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三章 甘い恋
11.お泊まり会
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「そろそろ酔い潰れる前にあなたたちは早く布団に入って寝なさい。風邪引くわよ」
「まだ...、俺たちは飲める...」
「そう言って、前も酔い潰れてたでしょ。出禁にされたいの?」
「されたくない...」
「それじゃあ早く宿に戻ることね。・・・まったく、子供じゃないんだから」
宴の余韻も程々に呑んだくれの男たちは飲み足りなそうな表情で宿に戻っていき、キャメルたちが後片付けを終える頃には宿の方から威勢のいいいびきが聞こえてきた。すぐに寝付くあたり、どうやら男たちはお酒以外にも宴の雰囲気に酔っていたらしい。
「片付けも終わったことだし、私たちもそろそろ寝ましょうか」
「えっ、一緒に寝てくれるんですか!?」
「一つの布団は汚れて使えないし、そもそもベッドはひとつしかないからそうなるわね。きっと当主様も今夜は来ないだろうしね。ベッドが狭い以外に支障は無いし、あなたもそれで大丈夫でしょう?」
「もちろん、大丈夫です!」
リゼがそう言うと、キャメルは目を輝かせながら頷いた。これで念願のお泊まり会が成せる、と思ったからだ。キャメルは顔をニヤつかせながら冷たい水も関係なく、さっさと皿洗いを終わらせた。
「これは私の方が心配ね...」
リゼの杞憂を一つ置いて。
「リゼさん、早く寝ましょう!」
「分かったからちょっと待ってて」
歯磨きやら着替えやらを終わらせると、キャメルは一枚の薄い布を掛け、恍惚な表情でリゼを待った。リゼは少しの不安を抱きながらもその布団に入り、横になった。
やがて電気が消える。キャメルは暗闇に目が慣れると、リゼの方を見て、にっと嬉しそうに笑った。
「何よ」
「いえなんでも。ただ、リゼさんと目が合ったのが嬉しかったのでつい」
「そう、それならあなたが寝るまでずっと見てやるわ」
「そんなこと言って良いんですか?私は朝まで起きれちゃいますよ」
「そしたらとことん付き合ってあげる」
「それならお話いっぱいしましょうよ!こうして同じくらいの歳の子とお話するのが夢だったんです!」
「良いわ、相手になってあげる」
「それでは、まずは簡単な話題から行きましょうか。例えば出身とか」
キャメルたちはそんなふうにして他愛もない会話をしばし交わし続けた。それは出身や今までの思い出、少し暗い恋の話など色々だ。お互いに理解を深めたかったから、話題一つ一つが新鮮で掻い摘んで話しても時間が足りないほどだった。
「あらら、寝ちゃってるわ」
程なくしてリゼが話終えると、返ってきたのは相槌ではなく、キャメルの寝息だった。朝まで起きれると言ったのに、貴族の整った生活の後では夜更かしをするのは難しいらしい。リゼはキャメルに布団を掛け直すと、その安らかな寝顔を眺め、過去の自分の姿と重ねた。
「いい寝顔だこと」
リゼはその純粋そうなキャメルの頬を手でなぞり、自分もまた身体に布団をかけ直した。やがて夜の帳が下りると、布団からは二人の安らかな寝息が聞こえてきた。宴は今日も幕を閉じたのであった。
「・・・ん。いつの間に寝ちゃってたんだろう。・・・あれ、リゼさん?」
翌日。朝の鬱陶しい陽射しを浴び、キャメルは目を覚ますと、リゼがすでにいないことに気づき、彼女が寝ていたところを触った。少しの温もりを感じられたから、リゼがどこかにいってからまだそんなに時間は経っていないようだった。
キャメルは安堵しながら、支度をしようとテーブルに手をつくと、そこに一枚の紙があるのを見つけた。
『今日は友人たちと会う日だからあなたは大人しく待っててね。夕方くらいには帰ってくるから』
その紙を見てみるとそんなことが書いてあった。リゼにもプライベートがあるのは分かるし、昼間には客が滅多に来ないのも分かるのだが、エセルター領に来てから実質二日目で一人になるのは心細かった。
