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三章 甘い恋
22.再会
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「お姉様?」
キャメルは聞き馴染みのある声を耳にすると、御者と取っ組み合っていたその手を離した。
そして、声がした方を向くと、見知った顔が居ることに驚く。
「ナターシャ!?」
キャメルが大きな声をあげると、ナターシャと呼ばれた女は、一目散にキャメルの元へと向かった。
「お姉様!生きていたんですね!私、心配で、心配でもう...」
泣き崩れるようにナターシャが抱きつくと、キャメルはその頭を撫でた。久しい感覚に、彼女が確かにそこにいると実感が湧く。
「お姉様に会えてよかったです...!」
「私もナターシャに会えて嬉しいわ。ところで、お父様とお母様は?使用人も居ないようだけど...」
「一人で来ました!」
と。
ナターシャは胸を張って答えた。
「·····そうなのね」
キャメルは呆れたように怒ろうとして、しかしながら、自分も彼女と同じであることに気付いて、その感情を心の内にしまった。
そして、ポツリと水滴がキャメルに当たる。どうやら雨が降ったようだ。
「もういい時間ですし、今日はひとまず、エセルター領に戻った方が良いんじゃないでしょうか?この雨足だと、どう頑張ってもジェレマイア領には向かえないでしょうし」
雨を拾った御者が空模様を伺いながらそう言った。
確かに空を見る限り、曇天がこちらに流れてきているのが伺え、雨足は強くなりそうだ。ここは潔く、御者の言うことを聞いた方が良いだろう。
「それもそうですね。ナターシャもそれで良いよね?」
「ええ、もちろんです!」
「それでは、続きは馬車の中で話すとして...。御者さんはさすがに、エセルター領までは案内してくれますよね?」
「出来ますよ。まぁ、命の保証があれば、の話ですが」
「私が保証しましょう」
「?」
キャメルが微笑みかけると、御者は先程までとは打って変わり、乗り気になって馬車を準備し始めた。
ナターシャは話の展開が読めないようで、終始、疑問符を掲げていた。
そんな彼女をよそに、キャメルは先程までの御者の拒絶はなんだったのだろうか、と考えていた。結局、それらしい答えを見いだせないまま、天候でも気になりやしていたのだろう、と結論付けた。
やがて雨足が強まると、馬車の準備も終わったようで、御者は馬を二頭従え、キャメルたちの方に寄ってきた。
キャビンは当然のように深い赤色で彩られており、ナターシャは初めて見たそれに、怯えながらも興味を持っているようだった。
「それじゃあ、出発しますね。道が泥濘んでいて揺れるかもしれないので、気を付けてください~」
やがて馬車は雨の中、動き出す。貴族二人を連れて。
キャメルは窓の外に目をやり、さてどうしたものか、と唸った。
ナターシャにどうしてここまで来たのか、と問うのは簡単だろう。ただ、それは自身の現状を棚に置いといて、という話ではある。
キャメルが彼女に疑問を持つように、彼女もまたキャメルに疑問を持っている。彼女が聞くのも重々承知か。
だったら自身のことは棚に置き続けよう、とキャメルは思い、目の前の彼女に一つ質問した。
キャメルは聞き馴染みのある声を耳にすると、御者と取っ組み合っていたその手を離した。
そして、声がした方を向くと、見知った顔が居ることに驚く。
「ナターシャ!?」
キャメルが大きな声をあげると、ナターシャと呼ばれた女は、一目散にキャメルの元へと向かった。
「お姉様!生きていたんですね!私、心配で、心配でもう...」
泣き崩れるようにナターシャが抱きつくと、キャメルはその頭を撫でた。久しい感覚に、彼女が確かにそこにいると実感が湧く。
「お姉様に会えてよかったです...!」
「私もナターシャに会えて嬉しいわ。ところで、お父様とお母様は?使用人も居ないようだけど...」
「一人で来ました!」
と。
ナターシャは胸を張って答えた。
「·····そうなのね」
キャメルは呆れたように怒ろうとして、しかしながら、自分も彼女と同じであることに気付いて、その感情を心の内にしまった。
そして、ポツリと水滴がキャメルに当たる。どうやら雨が降ったようだ。
「もういい時間ですし、今日はひとまず、エセルター領に戻った方が良いんじゃないでしょうか?この雨足だと、どう頑張ってもジェレマイア領には向かえないでしょうし」
雨を拾った御者が空模様を伺いながらそう言った。
確かに空を見る限り、曇天がこちらに流れてきているのが伺え、雨足は強くなりそうだ。ここは潔く、御者の言うことを聞いた方が良いだろう。
「それもそうですね。ナターシャもそれで良いよね?」
「ええ、もちろんです!」
「それでは、続きは馬車の中で話すとして...。御者さんはさすがに、エセルター領までは案内してくれますよね?」
「出来ますよ。まぁ、命の保証があれば、の話ですが」
「私が保証しましょう」
「?」
キャメルが微笑みかけると、御者は先程までとは打って変わり、乗り気になって馬車を準備し始めた。
ナターシャは話の展開が読めないようで、終始、疑問符を掲げていた。
そんな彼女をよそに、キャメルは先程までの御者の拒絶はなんだったのだろうか、と考えていた。結局、それらしい答えを見いだせないまま、天候でも気になりやしていたのだろう、と結論付けた。
やがて雨足が強まると、馬車の準備も終わったようで、御者は馬を二頭従え、キャメルたちの方に寄ってきた。
キャビンは当然のように深い赤色で彩られており、ナターシャは初めて見たそれに、怯えながらも興味を持っているようだった。
「それじゃあ、出発しますね。道が泥濘んでいて揺れるかもしれないので、気を付けてください~」
やがて馬車は雨の中、動き出す。貴族二人を連れて。
キャメルは窓の外に目をやり、さてどうしたものか、と唸った。
ナターシャにどうしてここまで来たのか、と問うのは簡単だろう。ただ、それは自身の現状を棚に置いといて、という話ではある。
キャメルが彼女に疑問を持つように、彼女もまたキャメルに疑問を持っている。彼女が聞くのも重々承知か。
だったら自身のことは棚に置き続けよう、とキャメルは思い、目の前の彼女に一つ質問した。
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