嘘を囁いた唇にキスをした。それが最後の会話だった。

わたあめ

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二章 のんびり日常

4.接客練習

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「「・・・・・」」

キャメルとリゼの距離が近くなる。そして、しばしの静寂が訪れた。
何を隠そうキャメルは喫茶店に入ったことなど一度も無いのだ。それゆえ、最初の会話の切り口を見い出せずに、リゼの瞳を見ることしか出来なかった。それでも、少しの笑みを浮かべながらじっと見つめ返してくるリゼに、早くと急かされているように感じ、無理矢理に言葉を考える。
キャメルには喫茶店に実際に入った経験こそ無かったものの、妹のナターシャからよく大衆小説を聞かされていた。そこから得た付け焼き刃の知識の中から最適な言葉を選んでみる。

「『お嬢様、ランチはいかがでしょう?』」

キャメルが大衆小説から借りてきた言葉で優雅に聞くと、リゼは呆れたような表情を晒した。

「ここをコンセプトカフェにでもするつもり?ここは至って普通の喫茶店だから、愛想良く「ご注文をどうぞ」で良いのよ」

「そうなんですね。それでは気を取り直して、ご注文をどうぞ」

「そうね。まずはコーヒーを頂けるかしら」

「かしこまりました。コーヒーですね。コーヒー一丁!」

「なんでそんな大きな声を出すの!喫茶店の雰囲気が台無しじゃない!」

「大きい声で言わないと伝わらないかなって思いまして」

キャメルが大きな声で言うと、リゼは驚いたようにぎょっとし、キャメルは不思議そうに頭を傾げた。
キャメルが読んだ大衆小説では飲食するものが注文されたときに威勢のいい声で掛け声を言っており、それが普通であるように振る舞っていた。それを真似てみたのだが、どうやら喫茶店では不人気なことだったらしい。

「普通は大きな声を出さないし、そのための注文票でしょ?というか、もしかして喫茶店に入ったことない?」

リゼの質問にキャメルはビクッと肩を震わせた。その様子を見てリゼは何処か納得したような表情を浮かばせた。

「そうよね、喫茶店に入ったことなければ接客の仕方も分からないわよね。まぁ、あなたの接客の最初の相手が私で良かったわ。常連さんに見せたら、何事かと思われるところだったもの」

「もしかして、クビですか」

「そんなことは無いけれど、まずはその変な知識を矯正させなくちゃいけないわね」

「へ、変!?」

「変よ、変。どこの喫茶店でも、コンセプトカフェでさえもあんな接客する人はいないわ」

「それでは正しい接客をご享受願えますか」

「ええ、もちろん。私の喫茶店の雰囲気を壊して欲しくはないからね。正午まではちょっと時間はあるし、それまで接客練習でもしておきましょう。気構えるほど難しくは無いから安心して」

リゼは注文票を手に取りながらそう言う。それにキャメルはほっとした様子で一息吐いた。
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