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三章 甘い恋
19. 一ヶ月後でございますか
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「一ヶ月後でございますか」
キャメルが問うと、ホレイナは大きく頷いた。
それにキャメルは少しばかりのため息を漏らそうとして、我が身のことを顧みてそれをしまった。
今、二人はホレイナの公爵邸の応接室でこれからのことについて、話し合っている。
そこで出た話題は婚約式、結婚式は何時になるのかということだった。
普通、結婚式の前には婚約式を行い、民衆に前もって知らせる。それなのだが、どういうことかそれをもう行っている、と彼は言うのだ。
聞けば、齢二十になっても婚約の一つもしないことに、民衆が不信感を募らせており、それを安心させるために婚約者が居ないにも関わらず、彼は婚約式を一人で行ったらしい。
そして、そこからもう一年が経とうとしている。つまり、結婚式の日がもう一ヶ月と迫っているということだ。
「すまない、こんな不甲斐ないばかりで」
「過ぎたことは仕方ありませんし、一つの笑い話としましょう。今は残り一ヶ月で何をすべきか、を考えるべきです」
「これは笑い話になるのか...?」
「してください。そうじゃないと、私は民衆を騙した大悪党と婚約した、ということをお父様たちに伝えなくてはいけなくなるので」
「確かにそれもそうだな。ここは一つ笑い飛ばそう」
「ええ、そちらの方が当主様に似合っていますから」
と。
キャメルははにかむように微笑んだ。
ホレイナな彼女から、なにか後光のような眩しい光が差しているような気がして、目を細めた。
恐ろしくも彼女は平然と、そう照れることを言うのだ。恋というのどうやら彼女を変えるらしい。
「·····それで、君のお父上様にはいつ伝えに行こうか」
「時期は早い方が良いでしょうね。先延ばしにすると、お父様たちが大変になるでしょうし」
「それじゃあ明日にでも発とうか?でも、警備は全然雇ってないぞ...」
「それなら私だけで行きましょう。今はまだ平民の身ですから、警備など必要ありません」
キャメルは真っ直ぐな瞳でホレイナを見た。何か貫き通したい信念があるように。
ホレイナは彼女の瞳に釣られ、言いかけた言葉を飲み、微笑んだ。
「それなら任せるとしよう」
「ええ、ありがとうございます。それでは明日の朝、出発しますね」
「ああ、怪我のないように気を付けて」
キャメルたちは話を終えると、公爵邸の門の前で互いに手を振り、別れた。
彼女はまだ平民の身だ。やらなくてはいけない仕事がまだあるし、このことを内密にしなければならない。同じ夜を共に過ごすのはまだまだ先のことだろう。
「ただいま戻りました」
「おう、おかえり!」
キャメルが喫茶店の扉を開けると、酒瓶を掲げた男が威勢の良い声で手を揺らした。
ふらふらとした手から、するりと酒瓶が床に落ちると、それは大きな音を出しながら割れた。
「うわっ、何してるんですか」
「やっちまたよ。片付けなきゃなぁ...」
「危ないですから、そんなフラフラとした足取りで、片付けようとしないでください?私がやっておきますから」
「おお助かるぜ、嬢ちゃん」
キャメルは帰って早々、ホウキを取り、床を掃いた。
キャメルが片付けている間も男は依然として、酒を煽っている。
彼を叱ってやりたいとも思ったが、それは必要ないだろう。
ただこうして温かい空間に、混ざっているという実感が欲しかった。嫌な思い出を作りたくはなかった。
この日常が終わるまで、残りわずかなのだから。
キャメルが問うと、ホレイナは大きく頷いた。
それにキャメルは少しばかりのため息を漏らそうとして、我が身のことを顧みてそれをしまった。
今、二人はホレイナの公爵邸の応接室でこれからのことについて、話し合っている。
そこで出た話題は婚約式、結婚式は何時になるのかということだった。
普通、結婚式の前には婚約式を行い、民衆に前もって知らせる。それなのだが、どういうことかそれをもう行っている、と彼は言うのだ。
聞けば、齢二十になっても婚約の一つもしないことに、民衆が不信感を募らせており、それを安心させるために婚約者が居ないにも関わらず、彼は婚約式を一人で行ったらしい。
そして、そこからもう一年が経とうとしている。つまり、結婚式の日がもう一ヶ月と迫っているということだ。
「すまない、こんな不甲斐ないばかりで」
「過ぎたことは仕方ありませんし、一つの笑い話としましょう。今は残り一ヶ月で何をすべきか、を考えるべきです」
「これは笑い話になるのか...?」
「してください。そうじゃないと、私は民衆を騙した大悪党と婚約した、ということをお父様たちに伝えなくてはいけなくなるので」
「確かにそれもそうだな。ここは一つ笑い飛ばそう」
「ええ、そちらの方が当主様に似合っていますから」
と。
キャメルははにかむように微笑んだ。
ホレイナな彼女から、なにか後光のような眩しい光が差しているような気がして、目を細めた。
恐ろしくも彼女は平然と、そう照れることを言うのだ。恋というのどうやら彼女を変えるらしい。
「·····それで、君のお父上様にはいつ伝えに行こうか」
「時期は早い方が良いでしょうね。先延ばしにすると、お父様たちが大変になるでしょうし」
「それじゃあ明日にでも発とうか?でも、警備は全然雇ってないぞ...」
「それなら私だけで行きましょう。今はまだ平民の身ですから、警備など必要ありません」
キャメルは真っ直ぐな瞳でホレイナを見た。何か貫き通したい信念があるように。
ホレイナは彼女の瞳に釣られ、言いかけた言葉を飲み、微笑んだ。
「それなら任せるとしよう」
「ええ、ありがとうございます。それでは明日の朝、出発しますね」
「ああ、怪我のないように気を付けて」
キャメルたちは話を終えると、公爵邸の門の前で互いに手を振り、別れた。
彼女はまだ平民の身だ。やらなくてはいけない仕事がまだあるし、このことを内密にしなければならない。同じ夜を共に過ごすのはまだまだ先のことだろう。
「ただいま戻りました」
「おう、おかえり!」
キャメルが喫茶店の扉を開けると、酒瓶を掲げた男が威勢の良い声で手を揺らした。
ふらふらとした手から、するりと酒瓶が床に落ちると、それは大きな音を出しながら割れた。
「うわっ、何してるんですか」
「やっちまたよ。片付けなきゃなぁ...」
「危ないですから、そんなフラフラとした足取りで、片付けようとしないでください?私がやっておきますから」
「おお助かるぜ、嬢ちゃん」
キャメルは帰って早々、ホウキを取り、床を掃いた。
キャメルが片付けている間も男は依然として、酒を煽っている。
彼を叱ってやりたいとも思ったが、それは必要ないだろう。
ただこうして温かい空間に、混ざっているという実感が欲しかった。嫌な思い出を作りたくはなかった。
この日常が終わるまで、残りわずかなのだから。
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