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三章 甘い恋
2.銭ゲバ野郎
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「それじゃあ、ありがとうねヘレン。助かったわ」
キャメルが目を覚ましてから数日後。怪我も完治し、いよいよキャメルがこの医務室から離れる日がやってきた。すでにキャメルや男たちは部屋から出払っており、部屋に残っていたのは治療者のヘレンとリゼだけだった。リゼがヘレンにお礼を言うと、ヘレンは何かを指図するように机を指で叩いた。
「代金がまだなんですけど。タダ働きさせるつもり?」
「それもそうね、すっかり忘れていたわ。金貨一枚で足りるかしら?」
リゼが金貨一枚を渡すと、ヘレンはそれを眺め、鏡のように自身の顔を映した後に手に握りしめた。満足したか、とリゼが思ったのも束の間、ヘレンは項垂れた様子でぼそっと呟いた。
「・・・足りない」
「え?」
「足りないって言ってるの!これじゃ、酒を一週間も飲んだらすぐ無くなるわ!しかも、他国の貴族を治療したのよ、賄賂の一つや二つあっても良いじゃない!」
「しょうがないじゃない。たださえ私の喫茶店は繁盛していないのに。精々払えたとこで金貨一枚が限界だわ」
「そんな殺生な...。こうなったら、今回のことをあることないこと付け加えて、酒場で盛大に言いふらしてやる!」
「それはやめてちょうだい。それに治療者が酒場みたいな不健康まっしぐらの場所に行かないで。・・・そうね、これで満足かしら」
暴れるヘレンを宥めながらリゼはもう一枚の金貨と紙を差し出した。
「たかが金貨一枚で賄賂にならないっての...。それでこっちの紙はなんなの?」
「それを当主様に見せればたんまりと金貨をくれるわ」
「本当に!?私を騙そうとしてるんじゃないでしょうね」
「ええ、もちろん。あなたが当主様と話せるのかは別としてね」
「ひひ、酒のためなら無礼も犯してやるわ!」
「それはやめておきなさい」
とんだ銭ゲバ野郎だ、とリゼは思いながら金貨をうっとりと眺めるヘレンを尻目に部屋を出ていった。
「・・・そのとき俺はこうガバッと覆い被さったんだ。あいつはナイフを持ちながら暴れてたから体にいくつかナイフの刺し傷が出来ちまった。だが、俺の鍛え抜かれた体じゃ、それすらも痛くないぜ!」
「そうなんですか?触ってみますね」
「おい、急に触ろうとするな。あっ痛!」
「・・・何してるのあなたたち」
リゼが部屋を出ると、キャメルたちが楽しげに会話をしていた。キャメルが包帯の巻かれた箇所を指で突くと男は苦悶の表情を見せ、キャメルは不思議そうにそれを眺めていた。本当に不思議そうである。
「あっ、リゼさん!用事はもう済みましたか?」
「ええ済んだわ。だけどこれは一体なんの有様?」
「リゼさんよ、こいつの教育はどうなってるんだ。普通、古傷は触らないだろ...」
「私には知ったこっちゃないわ。ただ、あなたの自慢話が不愉快だってことは分かるわ」
「くそっ!ここに俺の仲間は居ねぇのかよ...!」
「自慢話をしたいのなら、宿に戻る事ね。あなたの言うお仲間さんがきっと聞いてくれるわ」
リゼはそう言うと、男に宿の鍵を手渡した。これで帰れ、ということだろう。男はそれを受け取ると逃げるように帰っていった。かくして残ったのはリゼとキャメル、そして...。
「うひょー!酒酒!」
銭ゲバ野郎だけだった。
キャメルが目を覚ましてから数日後。怪我も完治し、いよいよキャメルがこの医務室から離れる日がやってきた。すでにキャメルや男たちは部屋から出払っており、部屋に残っていたのは治療者のヘレンとリゼだけだった。リゼがヘレンにお礼を言うと、ヘレンは何かを指図するように机を指で叩いた。
「代金がまだなんですけど。タダ働きさせるつもり?」
「それもそうね、すっかり忘れていたわ。金貨一枚で足りるかしら?」
リゼが金貨一枚を渡すと、ヘレンはそれを眺め、鏡のように自身の顔を映した後に手に握りしめた。満足したか、とリゼが思ったのも束の間、ヘレンは項垂れた様子でぼそっと呟いた。
「・・・足りない」
「え?」
「足りないって言ってるの!これじゃ、酒を一週間も飲んだらすぐ無くなるわ!しかも、他国の貴族を治療したのよ、賄賂の一つや二つあっても良いじゃない!」
「しょうがないじゃない。たださえ私の喫茶店は繁盛していないのに。精々払えたとこで金貨一枚が限界だわ」
「そんな殺生な...。こうなったら、今回のことをあることないこと付け加えて、酒場で盛大に言いふらしてやる!」
「それはやめてちょうだい。それに治療者が酒場みたいな不健康まっしぐらの場所に行かないで。・・・そうね、これで満足かしら」
暴れるヘレンを宥めながらリゼはもう一枚の金貨と紙を差し出した。
「たかが金貨一枚で賄賂にならないっての...。それでこっちの紙はなんなの?」
「それを当主様に見せればたんまりと金貨をくれるわ」
「本当に!?私を騙そうとしてるんじゃないでしょうね」
「ええ、もちろん。あなたが当主様と話せるのかは別としてね」
「ひひ、酒のためなら無礼も犯してやるわ!」
「それはやめておきなさい」
とんだ銭ゲバ野郎だ、とリゼは思いながら金貨をうっとりと眺めるヘレンを尻目に部屋を出ていった。
「・・・そのとき俺はこうガバッと覆い被さったんだ。あいつはナイフを持ちながら暴れてたから体にいくつかナイフの刺し傷が出来ちまった。だが、俺の鍛え抜かれた体じゃ、それすらも痛くないぜ!」
「そうなんですか?触ってみますね」
「おい、急に触ろうとするな。あっ痛!」
「・・・何してるのあなたたち」
リゼが部屋を出ると、キャメルたちが楽しげに会話をしていた。キャメルが包帯の巻かれた箇所を指で突くと男は苦悶の表情を見せ、キャメルは不思議そうにそれを眺めていた。本当に不思議そうである。
「あっ、リゼさん!用事はもう済みましたか?」
「ええ済んだわ。だけどこれは一体なんの有様?」
「リゼさんよ、こいつの教育はどうなってるんだ。普通、古傷は触らないだろ...」
「私には知ったこっちゃないわ。ただ、あなたの自慢話が不愉快だってことは分かるわ」
「くそっ!ここに俺の仲間は居ねぇのかよ...!」
「自慢話をしたいのなら、宿に戻る事ね。あなたの言うお仲間さんがきっと聞いてくれるわ」
リゼはそう言うと、男に宿の鍵を手渡した。これで帰れ、ということだろう。男はそれを受け取ると逃げるように帰っていった。かくして残ったのはリゼとキャメル、そして...。
「うひょー!酒酒!」
銭ゲバ野郎だけだった。
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