『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
上 下
5 / 63
第一章 終わりと始まり

5.リスタート

しおりを挟む
 くたびれた和室で角を生やした三人の魔族が座卓を囲んでいる姿はなかなかにシュールだ。ここまで来たらもう事実だと認識するしかなかった。緊張している僕の気持ちを置いてきぼりにするかのように、真琴は大はしゃぎだ。

「早く、早くー
 マコは早く魔法少女になりたい!
 ワクワクで楽しみしかないよー」

「それじゃ早速トラスへ行きましょうか。
 最初はアタシも一緒に行ってあげるからね。
 この家の荷物は屋敷へ転送するから片づけは自分たちでやるのよ?
 これで地球とはサヨナラだけど、他に何か質問は?」

「異世界ってことは電気は通ってないですよね?
 物騒な事とか命の危険とかどんな感じですか?
 それと生活費本当に送って下さいよ?」

「平気平気、屋敷に置いてある説明書読めば全部わかるから心配しないで。
 ただ今使ってるスマホは契約があるじゃない?
 そんな風に地球と結びつきのあるものは消えて無くなってしまうから勘弁してね
 それにしても随分と心配性ね、というか小心者?」

「違います! 真琴に何かあったら大変だから事前に確認してるんです!
 危険がないならそれでいい、正直まだ戸惑ってますけど……」

「あ、そうだ! ドーンさん、マコの髪の毛をピンクにはできないの?
 お兄ちゃんは何色がいいかなー」

「真琴はピンクの髪の毛がいいの?
 それじゃ向こうについたらピンクになるようにしておくね。
 雷人はなにか容姿に希望ある? 瞳の色とかも変えてあげられるわよ?」

「はーいはーい! マコはブルーの瞳がイイ!
 お兄ちゃんも同じ色にして、髪の毛はねえ、赤がイイかな。
 それでそれでマコはナイスバディてお兄ちゃんは細マッチョ!」

「こら、調子のるなっての。
 僕はこのままでいいですから。
 真琴だってそんな派手にしたら恥ずかしいぞ?」

「そんなことないわよ?
 魔族の中でも魔人は結構カラフルだから村にも大勢いるわ。
 獣人族も結構色とりどりね、ガーゴイル族やデーモン族は地味かしら。
 人間族は地味で黒とか茶色っぽい子が多いわね」

「はあ、そんなもんですかね。
 それならマコの好きにしてやってもいいかな。
 僕もそういうの嫌いじゃないし、って魔法少女じゃなくてファンタジーのことだからな?」

「それじゃ意見もまとまったところで行きましょうか。
 始まりの村、村へ!」

「コ村!? ってまた随分安直な――」

 とまあ、直前のドタバタを経て、僕たちは兄妹はいよいよトラスと言う世界へと連れて行かれることになった。本当に騙されてるんじゃなければこれで地球と別れて異世界で再スタートとなる。僕は大きく深呼吸をしてその時に備えようとした、のだが、瞬きをしたかどうかのうちに知らない家の中へと移動していた。

「はやっ! 一瞬だったねえ!
 ってお兄ちゃん!? あはははっ、本当に髪の毛赤くて目が青くなってる! すごっ!
 マコも変わってる? ねえ、かわいくなった?」

「そ、そうだな、やっぱりこれは派手過ぎたんじゃないか?
 マジであり得ない色してるぞ……」

「それにしても部屋は十もないなんて言ってましたけどまさかねえ。
 こんな窓もない空っぽの部屋しかないとは思って無かったですよ。
 壁を付けたりして部屋割りしないと住みづらいなこりゃ」

「雷人は何を言ってるの?
 ここは物置よ? あの家の荷物は全部置いたから確認しておいてね。
 自分たちの部屋はどこでも好きに決めなさい。
 ここは地下で、この部屋と食料庫に工房と道具部屋、後は使用人室がいくつかあるはず。
 一階は玄関とリビングにダイニング、ダンスホールとキッチンにええっと…… 忘れたわ。
 寝室と客間は二階よ」

「でも十部屋もないって言ってたじゃないですか。
 寝室がそんなにないって意味ですか?」

「違うわ、十や二十なんてことはなくてもっとあるって言ったのよ。
 真琴は広すぎて怖くなっちゃった?」

「ううん! ワクワクしてきた!
 早く見てまわりたいなー、そんでお部屋決めて片づけして飾りつけしてー
 前の家は狭くてお兄ちゃんと一緒だったから。
 でも寝るのは一緒が良いなぁ」

「部屋が何十もあるのになんで一緒に寝るんだよ……
 こりゃ広すぎて落ち着かないし防犯とか考えると持て余しそうだな」

「まあその辺は説明書見たら解決することもあるわ。
 孫のためにってダイキが色々と書き残してあるんだからさ。
 それよりも預かった遺産はもう一つあるのよ?」

「そう言えば二つって言ってましたけど、土地と建物かと思ってました
 この屋敷と土地の他になにかあるんですか?」

「じゃあその辺りは上に行ってから説明しようかしら。
 本当は説明書を読むだけでもわかりそうだけど、渡すまでが契約だしね。
 それにこのまま放り出すのも気が引けるわ」

 ドーンはそう言うと今いる倉庫を出て行った。僕と真琴はその後ろについて部屋を出たのだが、廊下が真っ直ぐ続いていて相当な広さだとわかる。出たところから反対側の壁に向かって歩くと半分ほどのところに階段があり、そこまでにはいくつかの部屋があった。

 階段を上って一階へ行くとドデカい玄関ホールが有り、そこから両側へ廊下が続いている。玄関は吹き抜けになっていて、劇団のポスターにでもなりそうな赤絨毯敷きの階段と沢山の蝋燭が乗ったシャンデリア、さらにはいくつもの甲冑が並べられている。

 玄関ホールから一番近いところには執務室と言う部屋が有り、ドーンからは祖父が普段仕事をしていた部屋だと説明された。

 それを聞くと、急にこの屋敷が身近なものに感じてくるのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...