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二章 のんびり日常

5.初めての客

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「こんなものかしらね。意外と簡単だったでしょう?」

「ええ、そうですね。これなら今すぐにでも対応出来そうです」

「それは良かったわ」

キャメルは数十分程度、リゼから接客の何たるかを教えてもらった。意外にもやることは少なく、大雑把にまとめれば、注文を聞き、リゼに注文内容を知らせに行くということだけだろう。会計も料理もリゼが全部やってくれるので、元より仕事が少ないと言われればそれまでではあるが。

「そろそろお店を開かなくちゃいけないからちょっと待ってて」

リゼはそう言うと、鍵を掛けていたドアの戸を開けた。冷たいすきま風が一瞬通り、肌を震わせる。
そして、一刻の時を待ったが、客の気配はしてこなかった。

「お客さん、来ませんね」

「こんなものよ。開店間際からお客さんが来て繁盛なんかしてたら嫌でしょう?それにこの待っている時間が良いのよね。子供の帰りを待っているみたいで」

「母性的なんですね」

「まぁ、実際来るのは私より全然年上の人なんだけどね」

リゼはそう笑うと、椅子に座り、地面に届かない足をじたばたさせながら、外の様子を眺めていた。どちらかと言うと、親の帰りを待つ子供のような気がしたが、キャメルはそれを黙っていることにした。
しかしながら、この待ち時間が気持ちを馳せられる感覚はキャメルにも理解出来ていた。子どもの帰りを待つと言う母性的な感情よりかは、来るかも分からない婚約者を待つ乙女的な感情であったが、十分に彼女たちは近しい感情を静寂ながら共有しているだろう。
時計の針が動く音がする度に、時間が過ぎていくのを感じ、豪華なティーパーティーのセットの前で頬杖を突くあの頃の記憶を思い出した。キャメルは頬杖をつきながら時計を眺め、カウンターで時が訪れるのを待った。

「こんにちは。やってるか?」

しばらくの時を待つと、微動だにしていなかった入口の扉が開き、隙間風が入り込んできた。軽快なドアベルの乾いた音が鳴ると、背が高く、身だしなみをきちんと整えた男がやってきた。彼も一様にして髪が金に近しいものであったが、確かに母性を感じるには少々年が上である。

「いらっしゃいませ!」

「いらっしゃい」

キャメルが軽快に声をかける傍ら、リゼは気だるげそうに言った。キャメルは教えはなんだったのか、と思いつつも初めての来訪客にドキドキであった。

「おお、見ない顔が増えたな。お前さんは誰だ?」

「今日からここで働くこととなったキャンドルと申します」

「そうか、そうか。それじゃ、コーヒーを一つとサンドウィッチを一つ頂戴出来るか?」

「はい、了解しました」

リゼに教えられた通りに会話を交わし、注文を伝えると、キャメルはほっと一息を吐いた。練習通りに出来たこともそうだし、何より貴族と疑われなくて済んだのだ。大丈夫だと分かっていても、やはり少しばかりの恐怖が心にはあった。

「はい、サンドウィッチ」

「コーヒーはまだなのですか?」

綺麗に完成されたサンドウィッチを見ながら、キャメルは質問する。

「あの人は食後にコーヒーを飲みたい派だから。あと、お喋りな人だから話し相手になってあげて。きっと喜んでくれるわ」

「分かりました!」

キャメルがサンドウィッチの乗った皿を男の方に運び、席に着くと男は驚いたように笑った。

「ハハ、そんなにこれが食べたいのか」

「違います!一緒にお話したいなと思って」

「ほう、そうだったのか。確かにここは暇になりやすい場所だからな。ここは一つおじさんが話をしてやろう。どんな話が良いんだ?」

「ここに来るようになったきっかけ、みたいなの教えてほしいです」

「初対面にしてはストレートだな。・・・良いだろう、君の面の皮が厚いことに免じて話してやろう。俺と喫茶店『フィラ』の馴れ初めを...」

男が意味ありげにそう言うと、サンドウィッチを一口食し、少しばかり過去の昔話を話し始めた。
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