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三章 甘い恋
14.新婚みたい
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キャメルが厨房に行き、数分が経つと、たいそう綺麗なサンドウィッチを持って彼女は出てきた。そして、褒められたそうに表情を輝かせている。
「とても美味しそうなサンドウィッチだね。失礼を聞くが、これは本当に君が作ったのかい?」
リゼから彼女の調理の出来なさと盛り付けの芸術的センスをホレイナは聞いていたので、その速さや出来に驚いていた。
実際、これだけを見れば料理も盛り付けも上手でありそうなものであったが、彼女はほんのひと握りの料理しか出来なかった。このサンドウィッチも単に思い入れがあるだけだ。
「ええもちろん!妹とピクニックに行ったときによく作ってました。妹は美味しいと言いながら食べてくれたので、味は保証できますよ」
「それなら良かった。それでサンドウィッチが結構多いようだけど、これは?」
「実は私もお昼がまだなので食べようかな、と。ああ、でも席は全然別の場所にしますし、なんなら当主様が決めたところに座るので!・・・ダメでしょうか?」
「ダメじゃないさ。お腹を空かせたら、皆食事をする権利があるからね。席はそうだね。同じ空間にいて同じ味を共有しているのに、席を離すのもおかしいから隣に座ってよ」
慌てふためくキャメルにホレイナは自分の隣の席を指さした。彼女の体裁やら人の目やらを気にする素振りはホレイナの前では意味を成さないらしい。彼女が頗る拒否してもホレイナは強引に隣の席に座らせた。一つ、既成事実の完成である。
「コーヒーだ...」
キャメルはホレイナの気迫に観念して彼の隣に座ると、コーヒーを一口啜り、そう呟いた。そして、無言で砂糖を入れる。子供舌な彼女にはブラックはまだ早かったらしい。
「君が作ったサンドウィッチ美味しいね!」
「そう言ってもらえて嬉しいです」
対して、ホレイナは口いっぱいにサンドウィッチを頬張ってから飲む込んだ。彼女の言う得意料理ということだけあって味は確かなものであった。
キャメルは素直にホレイナの感想を受け取り、彼のサンドウィッチを頬張る横顔を眺めた。思えば、コーヒーを一緒に入れたり、彼のためにサンドウィッチを作ったり、こうして隣で食事をしたりと、それらは店員と客の関係を越えたような行為にキャメルは思えた。私と彼が店員と客の関係では無いならば、はてなんだろうか。兄妹や夫婦という近すぎる距離感ではないだろうし、同僚や知人みたいな遠すぎる距離感でもない。・・・言わば『新婚』と言えようか。
「なんだか私たち、新婚みたいですね」
「っ!?ゴホッゴホッ」
「当主様、大丈夫ですか?!」
「大丈夫だ 、問題ない。ただ動揺してしまっただけで...。ゴホッ」
「今、水を持ってきますね!」
「ありがとう、持ってきてもらうと助かる...」
キャメルは『新婚みたい』と、ホレイナに聞こえるように呟くと、彼は酷く驚き、噎せた。自分が飲み込んだ言葉をそうも容易く言ってしまうとは思わなかったからだ。きっと彼女にとっては安い言葉なのかもしれないが...。いや、そうとは決めつけるにはまだ早い、早計だ。彼女の口からその真相を聞かねば。
「とても美味しそうなサンドウィッチだね。失礼を聞くが、これは本当に君が作ったのかい?」
リゼから彼女の調理の出来なさと盛り付けの芸術的センスをホレイナは聞いていたので、その速さや出来に驚いていた。
実際、これだけを見れば料理も盛り付けも上手でありそうなものであったが、彼女はほんのひと握りの料理しか出来なかった。このサンドウィッチも単に思い入れがあるだけだ。
「ええもちろん!妹とピクニックに行ったときによく作ってました。妹は美味しいと言いながら食べてくれたので、味は保証できますよ」
「それなら良かった。それでサンドウィッチが結構多いようだけど、これは?」
「実は私もお昼がまだなので食べようかな、と。ああ、でも席は全然別の場所にしますし、なんなら当主様が決めたところに座るので!・・・ダメでしょうか?」
「ダメじゃないさ。お腹を空かせたら、皆食事をする権利があるからね。席はそうだね。同じ空間にいて同じ味を共有しているのに、席を離すのもおかしいから隣に座ってよ」
慌てふためくキャメルにホレイナは自分の隣の席を指さした。彼女の体裁やら人の目やらを気にする素振りはホレイナの前では意味を成さないらしい。彼女が頗る拒否してもホレイナは強引に隣の席に座らせた。一つ、既成事実の完成である。
「コーヒーだ...」
キャメルはホレイナの気迫に観念して彼の隣に座ると、コーヒーを一口啜り、そう呟いた。そして、無言で砂糖を入れる。子供舌な彼女にはブラックはまだ早かったらしい。
「君が作ったサンドウィッチ美味しいね!」
「そう言ってもらえて嬉しいです」
対して、ホレイナは口いっぱいにサンドウィッチを頬張ってから飲む込んだ。彼女の言う得意料理ということだけあって味は確かなものであった。
キャメルは素直にホレイナの感想を受け取り、彼のサンドウィッチを頬張る横顔を眺めた。思えば、コーヒーを一緒に入れたり、彼のためにサンドウィッチを作ったり、こうして隣で食事をしたりと、それらは店員と客の関係を越えたような行為にキャメルは思えた。私と彼が店員と客の関係では無いならば、はてなんだろうか。兄妹や夫婦という近すぎる距離感ではないだろうし、同僚や知人みたいな遠すぎる距離感でもない。・・・言わば『新婚』と言えようか。
「なんだか私たち、新婚みたいですね」
「っ!?ゴホッゴホッ」
「当主様、大丈夫ですか?!」
「大丈夫だ 、問題ない。ただ動揺してしまっただけで...。ゴホッ」
「今、水を持ってきますね!」
「ありがとう、持ってきてもらうと助かる...」
キャメルは『新婚みたい』と、ホレイナに聞こえるように呟くと、彼は酷く驚き、噎せた。自分が飲み込んだ言葉をそうも容易く言ってしまうとは思わなかったからだ。きっと彼女にとっては安い言葉なのかもしれないが...。いや、そうとは決めつけるにはまだ早い、早計だ。彼女の口からその真相を聞かねば。
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