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三章 甘い恋

13.初めての共同作業

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「当主様は自分でコーヒーをお入れになるんですか?」

「そうだよ。身体を動かしたいし、朝は一人で優雅に過ごしたいから目覚めの一杯にね」

ホレイナはその貴族の位に似合わず、朝の食事を自分で準備している。それは彼の家に使用人が少ないのもあるが、もとより貧しい土地であったエセルター領の貴族の風習とも言えよう。

「それじゃあ最初は豆を挽くところから始めようか。左手は土台を抑えて、右手はハンドルを握って」

ホレイナが慣れた手つきでミルにコーヒー豆を適量入れると、キャメルは彼に言われたように左手を土台へ、右手をハンドルへと添えた。

「そしたらキャメル、後ろ失礼するよ」

ホレイナはそう言うと、キャメルの後ろへと回り、彼女の体を包み込むようにして手に触れた。
そして、キャメルはこの状況がものすごく不埒なものなのではないか、と胸がドキドキしていた。それが自分自身の勘違いだとなしても、彼の吐く息が髪を撫でるたびに胸が高鳴り、その勘違いを加速させていた。

「右手を丁寧にゆっくり回して、粒が均一になるように。そう、上手だよキャメル」

「は、はい」

ホレイナがキャメルの手の上に自身の手を重ねながら呟く。耳元のすぐ横で囁かれたキャメルはまだ慣れていないように初々しく、その耳を赤く染めた。胸の高鳴りまだ止まらなかった。

「もうそろそろいいかな。十分にコーヒーの香りがするから」

ホレイナが辺りを嗅ぎ、コーヒーの匂いがすると重ねた手と寄せた体を離した。キャメルは内心ほっとしながらも彼と同じように匂いを嗅いだ。ほんわかと良い匂いが香る。

「なんだか落ち着く匂いですね。ずっと嗅いでいたいです」

「コーヒー豆は挽いたときが一番良い香りを出すからね。それじゃあ次はフラスコに熱湯を入れて、挽いた豆をこっちに入れて」

「分かりました。・・・こうですか?」

「上出来だね。そしたら火をつけて、これをフラスコに刺そうか」

「こうですね。うわ、水が徐々に上がってきてます!」

「初めて見ると新鮮かもね。私はもう見慣れちゃったけど」

フラスコの中の水は徐々に上がるとコーヒー豆と混ざり、その色を淀ませた。それをかき混ぜてから火を止めると、今度は下がっていきフラスコの中に戻っていった。
水が勝手に上昇するのも、ひと仕事終えたと言わんばかりに下降するのもキャメルにとっては初めての体験で、目をキラキラと輝かせていた。
そして、コーヒーが出来上がり、カップに注がれると、二杯のカップは、寄り添うようにして眺める二人の影を落とした。その影は今度は向かい合わせて微笑みあった。

「上手に出来ましたね」

「それは飲んでみないと分からないけれど、見た目も匂いも完璧だ。きっと味も良いだろうね」

「そう言えば、当主様はお昼をもうお食べになりましたか?」

「そう言えばまだ食べていなかったな。急いで出てきてしまったから」

「そしたら、私がサンドウィッチを作ってあげますよ。唯一の得意料理なので!」

「本当かい?!キャメルの手料理が食べられるなんて楽しみだ」

「任せてください。とっておきのを作るので!」

「・・・怪我だけはしないでね」

「なんだか新婚みたいだね」という言葉を飲み込みながらホレイナはそう言葉を返した。正しい選択なのかは分からないが、自分の理性が紳士的であって助かった、と安堵した。
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