嘘を囁いた唇にキスをした。それが最後の会話だった。

わたあめ

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三章 甘い恋

20.醜い言い争い①

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「乗り心地はどうでしょうか?!痛かったら一旦休憩できますよ!」

「大丈夫です。ガタガタしてないので、乗り心地も良いので」

「それなら良かったです!」

馬車に揺られ、キャメルは御者とそんな会話を続けていた。

今朝、キャメルは中央区で馬車に乗り、農業区に向かっていた。
中央区からジェレマイア領まで、直接行ければ早いのだが、そう上手くはいかない。実際は中央区から農業区までを民間の馬車で、農業区からジェレマイア領までを国際の馬車で、と経由しなくてはならない。
そちらの方が管理が簡単である、と言われればそれまでだが、面倒くさい限りだ。



「お客さん、着きましたよ!」

「ありがとうございました」

半日ばかりの時間が経てば、中央区から農業区に着く。
キャメルは御者に手を引かれながら降り、銀貨五枚を払った。もうこの作業にも慣れたものだ。

「お客さんはこれから、ジェレマイア領に向かうんでしたよね?それなら、あちらの馬小屋の方で依頼できますよ!」

「そうなんですね。行ってみます」

「あと、お客さん」

「はい?」

「銀貨一枚、足りてませんよ」

「·····」

どうやら、この作業にはまだ慣れていなかったらしい。



キャメルは御者に別れを告げると、さっそく言われた馬小屋を目指した。

馬小屋には馬数頭とキャビン一つがあり、キャメルはその深い赤色のキャビンに目が引かれた。
記憶を遡れば、確かにそれは記憶の片隅にあった。

「すみません、ジェレマイア領までの馬車をお願いしたいのですが...」

草と馬の香りが混ざった独特な香りに怯えながら、キャメルは馬小屋を覗いた。

中は人が眠るには十分すぎるほどの牧草や強烈な匂いを放つ馬糞があり、近寄り難い匂いが漂っている。
それでも馬は好奇心か、ただ単に餌を貰いに来たのか、彼女に近寄り、よだれがたっぷりと残った口を開けた。
馬が近づいてきたのは、後者が理由らしい。

「こら、そこの人!馬に勝手に餌をあげないで」

キャメルが口を開けた馬と対峙していると、後ろから聞いたことある声が聞こえてきた。
振り返ればそこには、以前ジェレマイア領からここまで運んでくれた御者がいた。

「あっ、あなたはあのときの!」

「ええ、お久しぶりです。まだここにいらしたのですね」

「ま、まぁ諸用で...。それで今回はどうしてこっちに来たんですか?」

「実はジェレマイア領まで戻る用事が出来てしまって...。それで馬車を手配しようと思ったのですが、大丈夫ですか?」

キャメルがそう聞くと、御者はあからさまにげんなりとした。そして、何も聞いていないように、馬に餌をあげ始める。

「あ、あの?ジェレマイア領まで行きたいのですが...」

「今、ジェレマイア領は混乱に陥っていると聞きます。なので無理です」

ジェレマイア領が混乱に陥っている、というのは真っ赤な嘘だ。今はまだ、ということではあるが。
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