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三章 甘い恋

5.知る由はある

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「なぜそれを知っているのですか?」

「そこにナターシャという子がいるだろう。その者から手紙を受け取ったことが何回かあって、いつかペンダントを貰ったんだ。その中の写真に君が写っていた気がしてね」

「ナターシャが、ですか?」

「ああ、そうだ」

キャメルが一つ質問をすると、また一つ謎が増えてしまった。
確かにキャメルにはナターシャという妹はいるが、キャメルは彼女がどうして、独りでに他国の貴族と連絡を取っていたのか分からなかった。そもそも、彼女は貴族の暮らしが嫌いで、貴族に興味などないはずだ。それゆえに庶民のような暮らしをして、貴族のことなど知らない。
・・・あるいは貴族と知らずに連絡を取っていたか。
幸いにもキャメルはナターシャが連絡を取るような相手に一人、心当たりがあった。

「もしかして、あなたはレイナさんですか?」

キャメルが問うと、ホレイナは朗らかな笑みを見せた。肯定である。
レイナというのはナターシャが好きな小説書きの一人だ。探偵小説を主に書いている、と言ってもその形態はさまざまで恋愛、ホラー、ミステリーなどに探偵小説の要素を落とし込んでいる。そして、探偵小説以外も書けるたちである。
ナターシャは彼の書く探偵小説がキャメルに読み聞かせをするほど好きであった。レイナ宛の手紙を送りたい、と父に駄々をこねていたこともキャメルは知っていた。
それが結果として今に結びつくのだろうが、それと同時にキャメルは何か目を付けられるようなことをしたか?と疑問に思った。それは彼の口から聞けるだろう。

「私はとある計画のために公務の合間を縫って、探偵小説なり恋愛小説なりを書いていた。今はもう公務に集中しているから書いてはいないんだけど、ある日一通の手紙が届いてね。それはファンレターであると同時に助け求める手紙でもあったんだ」

「助け、ですか?」

「そう。お姉様の婚約相手の様子がおかしい、ってね。きっと彼女は探偵の真似事をしていたつもりだったんだけど、大きな厄介事を見つけてしまったようだった」

「・・・そうですか」

ナターシャでさえ見つけられた変化に気づけなかった盲目的な自分がばかばかしい、とキャメルは思った。それは恋に溺れていたという話だけではないだろう。ずっと気付かないフリをして逃げてきた醜態だ。

「話を続けよう。そこで私は何かあったらエセルター領に来るといい、と提案したんだ。そしたらこのペンダントが送られてきてね。そして、彼女は探偵のように言ったんだ」

「『もしこの人を見つけたら助けて』ってね。まあ、実際は手紙に書いていただけなんだけど、これが君の出身を知っていたタネってわけだ」

「そうみたいですね。このペンダントもこの写真も全部見覚えがありますし、ナターシャが持っていたものでしょう。それで私はこの後、何をすればいいのでしょうか?ナターシャの言う助けが遂行し切った今、当主様も私もすべきことはありませんし」

「そう焦ることはないよ、キャメル嬢。まずはお茶を一杯飲んでから落ち着こうじゃないか。それにまだ君の助けは終わってなんかいない」

「助けが終わっていない、と言いますと?」

「そのままの意味だ。単に君を公爵邸に連れてきてお喋りをするだけが助けるとは言わないだろう?それにわざわざ公爵邸にまで呼びつけたんだ。それ相応の話があるに決まってるじゃないか」

「その話というのはなんで...」

ホレイナはキャメルの言葉を遮るように、彼女の唇に指を添えた。キャメルは驚きの表情を見せたが、すっと言葉を飲み込み大人しく待った。

「キャメル嬢、そう焦ることはないと言ったばかりじゃないか。そう会話の種を踏んでいたら咲く話もないよ」

「・・・分かりました。それと私はもう貴族では無いので、キャメル嬢と呼ぶのはお止め下さい」

「善処しよう。それではキャメル、まず君に聞こう。君はなぜここに来たんだ」

ホレイナはそう不敵な笑みで問うた。
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