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第一章 終わりと始まり
1.親父死す
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『キキー! グワッシャァーン!』
家の前で親父が死んだ。酒を買いに行くと言って家を出たところで心臓麻痺を起したらしい。挙句の果てに道路で倒れてたもんだから避けようとした車は自損事故を起こしてしまい迷惑をかけてしまった。まったく最後まで迷惑ばかりかけやがって……
その三十分ほど前――
「おい雷人、酒が無くなっちまったから買って来い。
コンビニなら開いてるだろ?」
「ふざけんな、未成年には売ってくれねえよ。
飲みたきゃ自分で行って来い。
店で出す分まで飲みきりやがって、このクソオヤジが!」
「なんだとごらあ! 親に向かってなんて口利きやがる!
じゃあ真琴を連れて行ってくるか。
ほうら、お菓子買ってやるから一緒に行こうな」
「こんな遅い時間に小学生連れまわすんじゃねえ!
一人で勝手に行って来い! もう帰ってこなくていいぞ!」
「カーッ、生意気なクソガキが!」
こうして出かけて行った親父は、その直後、家の前の道路で倒れていたのだ。倒れていた親父を避けて事故った人が救急車を呼んでくれたがすでに手遅れで、僕と妹の真琴(まこと)は、後日その人が入院した病院まで謝りに行って恥ずかしい思いをした。
死亡届の提出だとか口座凍結だとか家の相続だとかあれこれと役所の手続きが必要で学校へも行けやしないし、もちろん家業のラーメン屋も開店休業状態だ。そんな時、取引銀行から連絡が有り出向いた僕は衝撃の事実を告げられた。
「それでですね…… 小村さんには貸付金が残っておりまして……
はい、ええっと、事業用資金として現在約九百万円残っております。
毎月利子分はお支払いただいておりましたが……」
頭の中が真っ白になった僕はろくに話も聞いておらず、持たせてもらった明細を家で再確認し始めて理解できた。要は建物は古くて評価マイナス、土地を売却すれば現金が少しくらい得られるらしい。しかし仕入れ分の支払いが二か月遅れでやってくるので、それを支払ったらほんのわずかしか残らない計算だ。
「真琴、よく聞いてくれ、実はなカクカクシカジカで――
だからこれから家の中を隅から隅まで探して金目のもんを探すんだ、いいか?」
「お兄ちゃん、マコわかった!
金の延べ棒とかを見つければいいんだね!」
「ま、まあ見つかったら万々歳だけどな。
僕は1階を探すから真琴は2階を頼むよ」
とまあ数時間かけて家探しして見つかったのは、黒い石の嵌め込まれたいかにも安物のペアリングと何語で書かれているのかわからない書類、そしてこの家の権利書くらいだった。幸いにも売上金が数万あるし、僕の貯金も合わせれば今月くらいは乗り切れるはず。住む場所を探すのは競売で買い手がついてからでいいらしいが猶予があるわけではない。
それにしてもクソ親父の奴、最後の最後まで迷惑かけやがって頭にくる。怠け者の親父に愛想尽かして三年前に男作って出て行った母さんが正しかったのかもしれないが、あれから酒におぼれるようになったのだから同罪みたいなもんだ。
口先でごめんねと言いながら娘を抱きしめた母さんに向かって、置いて行かないでと泣きわめいていた真琴の顔は今でも忘れられない。あの日僕だけはそんな目にあわせないと誓ったのだ。だからまずは出来ることをやって行くしかない、そう思った僕は謎の書類に挟まっていた名刺を見つめた。
英語で書かれている名刺にはニューヨークと書かれている。ということは海外の誰かと言うことになるのだが、契約書のような書類には祖父の氏名が漢字で書かれていた。祖父は海外なんて行ったこと無いはずなのに一体どういうことだろうか。時差を考えると向こうは朝のようなので思い切ってかけてみることにした。
『プルルルループルルルループルッ』
「は、はろー? マイネームイズコムラ、アンダスタン?」
「Oh, Mr. Komura? Your voice sounds younger, doesn't it?
