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第一章 終わりと始まり
2.怪しい弁護士
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翌日、朝食を用意してから真琴を起こして学校へと送り出そうとした僕は、家の前を走っている道路の向こう側からこちらを見ている女性に気が付いた。ビジネススーツ姿だし銀行が手配した不動産業者か何かだろうか。そんなことを考えていると、この家を出て行かないといけないことの現実味が強まってくる。しかしその女性は不動産業者ではなかった。
「ハーイ、君が雷人ね。
アタシはドーン・セリウス、ドーンでいいわ。
そちらのかわいい子は妹さん? お名前は?」
「えっと、マコ、真琴です。
ドーンさんって外国人なのに金髪じゃないの?」
「ウフフ、別に全員ブロンドってわけじゃないのよ?
レッドとかピンクとかブルーもいるんだから」
「すごーい! 魔法少女みたいだね。
あ、そろそろ学校…… お兄ちゃん、行かないとダメ?」
「うーん、まあ仕方ないか。
じゃあドーンさんも中へどうぞ、書類は出してあります」
そう言ってから三人で家の中へと入っていったのだが、昨日電話で話をしてからまだ八時間程度しか経っていない。いったいどういうことなんだ?
そんなことを考えつつも、名刺に書いてあった住所にいたとは限らないと思い、深く考えるのはやめることにした。学校を休みたくて仕方なかった真琴は喜んで来客用のお菓子を用意している。僕はお湯を沸かして紅茶を準備した。
「それにしても随分早く連絡してきたわね。
落ち着いたころにこちらからしようと思ってたんだけど、もしかして切羽詰ってる?」
「はあ、実はこの家を売らないといけなくて、色々忙しいんです。
それで少しでもお金になるものがあればと思って見つけたのがこの書類なんですけど……
少なくともニューヨークからすぐに飛んでくるくらいだし無価値ではないんですよね?」
「なんとも言えないわね。
実は私って表向きは弁護士なんだけど、他にも仕事をしていてね。
その仕事を、八年前ダイキに手伝ってもらったことがあるのよ。
その時に得た物を遺産として孫へ残したいって言われて預かっていたってわけ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、祖父は八年前に亡くなったんですよ?
それまでずっと家にいて店でラーメン作ってました。
仕事でアメリカへ行ったなんてあり得ません」
「ああ、仕事で行ったのはアメリカではないわ。
トラスってところなんだけど知らないわよね?
この契約書もそこの現地語で書かれているのよ。
ダイキは頑張ってくれたわ、三十七年くらいかかったかしらね」
「えっ? 今なんて? さっきも言いましたけど祖父が亡くなってから八年ですよ?
三十七年なんて言ったら僕や真琴どころか親父も産まれたくらいの年です。
祖父が僕たちへ遺産を残すなんて不可能じゃないですか。
ふざけないでちゃんと説明してください!」
ドーンという弁護士の言葉に、もしくは僕の荒げた声に怯えたのか、真琴が袖口を掴んでいる。この弁護士は頭がおかしいんじゃないだろうか。しかしそう思った僕たちへ真面目な顔をして再び説明を始めた。
「念のために言っておくけどアタシは嘘なんて言ってないし頭も正常よ。
でも信じられないのも無理はないわ。
まず前提としてトラスとここでは時間の流れが違うの、大体百倍くらいかな。
あとね、アタシはなにも生きている時に、とは言っていないわ」
「そ、そんなのますますわかりませんよ、子供だと思ってバカにしているんですか!?
死後の世界があるとでも言いたいんですか?」
「そうね、あると言えばあるし、死後ではなく生き返ったとも言えるかな。
二人はファンタジー映画とかゲームは知っているかしら?