「それでもやらないと行けないですよね!」
キャメルはそう意気込みながら、喫茶店の制服をまとい、快活に目の前の扉を開けた。
「まだ...、俺たちは飲める...」
「そう言って、前も酔い潰れてたでしょ。出禁にされたいの?」
「されたくない...」
「それじゃあ早く宿に戻ることね。・・・まったく、子供じゃないんだから」
宴の余韻も程々に呑んだくれの男たちは飲み足りなそうな表情で宿に戻っていき、キャメルたちが後片付けを終える頃には宿の方から威勢のいいいびきが聞こえてきた。すぐに寝付くあたり、どうやら男たちはお酒以外にも宴の雰囲気に酔っていたらしい。
「片付けも終わったことだし、私たちもそろそろ寝ましょうか」
「えっ、一緒に寝てくれるんですか!?」
「一つの布団は汚れて使えないし、そもそもベッドはひとつしかないからそうなるわね。きっと当主様も今夜は来ないだろうしね。ベッドが狭い以外に支障は無いし、あなたもそれで大丈夫でしょう?」
「もちろん、大丈夫です!」
リゼがそう言うと、キャメルは目を輝かせながら頷いた。これで念願のお泊まり会が成せる、と思ったからだ。キャメルは顔をニヤつかせながら冷たい水も関係なく、さっさと皿洗いを終わらせた。
「これは私の方が心配ね...」
リゼの杞憂を一つ置いて。
「リゼさん、早く寝ましょう!」
「分かったからちょっと待ってて」
歯磨きやら着替えやらを終わらせると、キャメルは一枚の薄い布を掛け、恍惚な表情でリゼを待った。リゼは少しの不安を抱きながらもその布団に入り、横になった。
やがて電気が消える。キャメルは暗闇に目が慣れると、リゼの方を見て、にっと嬉しそうに笑った。
「何よ」
「いえなんでも。ただ、リゼさんと目が合ったのが嬉しかったのでつい」
「そう、それならあなたが寝るまでずっと見てやるわ」
「そんなこと言って良いんですか?私は朝まで起きれちゃいますよ」
「そしたらとことん付き合ってあげる」
「それならお話いっぱいしましょうよ!こうして同じくらいの歳の子とお話するのが夢だったんです!」
「良いわ、相手になってあげる」
「それでは、まずは簡単な話題から行きましょうか。例えば出身とか」
キャメルたちはそんなふうにして他愛もない会話をしばし交わし続けた。それは出身や今までの思い出、少し暗い恋の話など色々だ。お互いに理解を深めたかったから、話題一つ一つが新鮮で掻い摘んで話しても時間が足りないほどだった。
「あらら、寝ちゃってるわ」
程なくしてリゼが話終えると、返ってきたのは相槌ではなく、キャメルの寝息だった。朝まで起きれると言ったのに、貴族の整った生活の後では夜更かしをするのは難しいらしい。リゼはキャメルに布団を掛け直すと、その安らかな寝顔を眺め、過去の自分の姿と重ねた。
「いい寝顔だこと」
リゼはその純粋そうなキャメルの頬を手でなぞり、自分もまた身体に布団をかけ直した。やがて夜の帳が下りると、布団からは二人の安らかな寝息が聞こえてきた。宴は今日も幕を閉じたのであった。
「・・・ん。いつの間に寝ちゃってたんだろう。・・・あれ、リゼさん?」
翌日。朝の鬱陶しい陽射しを浴び、キャメルは目を覚ますと、リゼがすでにいないことに気づき、彼女が寝ていたところを触った。少しの温もりを感じられたから、リゼがどこかにいってからまだそんなに時間は経っていないようだった。
キャメルは安堵しながら、支度をしようとテーブルに手をつくと、そこに一枚の紙があるのを見つけた。
『今日は友人たちと会う日だからあなたは大人しく待っててね。夕方くらいには帰ってくるから』
その紙を見てみるとそんなことが書いてあった。リゼにもプライベートがあるのは分かるし、昼間には客が滅多に来ないのも分かるのだが、エセルター領に来てから実質二日目で一人になるのは心細かった。
「それでもやらないと行けないですよね!」
キャメルはそう意気込みながら、喫茶店の制服をまとい、快活に目の前の扉を開けた。
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