Is that your grandson?
日本語のほうがいいかしら?
国際電話だから掛け直すわね」
「は、はい、お願いします」
僕は真琴のほうを向いて説明しようとするが、すぐに折り返しの電話があったので説明するよりもハンズフリーにして二人で聞きながら話すことにした。
「ハロー、ダイキのお孫さんかしら?
良く考えたら彼はとっくに亡くなっているものね。
もしかして契約書を見つけて連絡をくれたのかしら?」
「は、はい、僕は小村雷人と言って大樹の孫になります。
実は父親が亡くなりまして、家の中を整理していたら名刺が出て来て……」
「OKOK、それじゃ会って説明するから明日伺うわね。
自宅は例の用水路のところで変わりないわよね?」
「例の? あ、はい、そこのラーメン屋です。
でも明日で平気なんですか? そこってニューヨークですよね?」
「No problem, you can start now if you want.
But I have a date tonight, so I'll see you tomorrow.
ええっと、とにかく明日伺うわね、それじゃ会えるのを楽しみにしているわ」
慌ただしく説明され圧倒されているうちに会話は終わってしまった。どうやら本当に明日日本までくるようだ。それほど重大なことが書かれているのだろうか。何が書かれているのか単語を拾おうにも、英語では無いみたいでさっぱりわからない。
「ねえお兄ちゃん、何言ってるか全然分からなかったね。
明日来ることだけはわかったけど、何時頃来るのかな?」
「さあ? 何時間くらいかかるか調べてみるか。
えっと…… 十五時間くらいかかるみたいだな。
ってことはどんなに早くても明後日だろ
だからって遅くまで起きてていいわけじゃないぞ?
早く風呂入って寝るんだよ?」
「それじゃお兄ちゃん、一緒に入ろ!」
「どさくさになに言ってんだ!?
兄をからかうんじゃないってば!」
僕が慌てて言い返すと、真琴はニィっと歯を見せて笑いながら自分の部屋へと駈け出して行った。
家の前で親父が死んだ。酒を買いに行くと言って家を出たところで心臓麻痺を起したらしい。挙句の果てに道路で倒れてたもんだから避けようとした車は自損事故を起こしてしまい迷惑をかけてしまった。まったく最後まで迷惑ばかりかけやがって……
その三十分ほど前――
「おい雷人、酒が無くなっちまったから買って来い。
コンビニなら開いてるだろ?」
「ふざけんな、未成年には売ってくれねえよ。
飲みたきゃ自分で行って来い。
店で出す分まで飲みきりやがって、このクソオヤジが!」
「なんだとごらあ! 親に向かってなんて口利きやがる!
じゃあ真琴を連れて行ってくるか。
ほうら、お菓子買ってやるから一緒に行こうな」
「こんな遅い時間に小学生連れまわすんじゃねえ!
一人で勝手に行って来い! もう帰ってこなくていいぞ!」
「カーッ、生意気なクソガキが!」
こうして出かけて行った親父は、その直後、家の前の道路で倒れていたのだ。倒れていた親父を避けて事故った人が救急車を呼んでくれたがすでに手遅れで、僕と妹の真琴(まこと)は、後日その人が入院した病院まで謝りに行って恥ずかしい思いをした。
死亡届の提出だとか口座凍結だとか家の相続だとかあれこれと役所の手続きが必要で学校へも行けやしないし、もちろん家業のラーメン屋も開店休業状態だ。そんな時、取引銀行から連絡が有り出向いた僕は衝撃の事実を告げられた。
「それでですね…… 小村さんには貸付金が残っておりまして……
はい、ええっと、事業用資金として現在約九百万円残っております。
毎月利子分はお支払いただいておりましたが……」
頭の中が真っ白になった僕はろくに話も聞いておらず、持たせてもらった明細を家で再確認し始めて理解できた。要は建物は古くて評価マイナス、土地を売却すれば現金が少しくらい得られるらしい。しかし仕入れ分の支払いが二か月遅れでやってくるので、それを支払ったらほんのわずかしか残らない計算だ。
「真琴、よく聞いてくれ、実はなカクカクシカジカで――
だからこれから家の中を隅から隅まで探して金目のもんを探すんだ、いいか?」
「お兄ちゃん、マコわかった!
