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四章 結婚とそして
2.別れ
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朝食後、キャメルたちの姿は公爵邸前の玄関にあった。
ナターシャは豪華な貴族の服を身にまとい、大きな鞄を手に提げていた。どうやら、帰りの支度が出来ているようだった。
「本当にもう帰るの?」
「ええ。元より、そこまで長居するつもりは無かったですから。それに行く前、お父様に言われたんです。「娘二人が居なくなるのは寂しい」って。だから、すぐ帰らないとお父様が悲しんでしまいます」
キャメルが問うと、ナターシャはそう微笑みながら答えた。
キャメルはその笑みを見て、彼女に内情の変化があったのか、と薄々悟った。記憶上の彼女はこうも、深く考えた造り笑いをしないはずだったからだ。
平民の真似事をしていた彼女の影はとうに、塗りつぶされたのかもしれない。
「そうなのね、帰りは気をつけなさいよ」
「分かってるわ。でも、その前にちょっと良い?」
「ええ、なに?」
「·····道が分からないの。昨日、お姉様に付いていくだけだったから良かったものの、一人じゃ馬車小屋の場所も分からないわ」
「それじゃあ、私が馬車の方まで送るとしよう。彼女と少しお話したいからね」
「ええ。早く帰ってきてくださいね」
キャメルは手を振り、二人を見送った。
彼らは初対面のようで、初対面では無い。小説書きとそのファンとして、手紙を送り合った仲だ。きっと積もる話もあるだろう。
彼女は彼らが大通りに紛れるのを眺めると、踵を返して、寒い寒いと早々に屋敷に戻った。
「よいしょ~、っと」
執事が暖炉に薪を焼べていたので、彼女は彼の横に腰を下ろした。
轟々と燃える火に薪が焼べられると、今度はぱちぱちと音が爆ぜ、いじらしくも薪はその姿を変えた。
火の温かさが心地よく、彼女はしばらくその火を眺めていた。
「火をただ眺めるのも悪くはないわね。今晩は冷えるのかしら?」
「左様でございます。なので、暖炉で薪を燃やしている次第でございます」
「ところで、キャメル様。結婚式の招待状の件なのですが、ジェレマイア領当主のヒルトン様宛ての招待状は、いかがなさいますか?」
「他の貴族たちには、もう届けているの?」
キャメルがその封のされた手紙を受け取りながら、執事に聞いた。
「ええ。それでも、エセルター領は元より辺境の地。来てくれるか、どうかは分かりません」
「そう」
辺境の地とは言葉通りの意味である。
が、それに加え、貴族たちが近寄りたくない、という意味もある。
それはエセルター領の平民の髪色を見れば、分かるだろう。
貴族とはこうも、平民と交わりたくないものだ。それはどこの貴族も同じで、この手紙を受け取る人も例外では無い。
「これは火の足しにでもしましょう」
キャメルはそう呟くと、手紙を暖炉に放り込んだ。
手紙は火に侵食され、やがて姿を消した。
火は大して大きくもならずに、燃え揺らいでいる。
結局、それはなんの足しにもならないのだった。
ナターシャは豪華な貴族の服を身にまとい、大きな鞄を手に提げていた。どうやら、帰りの支度が出来ているようだった。
「本当にもう帰るの?」
「ええ。元より、そこまで長居するつもりは無かったですから。それに行く前、お父様に言われたんです。「娘二人が居なくなるのは寂しい」って。だから、すぐ帰らないとお父様が悲しんでしまいます」
キャメルが問うと、ナターシャはそう微笑みながら答えた。
キャメルはその笑みを見て、彼女に内情の変化があったのか、と薄々悟った。記憶上の彼女はこうも、深く考えた造り笑いをしないはずだったからだ。
平民の真似事をしていた彼女の影はとうに、塗りつぶされたのかもしれない。
「そうなのね、帰りは気をつけなさいよ」
「分かってるわ。でも、その前にちょっと良い?」
「ええ、なに?」
「·····道が分からないの。昨日、お姉様に付いていくだけだったから良かったものの、一人じゃ馬車小屋の場所も分からないわ」
「それじゃあ、私が馬車の方まで送るとしよう。彼女と少しお話したいからね」
「ええ。早く帰ってきてくださいね」
キャメルは手を振り、二人を見送った。
彼らは初対面のようで、初対面では無い。小説書きとそのファンとして、手紙を送り合った仲だ。きっと積もる話もあるだろう。
彼女は彼らが大通りに紛れるのを眺めると、踵を返して、寒い寒いと早々に屋敷に戻った。
「よいしょ~、っと」
執事が暖炉に薪を焼べていたので、彼女は彼の横に腰を下ろした。
轟々と燃える火に薪が焼べられると、今度はぱちぱちと音が爆ぜ、いじらしくも薪はその姿を変えた。
火の温かさが心地よく、彼女はしばらくその火を眺めていた。
「火をただ眺めるのも悪くはないわね。今晩は冷えるのかしら?」
「左様でございます。なので、暖炉で薪を燃やしている次第でございます」
「ところで、キャメル様。結婚式の招待状の件なのですが、ジェレマイア領当主のヒルトン様宛ての招待状は、いかがなさいますか?」
「他の貴族たちには、もう届けているの?」
キャメルがその封のされた手紙を受け取りながら、執事に聞いた。
「ええ。それでも、エセルター領は元より辺境の地。来てくれるか、どうかは分かりません」
「そう」
辺境の地とは言葉通りの意味である。
が、それに加え、貴族たちが近寄りたくない、という意味もある。
それはエセルター領の平民の髪色を見れば、分かるだろう。
貴族とはこうも、平民と交わりたくないものだ。それはどこの貴族も同じで、この手紙を受け取る人も例外では無い。
「これは火の足しにでもしましょう」
キャメルはそう呟くと、手紙を暖炉に放り込んだ。
手紙は火に侵食され、やがて姿を消した。
火は大して大きくもならずに、燃え揺らいでいる。
結局、それはなんの足しにもならないのだった。
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