『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)

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第三章 学校生活始めました

32.やさしい味

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 翌朝になって僕が学校へ行く準備をしていると、庭から声が聞こえてきた。どうやら今日もロミがやってきているようだ。学校へ通うこともできず、街へ行くのも怖がっている真琴のところへ毎日やってきて果物やジュースの差し入れや、刈り取ってきた野ばらを置いていったりしてくれる。

 庭に出るとロミから貰ったであろうジュースを飲みながら、真琴が笑顔で手を振っている。

「やあロミおはよう、いつもありがとうね。
 村は相変わらず揉めたままなんでしょ?」

「どうせマイから聞いてるんだろ?
 村長派と改革派で真っ二つだってさ。
 改革派の言う、村の発展には経済活動を増やすことが必要ってのもわかるけどさ。
 アタシんちみたいに大した稼ぎもなくのんびり暮らしてちゃダメって言われてもなぁ。
 税金上げたりマーケットの使用料を徴収するのはやり過ぎだよ」

「そうだね、爺ちゃんたちはそんな村にするつもりなんて無かったんだから。
 のんびり自由に楽しく暮らすのがコ村を興した意義だろう。
 それが嫌なら別の村を興せばいいのにね」

「魔道具の利権と浄化装置、結界を新たに作る困難さってとこじゃない?
 コ村の浄化装置と結界みたいな大きなの、他の村には無いしね。
 作るだけでも相当大変だろうし、維持するのもすごい魔力が必要だと思うよ?
 学校の生徒の授業で賄うって言うのは理にかなってるね」

「僕たちみたいな落ちこぼれの存在を抜きにすれば、だけどね」

「まだ気にしてるの?
 もういい加減諦めたらいいのに。
 そんな角持ってるんだから武の才に長けてるかもしれないし訓練してみたら?」

 そう言えばそんな事全然考えていなかった。真琴は魔術で、僕は武力で村を守る、うーんなかなか悪くない響きだ。だが別段迫りくる脅威があるわけでもないし、村の話し合いを武力で解決するのもいいことでは無い。つまり武の才があっても宝の持ち腐れなのだ。

「狩りをして獣を獣人たちに売れば結構な儲けになるしさ。
 アタシと一緒に森へ行って金儲けに励もうよ」

「だめだめ、僕はまだ諦めてないんだからな。
 これから真琴と一緒に学校へ行ってくるんだ。
 真琴が何か思いついたみたいだからね。
 もしかしたらロミも魔術が使えるようになるかもしれないから期待しててよ」

「わかったよ、じゃあ帰ってくるころには二人ともいないんだな?
 それならまた野ばらが採れたら表に置いておくよ」

 真琴のために運んできている野ばらは大分増えて来て、正門へ薔薇のアーチをかけ、その横の塀に沿って生垣を伸ばしていっている途中だった。敷地一周にはまだまだかかりそうだが、真琴とロミ、それにルースーの楽しみになっているようだ。

「ねえお兄ちゃん、ロミちゃんを家に招きたいんだけどどうやればいいの?
 結界があるから入れないんだってさ。
 野ばらを取ってきてくれても中へ入れないから柵の外に置いてもらってるのよ。
 でもそれってちょっと失礼かなって感じるの」

「確かにそうだな、チャーシ、ロミさんに許可って出せるのかな?
 危険性が無ければ特に問題はないんでしょ?」

「ええ、問題はないはずだからハンチャへ伝えるわね。
 む、早いわね、もうハンチャが来たのだわ」

「ライさま、ただいまロミ様の結界通過許可を施しました。
 ただくれぐれもお一人であまり出歩かないようお願いいたします。
 自動監視を行っている部分もありまして、住人以外は場合によって攻撃対象となります」

「やれやれ、万全の防犯体制は時に物騒だな。
 というわけでロミさん、僕も把握できてないから十分注意してね」

「わかったよ、まあ他人の家の中を勝手に散策する趣味はないから安心して。
 基本的には庭への出入りだけだと思う。
 でもこれでマコと一緒にお茶できるな」

「うん! なんだか嬉しいね。
 今まで気づかなくてごめんなさい」

「マコは賢くて優しいな。
 アタシには兄妹がいないからちょっとうらやましいよ。
 異母兄弟ならたくさんいるらしいけど、付き合いがあるわけじゃないしな」

「ま、まあそれはともかく森へ行くなら油断しないでくれよ?
 家の裏で死なれても気分が良くないんだからさ」

「こないだは悪かったよ、逃げ切れると思ったんだけどギリだったな。
 普段なら猪にはねられたりしないんだけどヘマしちゃったよ」

「知ってはいたけど、死んで生き返るところを初めて見たからすごく怖かった……
 その後真琴が蘇生呪文を使えることを知ってさらに驚いたけどな」

「その魔術で改革派を全員消しちゃえばいいな。
 西の荒野へでも追い出しちまえばいいのさ。
 好きなところで村を作りなさいってね」

「そっか、その手があったね!
 後で街へ行くから村長さんに言ってみよう!」

 僕は頭を抱えながら、ひとまずロミを送り出した。

「いいか真琴? さっきのは冗談だってわかって言ったんだよな?
 でもどこで誰が聞いてるかわからないからさ、滅多なこと言っちゃだめだ。
 捻じ曲がっておかしな噂を流されたらいやだろ?」

「うん…… ごめんなさぃ……
 もっと考えてしゃべるようにするね……」

「わかったならいいんだ、僕も厳しいこと言ってごめんよ。
 真琴が嫌な思いをするなんてこと、金輪際まっぴらなんだ。
 絶対に、そんなことがあっても絶対に僕が護るからな!」

 そんな意気込みを口に出して自分へ言い聞かせると、いつものようにチャーシをお供に三人で屋敷を出発した。
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