金の延べ棒とかを見つければいいんだね!」
「ま、まあ見つかったら万々歳だけどな。
僕は1階を探すから真琴は2階を頼むよ」
とまあ数時間かけて家探しして見つかったのは、黒い石の嵌め込まれたいかにも安物のペアリングと何語で書かれているのかわからない書類、そしてこの家の権利書くらいだった。幸いにも売上金が数万あるし、僕の貯金も合わせれば今月くらいは乗り切れるはず。住む場所を探すのは競売で買い手がついてからでいいらしいが猶予があるわけではない。
それにしてもクソ親父の奴、最後の最後まで迷惑かけやがって頭にくる。怠け者の親父に愛想尽かして三年前に男作って出て行った母さんが正しかったのかもしれないが、あれから酒におぼれるようになったのだから同罪みたいなもんだ。
口先でごめんねと言いながら娘を抱きしめた母さんに向かって、置いて行かないでと泣きわめいていた真琴の顔は今でも忘れられない。あの日僕だけはそんな目にあわせないと誓ったのだ。だからまずは出来ることをやって行くしかない、そう思った僕は謎の書類に挟まっていた名刺を見つめた。
英語で書かれている名刺にはニューヨークと書かれている。ということは海外の誰かと言うことになるのだが、契約書のような書類には祖父の氏名が漢字で書かれていた。祖父は海外なんて行ったこと無いはずなのに一体どういうことだろうか。時差を考えると向こうは朝のようなので思い切ってかけてみることにした。
『プルルルループルルルループルッ』
「は、はろー? マイネームイズコムラ、アンダスタン?」
「Oh, Mr. Komura? Your voice sounds younger, doesn't it?
Is that your grandson?
日本語のほうがいいかしら?
国際電話だから掛け直すわね」
「は、はい、お願いします」
僕は真琴のほうを向いて説明しようとするが、すぐに折り返しの電話があったので説明するよりもハンズフリーにして二人で聞きながら話すことにした。
「ハロー、ダイキのお孫さんかしら?
良く考えたら彼はとっくに亡くなっているものね。
もしかして契約書を見つけて連絡をくれたのかしら?」
「は、はい、僕は小村雷人と言って大樹の孫になります。
実は父親が亡くなりまして、家の中を整理していたら名刺が出て来て……」
「OKOK、それじゃ会って説明するから明日伺うわね。
自宅は例の用水路のところで変わりないわよね?」
「例の? あ、はい、そこのラーメン屋です。
でも明日で平気なんですか? そこってニューヨークですよね?」
「No problem, you can start now if you want.
But I have a date tonight, so I'll see you tomorrow.
ええっと、とにかく明日伺うわね、それじゃ会えるのを楽しみにしているわ」
慌ただしく説明され圧倒されているうちに会話は終わってしまった。どうやら本当に明日日本までくるようだ。それほど重大なことが書かれているのだろうか。何が書かれているのか単語を拾おうにも、英語では無いみたいでさっぱりわからない。
「ねえお兄ちゃん、何言ってるか全然分からなかったね。
明日来ることだけはわかったけど、何時頃来るのかな?」
「さあ? 何時間くらいかかるか調べてみるか。
えっと…… 十五時間くらいかかるみたいだな。
ってことはどんなに早くても明後日だろ
だからって遅くまで起きてていいわけじゃないぞ?
早く風呂入って寝るんだよ?」
「それじゃお兄ちゃん、一緒に入ろ!」
「どさくさになに言ってんだ!?
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僕が慌てて言い返すと、真琴はニィっと歯を見せて笑いながら自分の部屋へと駈け出して行った。
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