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四章 結婚とそして
8.ジェレマイア領にて③(最終話)
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「見つけたぞ、キャメル!今までのことは許してやるから、そんな男よりも私の方に来い!」
と。
目の前で胸を仰け反らせたヒルトンが豪語した。
他人の華やかな舞台を汚したかと思えば、今度はそれを悪びれもなく、二度塗りするとは、些か疑問にしかならなかった。
「私がいつそんな悪事をしたのだろうか」と、キャメルは一つ頭を捻る。
辺りはヒソヒソとした話し声と少しばかりの黄色い歓声で包まれていた。
半分は変ないざこざに巻き込まれたと、もう半分は妄想的展開が来たとでも、思っているのだろう。
ホレイナもまた、あまりの不思議さに声を出せずにいるようだった。
「ヒルトン様は私を捨てたはずでしょう?そんなあなたの元に行く義理はありませんが」
「それは違う、捨ててなんか無い!現にこうして来たじゃないか」
「それは私のことを考えもしない、我儘のせいでしょう?私はもう、我儘ばかりに振り回されるだけの人生を歩みたくはないの」
「ちっ...」
ヒルトンが舌打ちを一つ挟むと、今度はホレイナの方を睨んだ。怒りの矛先はどうやら、ホレイナの方に向いたらしい。
「お前だ!お前がキャメルを騙したんだろう?!そうだ、そうに違いない!私というものが居ながら、他の男と婚約をするほど、こいつは馬鹿ではない。そうなんだろ、キャメル?お前はこいつに騙されているんだろう?」
キャメルの中でなにかがプツンと切れた。それでも、彼は言葉を続ける。
「キャメル、今ならお前を救ってやれる気がする。あの時とは違う。二人で手を取り合おうじゃないか。ジェレマイア領に帰ったら、特別に私の内室にしてやろう」
キャメルはどうやら、過去を美化していたらしい。
彼はこういう人だ。彼女が愛していたはずの男とは似ても似つかない、プライドばかりが高い、無責任で我儘な男なのだ。
過去の自分が愛した彼。それが幻想なら、過去の柵さえ清々しかった。
ヒルトンはキャメルに手を伸ばした。
「私の元に来てくれないか」
と。
観客のボルテージは最高潮だった。
そして、キャメルは彼のその手を払い除けた。
「結構です、私には大切な人がいるので」
彼女は行き場の無い彼の手に脇目もふらず、ホレイナの唇にキスをした。
ヒルトンに見せつけるように。
「ヒルトン様にいい事を教えてあげましょう。あなたの言いなりになるキャメルはもう居ません。そして、これがあなたとの最後の会話です、ヒルトン様」
「そ、そんな...。どうして...」
「あなたの後ろにいるお方に聞けば、分かるのではないでしょうか?」
ヒルトンは恐る恐る後ろを見て、ホルスが待機していたかのように立っていることに気付いた。
ヒルトンはハッとしたように戦慄し、恐怖にすくんだ表情を晒す。
その恐怖がどこから来たのかはおおよそ、推測できた。
彼はホルスに連れられ、この結婚式場の舞台から引き摺り降ろされた。きっと、この後は彼に悪い罰が下されるだろう。
彼は既に自分の罪を認めているのだから。
---
桜の花が散る頃。空は陽気にも朝日を出し、淡く薄い雲が散らばっていた。幼い子が絵に描いたようなそれは、門出の季節を彩るには美しく鮮明だ。
桜の花びらは宙を舞い、やがて私の手に落ちた。
━━煌びやかな春ね。これがずっと続けば良いのに。
「あなたもそう思うでしょう、ホレイナ?」
「ああ、そうだな」
ホレイナに問いかけると、彼ははにかんだような笑顔を見せた。
私は自分の選択を悔いることはない。
彼との幸せがこの先ずっと続くのだから。
=完=
と。
目の前で胸を仰け反らせたヒルトンが豪語した。
他人の華やかな舞台を汚したかと思えば、今度はそれを悪びれもなく、二度塗りするとは、些か疑問にしかならなかった。
「私がいつそんな悪事をしたのだろうか」と、キャメルは一つ頭を捻る。
辺りはヒソヒソとした話し声と少しばかりの黄色い歓声で包まれていた。
半分は変ないざこざに巻き込まれたと、もう半分は妄想的展開が来たとでも、思っているのだろう。
ホレイナもまた、あまりの不思議さに声を出せずにいるようだった。
「ヒルトン様は私を捨てたはずでしょう?そんなあなたの元に行く義理はありませんが」
「それは違う、捨ててなんか無い!現にこうして来たじゃないか」
「それは私のことを考えもしない、我儘のせいでしょう?私はもう、我儘ばかりに振り回されるだけの人生を歩みたくはないの」
「ちっ...」
ヒルトンが舌打ちを一つ挟むと、今度はホレイナの方を睨んだ。怒りの矛先はどうやら、ホレイナの方に向いたらしい。
「お前だ!お前がキャメルを騙したんだろう?!そうだ、そうに違いない!私というものが居ながら、他の男と婚約をするほど、こいつは馬鹿ではない。そうなんだろ、キャメル?お前はこいつに騙されているんだろう?」
キャメルの中でなにかがプツンと切れた。それでも、彼は言葉を続ける。
「キャメル、今ならお前を救ってやれる気がする。あの時とは違う。二人で手を取り合おうじゃないか。ジェレマイア領に帰ったら、特別に私の内室にしてやろう」
キャメルはどうやら、過去を美化していたらしい。
彼はこういう人だ。彼女が愛していたはずの男とは似ても似つかない、プライドばかりが高い、無責任で我儘な男なのだ。
過去の自分が愛した彼。それが幻想なら、過去の柵さえ清々しかった。
ヒルトンはキャメルに手を伸ばした。
「私の元に来てくれないか」
と。
観客のボルテージは最高潮だった。
そして、キャメルは彼のその手を払い除けた。
「結構です、私には大切な人がいるので」
彼女は行き場の無い彼の手に脇目もふらず、ホレイナの唇にキスをした。
ヒルトンに見せつけるように。
「ヒルトン様にいい事を教えてあげましょう。あなたの言いなりになるキャメルはもう居ません。そして、これがあなたとの最後の会話です、ヒルトン様」
「そ、そんな...。どうして...」
「あなたの後ろにいるお方に聞けば、分かるのではないでしょうか?」
ヒルトンは恐る恐る後ろを見て、ホルスが待機していたかのように立っていることに気付いた。
ヒルトンはハッとしたように戦慄し、恐怖にすくんだ表情を晒す。
その恐怖がどこから来たのかはおおよそ、推測できた。
彼はホルスに連れられ、この結婚式場の舞台から引き摺り降ろされた。きっと、この後は彼に悪い罰が下されるだろう。
彼は既に自分の罪を認めているのだから。
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桜の花が散る頃。空は陽気にも朝日を出し、淡く薄い雲が散らばっていた。幼い子が絵に描いたようなそれは、門出の季節を彩るには美しく鮮明だ。
桜の花びらは宙を舞い、やがて私の手に落ちた。
━━煌びやかな春ね。これがずっと続けば良いのに。
「あなたもそう思うでしょう、ホレイナ?」
「ああ、そうだな」
ホレイナに問いかけると、彼ははにかんだような笑顔を見せた。
私は自分の選択を悔いることはない。
彼との幸せがこの先ずっと続くのだから。
=完=
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