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四章 結婚とそして
5.結婚式
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しばらくの時が経ち、ホレイナは少しばかりの欲情をひた隠しながら、キャメルもまた、周囲に怪しまれないように過ごし、ついぞ結婚式を挙げる日となった。
「キャメル嬢、いよいよだね」
「ええ、そうですね。まあ、私にとってはいよいよ、と言えるほど長い期間は経ってはないですが」
「釣れないこと言わないでくれよ。きっと民衆の皆も、待ち遠しかっただろうからさ」
「まあ、それもそうですね。民衆の皆さんにとっては長すぎる月日が経ったことでしょうし。まずはそれに応えなくてはいけませんね」
「そうさ。だから気持ちのいい笑顔で、迎えようか」
ホレイナがそうはにかむと、目の前の大きな扉が開かれた。外の眩しい光が辺りを白色で包み込み、やがて、大勢のファンファーレ鳴り響く。
キャメルは赤いドレスに身を包んで、薄いヴェールで顔を覆いながら壇上に立った。そしてそこから、淑やかに手を振る。
結婚式の会場となった教会を見渡せば、多くの人が押し入っていた。その人混みの中には、アールマイト伯爵家の身内やリゼ、喫茶店で仲良くなったお客さんなどの見知った顔がいくつかあった。
キャメルのドレス姿の美しさは、周囲の人々を魅了していた。彼らからすれば、二年ほど姿を表さなかった婚約者だ。見入るのも無理はないだろう。
しかしながら、ホレイナはそれにムッと嫉妬したように、キャメルの手を取った。
「今は私だけを見ているんだ、キャメル嬢」
「ええ。分かりました。あなただけを、見ていましょう」
キャメルたちは壇上で、互いの目をじっと見つめあった。今はその恥ずかしい、と思う時間さえ惜しかった。
やがて、彼の唇が近づいて来る。彼女はそれにただ受け止める姿勢を見せるのみだった。
唇が逢瀬を重ねると、彼らは瞳を閉じた。その場の時間が止まったようにゆっくりと彼らは唇を離す。
それを見ていた誰もがその姿に魅入り、ここが誰の場であるのかを知らしめるほどで。
それはホレイナたちも、それを見ていた人たちでさえも、この華やかな舞台の絶頂であると思うほどだった。
しかしながら、どうやら現実はそうでも無いらしい。
「ちょっと待った!」
と。
突如としてその華やかな雰囲気を壊すように、一人の男が声を荒らげた。
人々はその声がした方向を見て、はて誰だ、と首を傾げた。
しかし、キャメルにはそれが誰であるかは分かっていた。たとえ、その姿が逆光に照らされていたとしても。たとえ、その顔が疲労で老いぼれて見えたとしても。
彼女は忘れることは無かった。
彼は彼女を捨てた男、ヒルトンだ。
「キャメル嬢、いよいよだね」
「ええ、そうですね。まあ、私にとってはいよいよ、と言えるほど長い期間は経ってはないですが」
「釣れないこと言わないでくれよ。きっと民衆の皆も、待ち遠しかっただろうからさ」
「まあ、それもそうですね。民衆の皆さんにとっては長すぎる月日が経ったことでしょうし。まずはそれに応えなくてはいけませんね」
「そうさ。だから気持ちのいい笑顔で、迎えようか」
ホレイナがそうはにかむと、目の前の大きな扉が開かれた。外の眩しい光が辺りを白色で包み込み、やがて、大勢のファンファーレ鳴り響く。
キャメルは赤いドレスに身を包んで、薄いヴェールで顔を覆いながら壇上に立った。そしてそこから、淑やかに手を振る。
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しかしながら、ホレイナはそれにムッと嫉妬したように、キャメルの手を取った。
「今は私だけを見ているんだ、キャメル嬢」
「ええ。分かりました。あなただけを、見ていましょう」
キャメルたちは壇上で、互いの目をじっと見つめあった。今はその恥ずかしい、と思う時間さえ惜しかった。
やがて、彼の唇が近づいて来る。彼女はそれにただ受け止める姿勢を見せるのみだった。
唇が逢瀬を重ねると、彼らは瞳を閉じた。その場の時間が止まったようにゆっくりと彼らは唇を離す。
それを見ていた誰もがその姿に魅入り、ここが誰の場であるのかを知らしめるほどで。
それはホレイナたちも、それを見ていた人たちでさえも、この華やかな舞台の絶頂であると思うほどだった。
しかしながら、どうやら現実はそうでも無いらしい。
「ちょっと待った!」
と。
突如としてその華やかな雰囲気を壊すように、一人の男が声を荒らげた。
人々はその声がした方向を見て、はて誰だ、と首を傾げた。
しかし、キャメルにはそれが誰であるかは分かっていた。たとえ、その姿が逆光に照らされていたとしても。たとえ、その顔が疲労で老いぼれて見えたとしても。
彼女は忘れることは無かった。
彼は彼女を捨てた男、ヒルトンだ。
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