国外追放された聖女、1000年引きこもる

わたあめ

文字の大きさ
上 下
2 / 5

2.

しおりを挟む
「少し良いでしょうか」

腰掛けたソファから立ち、私はため息を吐くように彼に問いかける。
国外追放を言い渡されたのだから、とっとと外に出れば良いのだろうが、私には最後にすべきことが残っていた。

「悪女と話すことなどないんだがな。まぁ、良い。置き土産の一つや二つ、許すとしよう」

「ありがとうございます」

「それで、どんな置き土産を残すんだ?」

その傲慢でいて高圧的な態度を崩さず、彼はソファに腰を下ろした。
彼は私を見上げているというのに、見下すような視線に少しばかりの不明瞭な感情が私の心の中で渦巻く。

これはどういった感情なのだろうか。
きっとこれは恨みや復讐心、そういう負の感情なんかじゃない。意地悪とか我儘とか、そういう自分本位の幼稚な感情だ。

そして、私は彼が視線を追うまま、その顔に近づき、一つ耳打ちをした。

「《アサナシア》」

と。
彼は驚きもせず、ただそれを受け止めるばかりだった。
だが、それで良い。私は最後に我儘な置き土産を残せたのだ。



私が城を出ると、陽気な日の光に加え、贅沢な観衆の視線がこちらを射していた。どうやら私の国外追放は周知されているらしい。
その中には親しかった者もいるが、私が聖女の座にいない今、それは関係の無いことだろう。どこかその視線は冷酷で浅はかであった。

「聖女を偽ってたんだって。それなのに国外追放で済むなんて...」

「そうだ、今回の処罰は甘すぎる。聖女を騙るやつなんか即刻死刑にされるべきだ!それなのに、アルヴィン様は一体何をお考えになっているのやら...」

「やっぱりあの魔法は見せかけだったのね。私はわかっていたけど」

周囲からブツブツと嫌みたらしい声が聞こえてくるが、彼らとの良好な関係が破綻した今、それはどうでも良いことだった。
それ以上に早くこの国から去りたい、という願いが強く出る。

行くあてもないのだけれど。

ただ、それがもうじき滅びる国に居たいと思う理由にはならないだろう。

私を引き止める者は誰も来ず。
かくして、私のアルヴィン国の聖女としての2年は呆気なく、終わってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女は寿命を削って王子を救ったのに、もう用なしと追い出されて幸せを掴む!

naturalsoft
恋愛
読者の方からの要望で、こんな小説が読みたいと言われて書きました。 サラッと読める短編小説です。 人々に癒しの奇跡を与える事のできる者を聖女と呼んだ。 しかし、聖女の力は諸刃の剣だった。 それは、自分の寿命を削って他者を癒す力だったのだ。 故に、聖女は力を使うのを拒み続けたが、国の王子が難病に掛かった事によって事態は急変するのだった。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

国護りの力を持っていましたが、王子は私を嫌っているみたいです

四季
恋愛
南から逃げてきたアネイシアは、『国護りの力』と呼ばれている特殊な力が宿っていると告げられ、丁重にもてなされることとなる。そして、国王が決めた相手である王子ザルベーと婚約したのだが、国王が亡くなってしまって……。

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

本当の聖女が現れたからと聖女をクビになって婚約破棄されました。なので隣国皇子と一緒になります。

福留しゅん
恋愛
辺境伯の娘でありながら聖女兼王太子妃となるべく教育を受けてきたクラウディアだったが、突然婚約者の王太子から婚約破棄される。なんでも人工的に聖女になったクラウディアより本当の聖女として覚醒した公爵令嬢が相応しいんだとか。別に王太子との付き合いは義務だったし散々こけにされていたので大人しく婚約破棄を受け入れたものの、王命で婚約続行される最悪の未来に不安になる。そこで父の辺境伯に報告したところ、その解決策として紹介されたのはかつてほのかに恋した隣国皇子だった――というお話。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...