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二章閑話 回想

1.とある御者の話①(1/4)

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「イレリアちゃん、いつもありがとうな。王宮の方から薬の材料なんか運んできてもらって。疲れただろ?休んどきな!」

「ありがとう、おじさん。お言葉に甘えて休ませてもらうよ。それに私が居たら荷下ろしは邪魔になるからね」

「はは、ちげいねぇな!」

ある日、王宮からジェレマイア領に一人の御者がやってきていた。イレリアと呼ばれた彼女は王宮で名を馳せている御者であったが載せられた荷物を一人じゃ下ろせないほど小柄な女で、イレリア自身もそれを自覚しているようだった。だから、配達先のおじさんに荷降ろしを任せ、当の本人は温かいお茶を飲みながら彼の様子を眺めていた。
忙しなく荷降ろしする彼は元は王宮専属の調合師リリックだ。現在はジェレマイア領にある小さな薬屋を営んでおり、毎回イレリアから薬の元となる材料を買っていた。
彼の作る薬は様々で街のみんなに買ってもらうような安価な薬から特殊な薬まで、幅広く取り扱っていて、王宮からの材料調達が不可欠であった。自分で行くにも距離的な問題や法律的な問題があったから、彼にとってイレリアの存在は都合が良かったのだ。

「これで荷物は全部だな。これから馬小屋で休憩か?」

「そうだね。しばらくは運搬依頼があるまで滞在かな。・・・もしかして、もう運搬依頼がある感じ?今日の朝に着いたばっかだからいつでも行けるよ!」

「さすがに昨日の今日で依頼はしないさ。でも、いつか余ってる薬を売りに行ってもらいたいけどな!」

「そう言っていつも余ってる薬を特売にして売り捌くくせに!エセルター領なら一日半くらいで着くから、売りに行けるのに。あっ、エセルター領と言えば、そこの当主がもうすぐ結婚するんだって。適齢期なんだから当たり前だけど、おめでたいよね」

「それを言ったら、こっちの当主様の子息のヒルトン様だって結婚が近いんだぞ?俺は誕生祭の今日、結婚発表すると見たね」

「おっ、そうだとしたらおめでたいことだね」

イレリアたちがそんなふうに他愛もない世間話をしていると、不意に厚手の服を厳重そうに着てローブまでをまとった男が近づいてきた。

「ちょっと君、いいかな」

「私ですか?」

「そうだ、ちょっとこっちに来てくれないか」

厚着の男が手招きすると、リリックは眉をひそめてイレリアにコソコソと耳打ちした。

「大丈夫か?見るからに怪しいけど」

「きっと運搬依頼だと思うんだけど...。なにかあったときのために隠れながら見てくれる?」

「おし、任せとけ」

「おい、何をコソコソ喋っている。こっちに来いと言っているのだ」

「ちょっと代金のことで話し込んでただけじゃないですかぁ。お金のデリケートな問題は声を大にして話せるものじゃないでしょう?」

男は苛立った表情を見せ、声を静かに荒らげた。なんて短気な男だ、と思いながらイレリアは得意のゴマすりで対応した。御者には取引相手との交渉で必要なスキルなのだ。

「それは確かにそうだが、お金の話をしていたように思えなかったんだが...。まあいい、出来るだけ人気のないところに行こう」

男は納得のいってないようであったが、時間に追われているようでとやかくは言わずに、彼女を路地裏へと連れ込んだ。


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