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三章 甘い恋

21.醜い言い争い②

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実際は御者の考えの内であった。
キャメルは平民の服をしているし、偽名を使えば問題ないが、国同士を結ぶ御者は偽名を使えない。それ故、今帰れば必ず検問で当主に情報が行くだろう。
そしたら、彼女が生きていることや暗殺者が帰ってこない理由も諸々明るみになる。
その場合、彼女諸共に極刑は免れない。ジェレマイア領の当主...というか、当主は皆そうだ。不都合なモノは取り除きたいものだ。

「家族に会いに行かなければならないので、なんとか出来ませんか?お金はたくさんありますから」

「いくらねだっても行けませんよ。せいぜい他を当たることですね。まぁ、今は私しか居ませんが」

「そうですか...」

勝ち誇ったような表情で御者が言うと、キャメルは困り果てたように細く呟いた。

「それなら仕方がありませんね。これはなるべく使いたくありませんでしたが、あなたがそう言うのなら、使うしかありません!」

そして、彼女はやにわに、ポケットからペンダントを取り出した。それは高価そうに金色に輝いており、しっかりと所有者の名前が刻印されている。

「これはエセルター領当主、ホレイナ様からの命令です!これに背けば、処刑は免れませんよ!」

キャメルはそう言いながら、ホレイナの名が刻まれたペンダントを御者に見せつけた。
しかしながら、自信満々の彼女とは逆に、御者は愕然とした。まさか、二国の当主から命ばかりを狙われるとは思ってもみなかったからだ。
そればかりか、どっちに転んでも処刑されるというオマケ付き。これはどんな悪党でも味わえない体験だろう。

御者は、前世では一体どんな悪事を働いていたのかと恨み、今世の最期を決意し、来世はのんびりとした生活ができることを祈り...。

そして、彼女に抗った。

「だったら、エセルター領で処刑される方がマシだね」

「どうしてですか?私をジェレマイア領まで運ぶだけで、処刑を回避できるんですよ。生きたくはないんですか!?」

「生憎、生にしがみつくほど長生きを願っていないのでね。来世が楽しみだなぁ!」

「そんなこと言っていたら本当に処刑されますよ。良いんですか!?」

「出来るものならやってみたらどう?ただエセルター領の悪名が馳せるだけだろうけどね」

「なんて聡明な...」

彼女たちが醜くも言い争っている...と言ってもキャメルが御者に言いくるめられているだけではあるが、そこに一台の馬車がゆっくりとやってきた。

それは普通の馬車であったが、されど乗っている人はそうでも無い。
彼女が馬車から降り、少しばかり会釈をすると、載せてきた御者は彼女にたいそう深くお辞儀をした。それだけで分かるほど、彼女の地位は高いはずだ。

そんな彼女は見たこともない新天地に興味津々で辺りを見渡した。
長閑な緑色の草や牛の大群、馬小屋で大人しくする馬、赤色のキャビン、そして言い争う女二人も。

彼女はその珍妙な二人を見つけ、なんとおかしなものかと失笑した。
そして、すぐに笑いは引いた。女二人の片方が見知った顔だったからだ。
いや、そんなはずがないと思いながら、彼女は二人にゆっくりと近づき、恐る恐る声を掛けた。

「お姉様?」
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