Lord of the Amulets, Dungeons and Magic, Wiz Warriorとか」
「はあ、それくらい知ってます。
それがどうかしたんですか?」
ゲーム等に詳しくない真琴は首を振っているが、その瞳はこのドーンと言う怪しげな女をじっと見つめている。きっと僕と同じように胡散臭いと思っているのだろう。
「そう言う世界が実際にあるんだけど、ダイキにはそこへ行ってもらってたってこと。
信じられないかもしれないけど、そこでアタシの代わりに戦ってもらったの。
この地球で死んでしまった後にね」
「ふ、ふ、ふざけ――」
僕はからかわれた怒りと今後の不安からとても言葉にならず、ドーンをにらみつけるのだった。
「ハーイ、君が雷人ね。
アタシはドーン・セリウス、ドーンでいいわ。
そちらのかわいい子は妹さん? お名前は?」
「えっと、マコ、真琴です。
ドーンさんって外国人なのに金髪じゃないの?」
「ウフフ、別に全員ブロンドってわけじゃないのよ?
レッドとかピンクとかブルーもいるんだから」
「すごーい! 魔法少女みたいだね。
あ、そろそろ学校…… お兄ちゃん、行かないとダメ?」
「うーん、まあ仕方ないか。
じゃあドーンさんも中へどうぞ、書類は出してあります」
そう言ってから三人で家の中へと入っていったのだが、昨日電話で話をしてからまだ八時間程度しか経っていない。いったいどういうことなんだ?
そんなことを考えつつも、名刺に書いてあった住所にいたとは限らないと思い、深く考えるのはやめることにした。学校を休みたくて仕方なかった真琴は喜んで来客用のお菓子を用意している。僕はお湯を沸かして紅茶を準備した。
「それにしても随分早く連絡してきたわね。
落ち着いたころにこちらからしようと思ってたんだけど、もしかして切羽詰ってる?」
「はあ、実はこの家を売らないといけなくて、色々忙しいんです。
それで少しでもお金になるものがあればと思って見つけたのがこの書類なんですけど……
少なくともニューヨークからすぐに飛んでくるくらいだし無価値ではないんですよね?」
「なんとも言えないわね。
実は私って表向きは弁護士なんだけど、他にも仕事をしていてね。
その仕事を、八年前ダイキに手伝ってもらったことがあるのよ。
その時に得た物を遺産として孫へ残したいって言われて預かっていたってわけ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、祖父は八年前に亡くなったんですよ?
それまでずっと家にいて店でラーメン作ってました。
仕事でアメリカへ行ったなんてあり得ません」
「ああ、仕事で行ったのはアメリカではないわ。
トラスってところなんだけど知らないわよね?
この契約書もそこの現地語で書かれているのよ。
ダイキは頑張ってくれたわ、三十七年くらいかかったかしらね」
「えっ? 今なんて? さっきも言いましたけど祖父が亡くなってから八年ですよ?
三十七年なんて言ったら僕や真琴どころか親父も産まれたくらいの年です。
祖父が僕たちへ遺産を残すなんて不可能じゃないですか。
ふざけないでちゃんと説明してください!」
ドーンという弁護士の言葉に、もしくは僕の荒げた声に怯えたのか、真琴が袖口を掴んでいる。この弁護士は頭がおかしいんじゃないだろうか。しかしそう思った僕たちへ真面目な顔をして再び説明を始めた。
「念のために言っておくけどアタシは嘘なんて言ってないし頭も正常よ。
でも信じられないのも無理はないわ。
まず前提としてトラスとここでは時間の流れが違うの、大体百倍くらいかな。
あとね、アタシはなにも生きている時に、とは言っていないわ」
「そ、そんなのますますわかりませんよ、子供だと思ってバカにしているんですか!?
死後の世界があるとでも言いたいんですか?」
「そうね、あると言えばあるし、死後ではなく生き返ったとも言えるかな。
二人はファンタジー映画とかゲームは知っているかしら?
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「はあ、それくらい知ってます。
それがどうかしたんですか?」
ゲーム等に詳しくない真琴は首を振っているが、その瞳はこのドーンと言う怪しげな女をじっと見つめている。きっと僕と同じように胡散臭いと思っているのだろう。
「そう言う世界が実際にあるんだけど、ダイキにはそこへ行ってもらってたってこと。
信じられないかもしれないけど、そこでアタシの代わりに戦ってもらったの。
この地球で死んでしまった後にね」
「ふ、ふ、ふざけ――」
僕はからかわれた怒りと今後の不安からとても言葉にならず、ドーンをにらみつけるのだった。
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