『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)

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第三章 学校生活始めました

38.待ち伏せ

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 昨日はいい一日を過ごして気分よく迎えた朝だったのに、また頭を悩ませることになった。なぜなら――

「ライト君、迎えに来たよ、学校行こう。
 今日は行くでしょ?」

「マハルタ…… なんでまた迎えに来たんだ?
 というか君の家ってアンクよりも向こうの住宅街にあるんだろ?
 迎えにくるどころか学校は通り過ぎてるじゃないか。
 理由もなくそんなことするなんて、いくらなんでも度が過ぎてる」

「だって、だってライト君ともっと仲良くしたいんだもん!
 なんでって言われてもそう思っちゃうんだから仕方ないでしょ!」

 やっぱりか!? やっぱりそういうことなのか? 中学の頃にも告白されたことはあったが、あの時は家の事情でバタバタしてたことも有り他人を受け入れる余裕がなかった。しかし今は? もちろん精神的に余裕がなくのんびり暮らしている割には心配事が多い。

「わかったよ…… 僕も別にマハルタのことが嫌いなわけじゃないんだ。
 というよりはほぼ君のことを知らないと言った方が正しい。
 だから今すぐ、その…… 恋人? 的な? ことは、あの……」

「うん、それでもいいよ、まずは友達からってことだよね?
 あと朝迎えに来るのはもうやめるね、私の家って北西の端のほうですごく遠いし……」

「あはは、無理はしない方がいいさ。
 それじゃ着替えてくるよ、待ってる?」

 マハルタは頷いて正門の前に真っ直ぐと立っていた。僕はそれを確認しながら家の中へと戻り着替えに向かう。真琴は当然のように自分の部屋の前で待ち構えていた。

「随分話し込んでたじゃん。
 まさか告白されて付き合うことにしたんじゃないよね?」

「いくらなんでもまさか過ぎるよ。
 そんなわけない、僕はマハルタの事なんにも知らないんだからね。
 それに…… なにか考えがあるような気がするんだよ。
 今はなにもわからないけど、しばらくは様子を観察して見極めてやるさ」

「お兄ちゃんは恋する乙女に大して随分と厳しいのね。
 そんな風に思われてたらマハルタちゃんがかわいそうじゃないの」

「真琴は一体どっちの味方なんだよ……」

「マコはお兄ちゃんの味方だよ。
 だから変な噂がたったり変な目で見られるようにはなって欲しくないの。
 それとも二人でずっとここに籠って暮らす?」

「ごめん、そうだったよな……
 でも僕だって真琴のことを第一に考えてるからさ、そこは安心してくれよ?」

 そう言ってから真琴の頭を撫でると、僕は急いで着替えてマハルタと合流し学校へと向かった。


 観光案内所の前まで行くと、例によってマイさんがこちらに手を振ってくれる。それを見たマハルタはどうやら機嫌が悪くなったらしい。やれやれここにも思い込みのヤキモチ焼きがいるのか? そう思っていたが実際はそうではなかった。

「私、あのマイって人キライなの。
 歴史の授業ですごく厳しくて、同じことを何度も何度も言うんだよ?
 それで学校行かなかったら進級できなくて、二回も……」

「それって逆恨みじゃないの?
 出来なかったら上がれないのわかっててサボったんだろ?
 今は真面目に毎日来てるんだから、歴史の時もそうすれば良かったのに」

「そりゃ外から見たらそんなもんだよね。
 でもその時の私は苦しかったんだから!
 興味がないだけじゃなくて今まで聞いてきた歴史とも違うし……
 この世界が本当に一人の魔人によって救われたなんて信じられないよ。
 そんなの神話の昔話で事実じゃないよね?」

 マハルタの口ぶりだと、コ村から離れたところでは多少異なる内容が史実として伝えられているのかもしれない。子供のころから聞かされてきた話と違っているなら、コ村での授業を受け入れるのは確かに簡単ではなさそうだ。

 それにしてもロミも言っていたが、マイは歴史のことになると途端に厳しくなるようだ。そりゃ養子とは言え爺ちゃんと一緒にコ村を興した人たちの末裔なのだから強い思い入れは当然だと思うし、きっと僕も同じ気持ちになるだろう。もちろん遠い過去の出来事が全て事実だと信じていると言うこともある。

 他の村からの移住者でまだ日が浅いとかせいぜい数世代の人たちは、爺ちゃんのことを実在の人物だったとは思ってないらしく、何かにつけて神話だとかおとぎ話だと言うらしい。その代表格が例のチハルと言うおっさんでありこのマハルタなのだ。

「僕はもちろん信じてるよ。
 君がどこまで知っているのかはわからないけどさ。
 マイさんも僕たち兄妹も初代様って呼ばれてる魔人の子孫なんだから」

「それがおかしな話だと言っているのよ。
 なんでそんなすごい人たちが、人間の街よりも小さなこの村に集まっているの?
 人間族ははるか昔に王国と言うものを築いてたんですって。
 一人の王が神の代わりに国を納めてたのよ?
 人間でさえそんなことができるのに、世界を救った魔人様が小さな村一つで満足するの?」

「そりゃ満足しただろうね。
 だって世界は平和になって多くの人たちを救うことが出来たんだから。
 大きな都市や国を治めるのが素晴らしいこととは限らないよ。
 僕だってそう思うくらいだからね」

 そう、僕は領主になんかされて面倒を抱えることになるのが嫌なのだ。きっとこれは爺ちゃんも似たような考えだったに違いない。褒められたことでもないけど、うちの家系は代々グウタラなのだ。

 明らかにマハルタは納得してないと言った表情だが、すでに学校の前についていることだしいつまでも立ち話を続けていても仕方がない。僕は彼女を促し校内へと向かった。


 教室へ入ると久しぶり過ぎて驚いたのか、他の生徒たちが警戒したような顔をしながら僕を見る。しかしすぐに視線を外しまるで何も見なかったかのように机に向かっていた。

「なんか雰囲気おかしくない?
 来てなかった僕が嫌われるなんてそんなのおかしいだろ」

「あなたの妹のせいよ。
 この間の洪水騒ぎ振り返ってみなさいよ、そりゃみんな警戒するわ。
 私だって彼女のことは怖いもん」

「それならなんで僕に近づいたのさ。
 落ちこぼれの僕なら怖くないから?」

「それもあるし、似た者同士かなって感じるのもあるかな。
 でもライト君って普通にカッコいいじゃない?
 今なら誰も近寄らなそうだからチャンスだなって思ったのよ」

 まさか容姿を褒められるだけでなく、異性に好かれるポイントになる日が来るなんて思っても見なかった。あまりに意外な発言に、僕は戸惑いを隠せず、教科書を逆さに広げてしまうのだった。
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