2 / 63
第一章 終わりと始まり
2.怪しい弁護士
しおりを挟む
翌日、朝食を用意してから真琴を起こして学校へと送り出そうとした僕は、家の前を走っている道路の向こう側からこちらを見ている女性に気が付いた。ビジネススーツ姿だし銀行が手配した不動産業者か何かだろうか。そんなことを考えていると、この家を出て行かないといけないことの現実味が強まってくる。しかしその女性は不動産業者ではなかった。
「ハーイ、君が雷人ね。
アタシはドーン・セリウス、ドーンでいいわ。
そちらのかわいい子は妹さん? お名前は?」
「えっと、マコ、真琴です。
ドーンさんって外国人なのに金髪じゃないの?」
「ウフフ、別に全員ブロンドってわけじゃないのよ?
レッドとかピンクとかブルーもいるんだから」
「すごーい! 魔法少女みたいだね。
あ、そろそろ学校…… お兄ちゃん、行かないとダメ?」
「うーん、まあ仕方ないか。
じゃあドーンさんも中へどうぞ、書類は出してあります」
そう言ってから三人で家の中へと入っていったのだが、昨日電話で話をしてからまだ八時間程度しか経っていない。いったいどういうことなんだ?
そんなことを考えつつも、名刺に書いてあった住所にいたとは限らないと思い、深く考えるのはやめることにした。学校を休みたくて仕方なかった真琴は喜んで来客用のお菓子を用意している。僕はお湯を沸かして紅茶を準備した。
「それにしても随分早く連絡してきたわね。
落ち着いたころにこちらからしようと思ってたんだけど、もしかして切羽詰ってる?」
「はあ、実はこの家を売らないといけなくて、色々忙しいんです。
それで少しでもお金になるものがあればと思って見つけたのがこの書類なんですけど……
少なくともニューヨークからすぐに飛んでくるくらいだし無価値ではないんですよね?」
「なんとも言えないわね。
実は私って表向きは弁護士なんだけど、他にも仕事をしていてね。
その仕事を、八年前ダイキに手伝ってもらったことがあるのよ。
その時に得た物を遺産として孫へ残したいって言われて預かっていたってわけ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、祖父は八年前に亡くなったんですよ?
それまでずっと家にいて店でラーメン作ってました。
仕事でアメリカへ行ったなんてあり得ません」
「ああ、仕事で行ったのはアメリカではないわ。
トラスってところなんだけど知らないわよね?
この契約書もそこの現地語で書かれているのよ。
ダイキは頑張ってくれたわ、三十七年くらいかかったかしらね」
「えっ? 今なんて? さっきも言いましたけど祖父が亡くなってから八年ですよ?
三十七年なんて言ったら僕や真琴どころか親父も産まれたくらいの年です。
祖父が僕たちへ遺産を残すなんて不可能じゃないですか。
ふざけないでちゃんと説明してください!」
ドーンという弁護士の言葉に、もしくは僕の荒げた声に怯えたのか、真琴が袖口を掴んでいる。この弁護士は頭がおかしいんじゃないだろうか。しかしそう思った僕たちへ真面目な顔をして再び説明を始めた。
「念のために言っておくけどアタシは嘘なんて言ってないし頭も正常よ。
でも信じられないのも無理はないわ。
まず前提としてトラスとここでは時間の流れが違うの、大体百倍くらいかな。
あとね、アタシはなにも生きている時に、とは言っていないわ」
「そ、そんなのますますわかりませんよ、子供だと思ってバカにしているんですか!?
死後の世界があるとでも言いたいんですか?」
「そうね、あると言えばあるし、死後ではなく生き返ったとも言えるかな。
二人はファンタジー映画とかゲームは知っているかしら?
