食べてないけど結構流行ってるみたいだよ」
「いくいくー
お爺ちゃんのラーメンとは結構違うけどマコは好きだなー」
「そうだね、まったく同じには出来ないけど雰囲気は出てたもんな。
醤油がないのがホント残念だけど無いものは仕方ない」
こうして僕たちは村へと出掛けて行った。最近はチャーシが護衛で着いてくることもなく少し寂しい気もするが、格闘修行が認められて嬉しい気持ちにもなっている。というわけで今日のお供は、植木を見に行くよう真琴から頼まれたルースーと、新しいシーツを欲しがったメンマである。
村に入るとルースーは植木を見に、メンマは寝具を探しに出かけて行った。二人はスマメが使えないから支払いは出来ないが、コ村内で商売をしている人たちはちのメイドだとわかっているので全部ツケである。
コ村にはメンマたちの他に獣人は住んでいないので非常に目立つし、自分が取り扱っている品物を買って欲しいのか、隙を見せるとグイグイと押してくる。だがそうでない店もわずかに存在し、その一つはこの観光案内所である。
「マイさん、こんにちは。
これから工房へ行って、その後ラーメンを食べに行こうと思って。
温麺屋は最近もまだ混んでるかな。
良かったら一緒にどうですか?」
「雷人君、真琴様、こんにちは。
温麺屋は相変わらず塩ラーメンが好評ですが、夕方なら比較的すいてますね。
観光で訪れる方々は早めの時間か夜遅くに行っているようです。
今日は夕方到着の予約が入ってるのでご一緒できなくて残念です」
相変わらず忙しそうなマイと雑談を交わしてから工房へと向かった。工房に入ると、今や真琴は人気物なので少し安心する。一般の村人たちは真琴の強大な力を恐れているが、魔術上級や魔道具作成を学んでいる以上の人たちにとっては崇拝の対象と言っても大げさではない。
どうやら魔道具を直接産み出すには相当な魔力量と放出量が必要らしく、村一番の職人でも手のひらサイズの魔灯を作り出すことが精いっぱいである。なので真琴が作るような大きさは、現在の魔道具の中でも最高峰に近い。それでも爺ちゃんの作った品々よりははるかに小さく単純なのは魔術経験と人生経験の差なのだろう。
工房へ持ち込んで相談した結果、拳銃の基幹部分を手作業で作り、発射に関する部分のみを魔道具で作ることになった。構造を色々と工夫することでもっと良くできそうだとか、クロスボウの構造を応用できそうだとか話しているが僕にはピンと来ないしもちろん真琴もわかっていない。
それでも有用な物にはなりそうだし、魔術が使えなくても扱える魔道具は、今後別の物を作る際にも役立つだろうと職人たちは大騒ぎをはじめ工房は盛り上がりを見せる。持ち込んだ真琴も満足した様子で楽しそうに笑い合っていた。
例の事件以来、家にこもりふさぎ込むことが多かった真琴だったが、魔道具工房へ出入りするようになりすっかり明るさが戻っていた。やはり身近に理解ある人たちがいると言うのはいいことだ。責任を感じていた副校長のカナエも、こうなることを期待して工房長を紹介してくれたのだろう。
工房で時間を潰しているうちにメンマとルースーが戻ってきた。どうやら目当てのものがあったようで真琴が喜んでいた。その後温麺屋へ行き塩ラーメンを食べてから帰路についた。
こんな風に事件も騒ぎもなく過ぎていく毎日がコ村での日常なのだが、僕は少しだけ退屈していた。
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