『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
上 下
4 / 63
第一章 終わりと始まり

4.目の前の悪魔

しおりを挟む
 目の前にいる、さっきまで弁護士だった女性は明らかに人間ではないように見える。足が震えているのが自分でもわかるが、ビビッているなんて真琴にバレるわけにはいかない。

「ドーンさん? その角って本物なの?
 なんかお話に出てくる悪魔みたいだけど……」

「やめろ真琴、そいつに話しかけるんじゃない。
 本物の悪魔かもしれないぞ!?」

「あーら失礼ね、かもしれないじゃなくてれっきとした本物よ?
 とは言っても別に悪人のつもりではないけどね。
 地球みたいに天神信仰が優勢な世界だと悪魔なんて呼ばれがちだけどさ。
 正式には魔神と天神だから勘違いしないでよね」

「魔神…… 神様なんですか?
 じゃあ僕たちに危害を加えるつもりはないと?」

「ないない、善悪は人間たちが勝手に決めるものであってアタシたちには存在しない概念よ?
 魔神を敬う子たちにとってはアタシたちが善だし、もちろんその逆も然り。
 まあ話として作りやすいのは天と地、光と闇、そして善と悪みたいな?」

「はあ、大体そんなもんですね……
 というかドーンさんは本物の、その、魔神? なんですか?」

「だからそう言ってるじゃないの。
 8年前にダイキと契約してトラスへ連れて行ったのもアタシ。
 その頃はまだ下級魔神として死後の魂を回収する仕事をしてたからね。
 詳しくは省くけど、そこで仕事をしてもらったから報酬を与えたの」

「それがあの家ですか。
 でも僕たちがそのトラスって言う別の世界へ引っ越すこと前提ですよね?
 偶然親父が急死して母さんも家出してたから助かりますけど……」

「ダイキはさ、予見してたんでしょ。
 自分の息子はダメ人間だって良く話してくれたもの。
 いざってときには孫を助けたかったんだと思うわ。
 何事もなければ今みたいなことにならなかったんだし。
 だからあなた達が困らないように財産を残してアタシに託したわけ」

「今みたいなことって…… でもなんでいきなり正体を明かしたんですか?
 急に角なんて生えたら驚くに決まってますよ」

「でもお兄ちゃんにも角が生えてるよ?
 もしかしてマコにも生えてる?」

 真琴に言われて横を見ると、羊のように曲がりくねった角を生やした真琴が座っている。慌てて自分の頭を触るとどう考えても角としか思えない固い感触が手に触れた。

「うわああ、なんだこりゃ!?
 僕も悪魔になっちまったのか!?」

「だから悪魔じゃなくて魔神って言ってたじゃない。
 でもお兄ちゃんのはどっちかというと鬼みたいだね」

「同族には隠蔽魔術が効かないからアタシの角が見えるようになったってわけ。
 でね、角の生え方には個人差があるのよ?
 肉体派は直線的、魔術派は湾曲的な形状が多いって言われてるの。
 きっと真琴は魔術系ね」

「えー!? マコったら魔法少女になれちゃうの!
 やったー!」

「―― って! 二人とも! そう言うことじゃないだろ!
 僕たちは人間じゃなくなっちゃったってことか?
 こんな姿でどうやって生きて行けばいいんだよ……
 ドーンさんなら元に戻せるんだろ? 頼むよ!」

「あれ? 気に入らなかった?
 トラスで暮らすなら魔族じゃないと色々不便だと思うわよ?
 天神信仰は風前の灯だから加護もほぼ無いしね。
 もちろん魔術は魔族にしか使えないし、肉体的にも優れてるんだから」

「だからって何の説明もなしに突然こんな事するなんて……
 と言うか、トラスへ移住するのは決定、なんですかね……?」

「いいじゃん、マコはお兄ちゃんと二人で引っ越すの楽しみ♪
 マコがちゃんと面倒見てあげるからね」

「真琴が乗り気だから決まったのかと思って指輪をはめてもらったんだけど?
 あれがアタシとの契約の証ってわけ。
 あなた達は神じゃなくて人だから魔人ってことになるけどね。
 でもおまけで普通の人よりも強くしておいてあげる、いわゆる転生チートってやつ?」

「転生ってことは生まれ変わるってことですか?
 真琴とは離れ離れになるってことじゃないですよね?」

「そこは希望次第だけど、二人ともゼロからの転生は望んでないでしょ?
 本当は魂を別の世界へ移す時には記憶はすべて消すのよ。
 でも今回はダイキとの契約だから特例で今のまま送ってあげる。
 その代わりってこともないけど、地球にいた痕跡は全て消えるけど構わないわね?」

「お母さんのことも……? マコが忘れちゃう?
 それとも向こうがマコの事忘れちゃうの?」

「向こうが真琴を産んでないことになる、かな。」

「それじゃマコを棄てたお母さんは存在しないってことになるんだね!
 酔っぱらって叩いてきたお父さんも!
 マコには優しいお兄ちゃんだけいればいいもん!」

「真琴…… 今まで守りきれなくてゴメンな。
 これからは僕に任せとけ、一緒に幸せになろう」

「うん、だって夫婦だもんね」

「いや、それは違うが……」

 念のため指輪を引っ張ってみるがビクともしない。どうやら指と一体化してしまっているようだ。それでも真琴はニコニコとご機嫌で微笑んでいる。

「まあトラスには夫婦で指輪を交換するなんて習慣はないから気にしないで平気よ。
 あれは天神信仰がお布施を集めるための口実だからね。
 奴らは金の亡者なのよ、何かにつけて金品を要求するのは天神信仰の特徴だわ」

「ま、魔神信仰でしたっけ? こっちは生贄とかのイメージ有りますけど……」

「あなた聖書読んだことないでしょ、生贄も天神の要求よ?
 魔神信仰だと魂を貰って契約するくらいかしらね。
 しかもそれは魂の死が来るまでで強制的に取り上げたりはしないし。
 ダイキは地球時間の8年前に転生して109歳まで生きたからね。
 魂の回収にずいぶん時間がかかったわ」

「そうか、爺ちゃんは次の人生で長生きできたんだな。
 なんだか安心したよ」

 僕はいつの間にかこのドーンの言うことを信用するようになっていた。まあ信用するなと言っても、自分の頭に生えた角がそれを許してくれないのだが…… それにしても、こんな馬鹿げたことをあっさりと受け入れている真琴が少しだけ羨ましかった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...