Lord of the Amulets, Dungeons and Magic, Wiz Warriorとか」
「はあ、それくらい知ってます。
それがどうかしたんですか?」
ゲーム等に詳しくない真琴は首を振っているが、その瞳はこのドーンと言う怪しげな女をじっと見つめている。きっと僕と同じように胡散臭いと思っているのだろう。
「そう言う世界が実際にあるんだけど、ダイキにはそこへ行ってもらってたってこと。
信じられないかもしれないけど、そこでアタシの代わりに戦ってもらったの。
この地球で死んでしまった後にね」
「ふ、ふ、ふざけ――」
僕はからかわれた怒りと今後の不安からとても言葉にならず、ドーンをにらみつけるのだった。
「ハーイ、君が雷人ね。
アタシはドーン・セリウス、ドーンでいいわ。
そちらのかわいい子は妹さん? お名前は?」
「えっと、マコ、真琴です。
ドーンさんって外国人なのに金髪じゃないの?」
「ウフフ、別に全員ブロンドってわけじゃないのよ?
レッドとかピンクとかブルーもいるんだから」
「すごーい! 魔法少女みたいだね。
あ、そろそろ学校…… お兄ちゃん、行かないとダメ?」
「うーん、まあ仕方ないか。
じゃあドーンさんも中へどうぞ、書類は出してあります」
そう言ってから三人で家の中へと入っていったのだが、昨日電話で話をしてからまだ八時間程度しか経っていない。いったいどういうことなんだ?
そんなことを考えつつも、名刺に書いてあった住所にいたとは限らないと思い、深く考えるのはやめることにした。学校を休みたくて仕方なかった真琴は喜んで来客用のお菓子を用意している。僕はお湯を沸かして紅茶を準備した。
「それにしても随分早く連絡してきたわね。
落ち着いたころにこちらからしようと思ってたんだけど、もしかして切羽詰ってる?」
「はあ、実はこの家を売らないといけなくて、色々忙しいんです。
それで少しでもお金になるものがあればと思って見つけたのがこの書類なんですけど……
少なくともニューヨークからすぐに飛んでくるくらいだし無価値ではないんですよね?」
「なんとも言えないわね。
実は私って表向きは弁護士なんだけど、他にも仕事をしていてね。
その仕事を、八年前ダイキに手伝ってもらったことがあるのよ。
その時に得た物を遺産として孫へ残したいって言われて預かっていたってわけ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、祖父は八年前に亡くなったんですよ?
それまでずっと家にいて店でラーメン作ってました。
仕事でアメリカへ行ったなんてあり得ません」
「ああ、仕事で行ったのはアメリカではないわ。
トラスってところなんだけど知らないわよね?
この契約書もそこの現地語で書かれているのよ。
ダイキは頑張ってくれたわ、三十七年くらいかかったかしらね」
「えっ? 今なんて? さっきも言いましたけど祖父が亡くなってから八年ですよ?
三十七年なんて言ったら僕や真琴どころか親父も産まれたくらいの年です。
祖父が僕たちへ遺産を残すなんて不可能じゃないですか。
ふざけないでちゃんと説明してください!」
ドーンという弁護士の言葉に、もしくは僕の荒げた声に怯えたのか、真琴が袖口を掴んでいる。この弁護士は頭がおかしいんじゃないだろうか。しかしそう思った僕たちへ真面目な顔をして再び説明を始めた。
「念のために言っておくけどアタシは嘘なんて言ってないし頭も正常よ。
でも信じられないのも無理はないわ。
まず前提としてトラスとここでは時間の流れが違うの、大体百倍くらいかな。
あとね、アタシはなにも生きている時に、とは言っていないわ」
「そ、そんなのますますわかりませんよ、子供だと思ってバカにしているんですか!?
死後の世界があるとでも言いたいんですか?」
「そうね、あると言えばあるし、死後ではなく生き返ったとも言えるかな。
二人はファンタジー映画とかゲームは知っているかしら?
Lord of the Amulets, Dungeons and Magic, Wiz Warriorとか」
「はあ、それくらい知ってます。
それがどうかしたんですか?」
ゲーム等に詳しくない真琴は首を振っているが、その瞳はこのドーンと言う怪しげな女をじっと見つめている。きっと僕と同じように胡散臭いと思っているのだろう。
「そう言う世界が実際にあるんだけど、ダイキにはそこへ行ってもらってたってこと。
信じられないかもしれないけど、そこでアタシの代わりに戦ってもらったの。
この地球で死んでしまった後にね」
「ふ、ふ、ふざけ――」
僕はからかわれた怒りと今後の不安からとても言葉にならず、ドーンをにらみつけるのだった。
88
お気に入りに追加
1,734
あなたにおすすめの小説

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる