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四章 結婚とそして
1.惚気と思慮
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朝。
小鳥のちゅんちゅんと鳴く囀りがキャメルの耳に残り、彼女は眠たい目を朧に開けた。
霞む視界からは情緒のある天井が見え、彼女ははてここは何処か、と昨日のことを思い出した。
確か昨日は朝早くから、ジェレマイア領に行くために馬車に乗っていた。
そして、農業区の馬車乗り場で顔見知りの御者に出会い、妹のナターシャにも会った。
再会の嬉しさを噛み締めて、そこから、ナターシャがどうしてエセルター領に来たのかを聞き、逆に私がどうしてエセルター領にいるのかを話しながら、中央区に戻ったはずだ。
そして、それから...。
「おはよう、キャメル嬢」
キャメルの隣から男の声がした。
彼女は思わず、悲鳴に似た絶叫の声をあげ、また眠るように気絶してしまった。
そして、彼女はその消えゆく意識の中で思い出した。
そして、それからエセルター公爵邸に泊まったんだ、と。
朝。
エセルター公爵邸では、小鳥のちゅんちゅんと鳴く囀りと、キャメルの絶叫が彼らの目覚ましとなった。
「キャ、キャメル嬢?許してくれよ、十分謝っただろう?だから、機嫌を直してくれよぉ...」
「本当に最っ低です!結婚前だと言うのに、女が寝ている客室に入って、粗相を犯そうとするなど...!気絶で済んだのがまだいい方です。もし、これが他の人だったら、婚約破棄でさえされますよ!」
朝食を食べるため、キャメルたちは食堂に集められていたが、そこの雰囲気は最悪だった。
どうやら、ホレイナが彼女の寝ている客室に侵入したらしい。
なんでもホレイナは、彼女が起きて隣に自分が居たら嬉しいだろうな、と思ったそうな。
実際、現実はそう甘くは無いらしいが。
「別に粗相を犯そうだなんて思っても...」
キャメルの鋭い瞳がホレイナを睨むと、たちまち彼は萎縮したように萎れた。
「すみません...」
「わぁ、お姉様が怒るなんて珍しい」
食堂に並べられた簡素な料理を味わいながら、ナターシャは他人事のようにそう呟いた。
そして、パンをスープに浸し、それを咀嚼した。硬いパンには、さほど味が浸透しない。
「別に怒ってなどいません。ただ、私の婚約者が紳士たる行動を出来ていないのが、不安なだけです」
「キャメル...」
「これからは気をつけてくださいね、ホレイナ様?」
彼らは愛し合うように、お互いの手を握りあい、目を見つめ合った。
その微笑ましく、甘い光景を見て、ナターシャはパンをスープに浸しながら惚気か、と心の中で呟いた。
死に至ったと思っていた大好きなお姉様との再会なのだ。これ以上の喜ばしいことは無いだろう。
しかし、蓋を開けてみれば異郷の地で、幸せを築いているでは無いか。これでは私が邪魔者だ。
·····それでも、きっとその方が良いのだろう。故郷では婚約破棄をされ、国外に追放され、殺されそうにもなった。そんな酷い仕打ちをされた場所よりも、温もりのある場所を選ぶ方がいいに決まっている。
お姉様に甘えているだけじゃ、何も変わらないのだ。それはお姉様のためにも、自分のためにも。
きっと邪魔者はそばにいてはいけない。
ナターシャは深くぼーっとしながら、パンを咀嚼した。それには、スープの味がべっとりと残っていた。
小鳥のちゅんちゅんと鳴く囀りがキャメルの耳に残り、彼女は眠たい目を朧に開けた。
霞む視界からは情緒のある天井が見え、彼女ははてここは何処か、と昨日のことを思い出した。
確か昨日は朝早くから、ジェレマイア領に行くために馬車に乗っていた。
そして、農業区の馬車乗り場で顔見知りの御者に出会い、妹のナターシャにも会った。
再会の嬉しさを噛み締めて、そこから、ナターシャがどうしてエセルター領に来たのかを聞き、逆に私がどうしてエセルター領にいるのかを話しながら、中央区に戻ったはずだ。
そして、それから...。
「おはよう、キャメル嬢」
キャメルの隣から男の声がした。
彼女は思わず、悲鳴に似た絶叫の声をあげ、また眠るように気絶してしまった。
そして、彼女はその消えゆく意識の中で思い出した。
そして、それからエセルター公爵邸に泊まったんだ、と。
朝。
エセルター公爵邸では、小鳥のちゅんちゅんと鳴く囀りと、キャメルの絶叫が彼らの目覚ましとなった。
「キャ、キャメル嬢?許してくれよ、十分謝っただろう?だから、機嫌を直してくれよぉ...」
「本当に最っ低です!結婚前だと言うのに、女が寝ている客室に入って、粗相を犯そうとするなど...!気絶で済んだのがまだいい方です。もし、これが他の人だったら、婚約破棄でさえされますよ!」
朝食を食べるため、キャメルたちは食堂に集められていたが、そこの雰囲気は最悪だった。
どうやら、ホレイナが彼女の寝ている客室に侵入したらしい。
なんでもホレイナは、彼女が起きて隣に自分が居たら嬉しいだろうな、と思ったそうな。
実際、現実はそう甘くは無いらしいが。
「別に粗相を犯そうだなんて思っても...」
キャメルの鋭い瞳がホレイナを睨むと、たちまち彼は萎縮したように萎れた。
「すみません...」
「わぁ、お姉様が怒るなんて珍しい」
食堂に並べられた簡素な料理を味わいながら、ナターシャは他人事のようにそう呟いた。
そして、パンをスープに浸し、それを咀嚼した。硬いパンには、さほど味が浸透しない。
「別に怒ってなどいません。ただ、私の婚約者が紳士たる行動を出来ていないのが、不安なだけです」
「キャメル...」
「これからは気をつけてくださいね、ホレイナ様?」
彼らは愛し合うように、お互いの手を握りあい、目を見つめ合った。
その微笑ましく、甘い光景を見て、ナターシャはパンをスープに浸しながら惚気か、と心の中で呟いた。
死に至ったと思っていた大好きなお姉様との再会なのだ。これ以上の喜ばしいことは無いだろう。
しかし、蓋を開けてみれば異郷の地で、幸せを築いているでは無いか。これでは私が邪魔者だ。
·····それでも、きっとその方が良いのだろう。故郷では婚約破棄をされ、国外に追放され、殺されそうにもなった。そんな酷い仕打ちをされた場所よりも、温もりのある場所を選ぶ方がいいに決まっている。
お姉様に甘えているだけじゃ、何も変わらないのだ。それはお姉様のためにも、自分のためにも。
きっと邪魔者はそばにいてはいけない。
ナターシャは深くぼーっとしながら、パンを咀嚼した。それには、スープの味がべっとりと残っていた。
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