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三章 甘い恋

4.当主との面会

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「お待ちしておりました、リゼ様、キャンドル様。外は寒かったでしょうから、さっそく応接室へお連れしましょう」

キャメルとリゼが公爵邸に入ると、扉を囲むようにして使用人が侍っていた。その中でも一番歴が長そうな老父がおじきを一つしてから、そう言い、キャメルたちは流れるままに応接室へと連れられた。
一つ一つの動作が洗礼された動きであった。しかしながら、ジェレマイア領の公爵邸だとこうもキビキビと使用人が働くことはないだろう。何せ寒い外で頑なにお茶会を開くほどだ。お飾りの応接室にはホコリが沢山積もっているに違いない。

「それでは当主様をお呼びしますので、少々お待ちください」

老父は慣れた手つきで暖炉に薪をくべ、お茶を出すと、そそくさと部屋を後にしてしまった。その髪を銀にしていなかったら齢六十を超えているとは誰も思うまい。

「暖かい部屋に温かいお茶。追い返そうと思っている人にはしないおもてなしだろうから、ひとまずは安心ね」

「良かったです。会って早々、蹴りを入れられずに済みそうですから」

キャメルが笑顔でそう言うと、リゼは顔をひきつらせながら「そうね」と返した。リゼにはキャメルがなぜそう言うのか分からなかったが、それが異常であり、キャメルの笑顔も恐ろしいものである、ということは理解出来た。

「待たせてすまない。少しばかり書類を片付けていてな、思ったより遅れてしまった」

「そういう前置きはいいから、早く用件を言ってくれない?」

キャメルたちがお茶を啜りながら暖を取っていると、しばらくしてエセルター領当主のホレイナがやってきた。彼は遅れを取り繕うように言葉を並べると、リゼがそれを崩すように単刀直入に告げた。

「分かった。それではさっそく本題に入りたいとこだけど...、コスター!これから大事な話があるから、この小さい方をお連れして席を外してくれないか?」

「えっ、私も?」

「そうだ。二人だけで会話したいからな」

「変なこと言われてもそそのかされないようにね!」

リゼはホレイナに届かないように小さい声でキャメルに耳打ちをし、コスターと呼ばれた老父と共に部屋から出ていってしまった。これで残ったのはキャメルとホレイナだけで、彼ははため息をつくと、どっぷりと二人がけのソファに座った。大層偉そうである。

「改めて自己紹介をさせてもらおう。私はエセルター領当主のホレイナだ。以後お見知り置きを」

「キャンドルです。こちらこそよろしくお願いいたします️」

「キャンドル、エセルター領ではそう名乗っているのか?」

「・・・ええ。そちらの方が良いかと思いまして」

キャメルは自身が偽名を使っていることが既にホレイナにバレているのに心底驚いた。あの男に聞いたのだろうが、彼女は婚約破棄された貴族令嬢に過ぎず、今やただの一般人であるのだ。もはや貴族の名に縋るのも痛々しい。

「ふむ、そうか。それで本当の名前はなんだ?」

「キャメルと言います。ジェレマイア領の一介の伯爵家の者です」

「それはアールマイト家であろうな?」

ホレイナが不敵な笑みを浮かべると、キャメルはぎょっとした。たかがごまんとある伯爵家の内の一つであるし、他国の伯爵家のことなど到底知る由も、知ろうと思うこともない。それなのに目の前の彼はそれを知っていた。キャメルは彼に自分の全てを知られているような気がして、部屋は温かいというのに体を震わせた。

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