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四章 結婚とそして
4.準備
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「結局、結婚式に来てくれるのはアールマイト伯爵家だけか...」
ホレイナは執務室の中で、そう呟いた。
あれからアールマイト伯爵家から招待状の返事を受け取ったのは、一週間が経った日のことだった。
他の貴族は軒並み、「諸事情により欠席」だ。まあ、元より貴族が寄り付かない土地。無理も無いと言えるだろう。
それに、決して豪華とは言えないものだ。他の貴族に見られたら、鼻で笑われてしまうかもしれない。
それでも、先走った感情だけで言えば、半数程度は来るだろうとばかり思っていたから、少し残念だ。
それはそうと、ここ一週間、キャメルとホレイナは貴族と喫茶店の店員として、ある程度の距離感で接していた。
少しばかりの寂寥感をお互いに感じていたが、晴れやかな舞台のサプライズに、それは欠かせなかった。
まあ、今日に限って言えば、そうでは無いかもしれないが。
「ホレイナ様。この衣装どうですか?」
と、キャメルが華やかな衣装を身に纏い、体を翻しながらそう聞く。
今日は結婚式の衣装準備の日なのだ。
風で揺らいだスカートからはホレイナの欲情を誘うように、彼女の素足が伺える。
「赤いドレス、良いじゃないか!とても魅力的で君に似合っているよ」
「ありがとうございます。ホレイナ様の衣装はどれなのでしょうか?」
「私の?私のは、領主を受け継いだときに着ていた衣装になるんじゃないのかな?新しいのを買うのも面倒だろう?」
「·····私だけがはしゃいで、子供みたいじゃないですか。これ、返してきます」
何食わぬ顔でホレイナが告げると、キャメルはムッとし、静かに怒りを表情に出した。
別に怒ることでは無かろうに、とホレイナは呆れながら、彼女の後ろ姿に声を掛け、彼女の背を追った。
「良いじゃないか、今は子供になって」
彼女の髪は本番を想定したかのように、綺麗に結ばれており、隠されていたはずのうなじも今や、露になっていた。
それに少しばかりの欲情を感じ、しかし、「いやまだだ」と、自身のそれを抑制した。そして、彼女の耳元で囁くように言う。
「結婚したら、そうもいかないだろうからね」
彼女はビクッと体を震わせながら、耳元を手で覆い、ばっと後ろを振り返った。
少し照れて紅潮した顔が彼の瞳に映ると、余計に恥ずかしくなったのか、慌てて執務室を出ていってしまった。
「少しからかっただけなのに...」
ホレイナは扉が無情にも閉まるのを見届けると、ぽつりと呟いた。
そして、なにか言いたげそうに、口をパクパクとさせていた彼女を思い出し、その表情にそそられる何かが胸で蠢いていることに気づいた。
その正体を自問自答しても、結局返ってくる答えはなく、ただ空虚な感情だけが心の中を右往左往していた。
それならば、と彼はやにわに立ち上がり、ひとまずは華やかな舞台の準備を進めることにした。一生に一度も無い素敵な舞台だ。後悔の無いように、とホレイナは心に誓って、文を書いた。
『親愛なるアールマイト伯爵家へ』
と。
ホレイナは執務室の中で、そう呟いた。
あれからアールマイト伯爵家から招待状の返事を受け取ったのは、一週間が経った日のことだった。
他の貴族は軒並み、「諸事情により欠席」だ。まあ、元より貴族が寄り付かない土地。無理も無いと言えるだろう。
それに、決して豪華とは言えないものだ。他の貴族に見られたら、鼻で笑われてしまうかもしれない。
それでも、先走った感情だけで言えば、半数程度は来るだろうとばかり思っていたから、少し残念だ。
それはそうと、ここ一週間、キャメルとホレイナは貴族と喫茶店の店員として、ある程度の距離感で接していた。
少しばかりの寂寥感をお互いに感じていたが、晴れやかな舞台のサプライズに、それは欠かせなかった。
まあ、今日に限って言えば、そうでは無いかもしれないが。
「ホレイナ様。この衣装どうですか?」
と、キャメルが華やかな衣装を身に纏い、体を翻しながらそう聞く。
今日は結婚式の衣装準備の日なのだ。
風で揺らいだスカートからはホレイナの欲情を誘うように、彼女の素足が伺える。
「赤いドレス、良いじゃないか!とても魅力的で君に似合っているよ」
「ありがとうございます。ホレイナ様の衣装はどれなのでしょうか?」
「私の?私のは、領主を受け継いだときに着ていた衣装になるんじゃないのかな?新しいのを買うのも面倒だろう?」
「·····私だけがはしゃいで、子供みたいじゃないですか。これ、返してきます」
何食わぬ顔でホレイナが告げると、キャメルはムッとし、静かに怒りを表情に出した。
別に怒ることでは無かろうに、とホレイナは呆れながら、彼女の後ろ姿に声を掛け、彼女の背を追った。
「良いじゃないか、今は子供になって」
彼女の髪は本番を想定したかのように、綺麗に結ばれており、隠されていたはずのうなじも今や、露になっていた。
それに少しばかりの欲情を感じ、しかし、「いやまだだ」と、自身のそれを抑制した。そして、彼女の耳元で囁くように言う。
「結婚したら、そうもいかないだろうからね」
彼女はビクッと体を震わせながら、耳元を手で覆い、ばっと後ろを振り返った。
少し照れて紅潮した顔が彼の瞳に映ると、余計に恥ずかしくなったのか、慌てて執務室を出ていってしまった。
「少しからかっただけなのに...」
ホレイナは扉が無情にも閉まるのを見届けると、ぽつりと呟いた。
そして、なにか言いたげそうに、口をパクパクとさせていた彼女を思い出し、その表情にそそられる何かが胸で蠢いていることに気づいた。
その正体を自問自答しても、結局返ってくる答えはなく、ただ空虚な感情だけが心の中を右往左往していた。
それならば、と彼はやにわに立ち上がり、ひとまずは華やかな舞台の準備を進めることにした。一生に一度も無い素敵な舞台だ。後悔の無いように、とホレイナは心に誓って、文を書いた。
『親愛なるアールマイト伯爵家へ』
と。
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