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四章 結婚とそして
7.ジェレマイア領にて②
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「失礼します、ヒルトン様。少しお時間宜しいでしょうか」
マリアンたちと入れ替わるようにして、執事が執務室に入ってきた。
彼は暗殺者の状況を調査していた者だ。そして、ヒルトンが小さい頃からジェレマイア公爵邸に仕える、旧来の執事でもある。
今や、彼のように古くから公爵邸に仕える者は多くはない。それも全部、マリアンの仕業だ。
彼女が来てからというもの、財産をことごとく浪費するのみならず、使用人までも解雇され、マリアンに付きっきりの使用人ばかりが新しく入ってきていた。
そして、解雇されなかった者でさえも、教育とは名ばかりの嫌がらせを受けている。
それをどうにかするのがヒルトンの仕事なのだろうが、やはり彼もまた、マリアンから愛情とは名ばかりの搾取を受けていた。彼の精神とやらもどうにかなりそうであった。
だからこそ、旧来の使用人と話す機会というのは中々に嬉しいものなのだ。
「エセルター領にて、キャメル嬢らしき人物がを見つけました。ただ、彼女に接触できたわけではなく、本当に彼女なのかどうかは不明ですが...」
ヒルトンが促すと、執事は真剣そうにそう言った。
エセルター領は御者に伝えた行先の一つだ。
彼女が安全に着いたと言うのなら、必然的に暗殺者も用済みになったということになる。
ただ彼は自分で雇っておいてなんだが、彼女が生きているということに喜びを感じていた。
もし、彼女を取り戻せたらこの生活におさらば出来ると思ったからだ。
「よし、彼女に会いに行こう」
そう楽観的に考えれば、彼の行動の選択肢は一つだけだった。しかしながら、執事は「少し待ってください」と、彼を制止した。
「経緯は分かりませんが、どうやらキャメル嬢は今、エセルター領の当主の婚約者となっているようです。そして、結婚式ももうすぐ行われるようで...」
「ふむ」
と、彼は一つ唸った。
彼はてっきり、貴族の位を捨て、平民として生活を過ごしているものかと思っていたが、どうやら違うらしい。それにしても、時期尚早の限りである。まるで、元から彼の婚約者であるかのように...。
「これは使えるな...。·····結婚式の日は何時だ?」
「今日に馬車で向かえば、ちょうど間に合うくらいかと」
「そうか。そしたら、馬車の手配を頼む。隠密にな」
「かしこまりました。今すぐに手配致します」
執事はそう告げ、そそくさとこの場を後にした。
ヒルトンは独りになった執務室で、ソファーにどっぷりと腰を掛け、外の雑音に耳を傾けた。
それを聞けば、マリアンの事について、咎める声が多いことに彼は気づいた。もちろん、彼への非難もあるが、それが霞むほど、彼女に疑念を抱く声が多いらしい。
「これは利用出来るな...」
と、彼は一言呟いて、文を書き始めた。
やがてそれを書き終わらせると、彼はそれを窓の外に投げ捨てた。
『親愛なるあなたたちへ
明日一日だけ、マリアンを好きに扱っていいことにしましょう。私の庭にご招待します』
と。
平民の荒ぶった声はやがて小さくなり、堪忍したかのように辺りは静まり返った。
ヒルトンは自身の策略が上手くいったことを内心喜びながら、マリアンを呼び付けた。
「明日、庭で茶会でもしようか」
と。
彼は悪魔のように微笑んだ。
マリアンたちと入れ替わるようにして、執事が執務室に入ってきた。
彼は暗殺者の状況を調査していた者だ。そして、ヒルトンが小さい頃からジェレマイア公爵邸に仕える、旧来の執事でもある。
今や、彼のように古くから公爵邸に仕える者は多くはない。それも全部、マリアンの仕業だ。
彼女が来てからというもの、財産をことごとく浪費するのみならず、使用人までも解雇され、マリアンに付きっきりの使用人ばかりが新しく入ってきていた。
そして、解雇されなかった者でさえも、教育とは名ばかりの嫌がらせを受けている。
それをどうにかするのがヒルトンの仕事なのだろうが、やはり彼もまた、マリアンから愛情とは名ばかりの搾取を受けていた。彼の精神とやらもどうにかなりそうであった。
だからこそ、旧来の使用人と話す機会というのは中々に嬉しいものなのだ。
「エセルター領にて、キャメル嬢らしき人物がを見つけました。ただ、彼女に接触できたわけではなく、本当に彼女なのかどうかは不明ですが...」
ヒルトンが促すと、執事は真剣そうにそう言った。
エセルター領は御者に伝えた行先の一つだ。
彼女が安全に着いたと言うのなら、必然的に暗殺者も用済みになったということになる。
ただ彼は自分で雇っておいてなんだが、彼女が生きているということに喜びを感じていた。
もし、彼女を取り戻せたらこの生活におさらば出来ると思ったからだ。
「よし、彼女に会いに行こう」
そう楽観的に考えれば、彼の行動の選択肢は一つだけだった。しかしながら、執事は「少し待ってください」と、彼を制止した。
「経緯は分かりませんが、どうやらキャメル嬢は今、エセルター領の当主の婚約者となっているようです。そして、結婚式ももうすぐ行われるようで...」
「ふむ」
と、彼は一つ唸った。
彼はてっきり、貴族の位を捨て、平民として生活を過ごしているものかと思っていたが、どうやら違うらしい。それにしても、時期尚早の限りである。まるで、元から彼の婚約者であるかのように...。
「これは使えるな...。·····結婚式の日は何時だ?」
「今日に馬車で向かえば、ちょうど間に合うくらいかと」
「そうか。そしたら、馬車の手配を頼む。隠密にな」
「かしこまりました。今すぐに手配致します」
執事はそう告げ、そそくさとこの場を後にした。
ヒルトンは独りになった執務室で、ソファーにどっぷりと腰を掛け、外の雑音に耳を傾けた。
それを聞けば、マリアンの事について、咎める声が多いことに彼は気づいた。もちろん、彼への非難もあるが、それが霞むほど、彼女に疑念を抱く声が多いらしい。
「これは利用出来るな...」
と、彼は一言呟いて、文を書き始めた。
やがてそれを書き終わらせると、彼はそれを窓の外に投げ捨てた。
『親愛なるあなたたちへ
明日一日だけ、マリアンを好きに扱っていいことにしましょう。私の庭にご招待します』
と。
平民の荒ぶった声はやがて小さくなり、堪忍したかのように辺りは静まり返った。
ヒルトンは自身の策略が上手くいったことを内心喜びながら、マリアンを呼び付けた。
「明日、庭で茶会でもしようか」
と。
彼は悪魔のように微笑んだ。
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