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二章 のんびり日常
2.喫茶店『フィラ』
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「お客さん、着きましたよ。ここがエセルター領の中央区です!段差気を付けてくださいね」
威勢の良い御者の声と共に、キャメルは馬車を降りた。途中、マリーが御者に手を引かれ、降りているのを見るに、彼女の怖さというのも御者に伝わっていたらしい。彼女の手を取る御者の手は少しばかり震えていた。
「それじゃ、私たちは中央通りの方なのでここまでですね」
「暇なときは遊びに来てね!」
マリーとアンはそう言いながら、手を振り、別れの挨拶を交わした。それに応えるようにキャメルたちもまた、手を振り返し、中央通りの人群れに消えていくマリーたちを見送った。そして、キャメルはその人群れの異様さに度肝を抜かれたように呆然としていた。
若い男や女の髪が金に限りなく近い色なのだ。髪染めをしているという前提知識さえ無ければ、何かの貴族パーティーのように思えてしまうほど、沢山の人が金色の髪を靡かせていた。しかし、キャメルにとっては髪色を茶色や黒色など民衆に寄せる手間が省けたので、ラッキーだった。
「それじゃ、私たちも行きましょう」
「そうですね。ここからは遠いんですか?」
「まあまあ、と言ったところね。でも大丈夫よ。二人で歩けばすぐだから」
リゼは上機嫌そうにニコニコとしながら、キャメルの手を引くと、人通りの少ない裏路地へと入っていった。
キャメルたちの足音さえ喧騒となるその路地は暗く、ジメジメとしており、物も散乱としていた。
キャメルが重い荷物を持って少しばかり足を取られ、つまずく度に、キャメルが辺りをキョロキョロと物珍しそうに見渡し、よそ見をする度にリゼはしょうがなさそうにキャメルの手を手繰り寄せた。キャメルはそれが少しもどかしく感じたが、やがて開けた場所に出ると、その閑散した雰囲気に少し見蕩れていた。
「着いたわ、ここが私の喫茶店『フィラ』よ」
そんなばかりに歩いていると、いつの間にかに喫茶店の目の前に来ており、リゼは息を切らしながら、喫茶店『フィラ』を紹介した。
キャメルは息を切らす彼女を不思議そうに思いながらも、その喫茶店の大きさに唖然とした。
「喫茶店にしては大きすぎませんか!?」
キャメルは喫茶店というからにはこじんまりとした小規模のものかとばかり思っていた。しかしながら、リゼの喫茶店は喫茶店というのには大きすぎるくらいで、貴族たちが密会をするような、繁盛してないとおかしいような大きさだった。
キャメルは本当にここが客が少なくて、穏やか場所なのか、もしかしたら、リゼに騙されたのではないか、と目を疑った。
「喫茶店と宿、それと自宅も兼ねているから多少は大きいかもしれないわね。それでも王宮の方の喫茶店には敵わないでしょう?」
「それはそうかもしれませんが...。本当にここが穏やかに過ごせる場所なんですか...?」
「喫茶店も宿もほとんど常連さんしか来ないし、仕事量も多くはないから、大丈夫よ」
「それならまぁ、良いのかも?」
「なんで疑問形なのよ。結構良い待遇だと思うんだけど?それこそ、あなたが前働いていたところよりもね!」
「た、確かにそうですね!でも、働いてみないと分かりませんから!」
リゼが機嫌を悪くしたようにムスッとすると、キャメルは慌てて言葉を取り繕った。リゼがどれだけ待遇の良さを語ったところで、貴族暮らしのキャメルにはその待遇の良さがどれだけのものか、分かりかねていた。
もっと平民の暮らしを知っていれば、『平民貴族』から始まり、喫茶店に至るまでの会話もスムーズに出来たんだろうな、と後悔の念に駆られながら、キャメルは一つ疑問を呟いた。
「それにしても、宿屋に常連さんがいるなんて、変なところですね」
「普通のところはね。まっ、それも夜になったら分かるわ。それよりも立ち話もなんだし早く入りましょう」
リゼにそう急かされると、キャメルは大きい鞄を片手に喫茶店のドアを開けた。
威勢の良い御者の声と共に、キャメルは馬車を降りた。途中、マリーが御者に手を引かれ、降りているのを見るに、彼女の怖さというのも御者に伝わっていたらしい。彼女の手を取る御者の手は少しばかり震えていた。
「それじゃ、私たちは中央通りの方なのでここまでですね」
「暇なときは遊びに来てね!」
マリーとアンはそう言いながら、手を振り、別れの挨拶を交わした。それに応えるようにキャメルたちもまた、手を振り返し、中央通りの人群れに消えていくマリーたちを見送った。そして、キャメルはその人群れの異様さに度肝を抜かれたように呆然としていた。
若い男や女の髪が金に限りなく近い色なのだ。髪染めをしているという前提知識さえ無ければ、何かの貴族パーティーのように思えてしまうほど、沢山の人が金色の髪を靡かせていた。しかし、キャメルにとっては髪色を茶色や黒色など民衆に寄せる手間が省けたので、ラッキーだった。
「それじゃ、私たちも行きましょう」
「そうですね。ここからは遠いんですか?」
「まあまあ、と言ったところね。でも大丈夫よ。二人で歩けばすぐだから」
リゼは上機嫌そうにニコニコとしながら、キャメルの手を引くと、人通りの少ない裏路地へと入っていった。
キャメルたちの足音さえ喧騒となるその路地は暗く、ジメジメとしており、物も散乱としていた。
キャメルが重い荷物を持って少しばかり足を取られ、つまずく度に、キャメルが辺りをキョロキョロと物珍しそうに見渡し、よそ見をする度にリゼはしょうがなさそうにキャメルの手を手繰り寄せた。キャメルはそれが少しもどかしく感じたが、やがて開けた場所に出ると、その閑散した雰囲気に少し見蕩れていた。
「着いたわ、ここが私の喫茶店『フィラ』よ」
そんなばかりに歩いていると、いつの間にかに喫茶店の目の前に来ており、リゼは息を切らしながら、喫茶店『フィラ』を紹介した。
キャメルは息を切らす彼女を不思議そうに思いながらも、その喫茶店の大きさに唖然とした。
「喫茶店にしては大きすぎませんか!?」
キャメルは喫茶店というからにはこじんまりとした小規模のものかとばかり思っていた。しかしながら、リゼの喫茶店は喫茶店というのには大きすぎるくらいで、貴族たちが密会をするような、繁盛してないとおかしいような大きさだった。
キャメルは本当にここが客が少なくて、穏やか場所なのか、もしかしたら、リゼに騙されたのではないか、と目を疑った。
「喫茶店と宿、それと自宅も兼ねているから多少は大きいかもしれないわね。それでも王宮の方の喫茶店には敵わないでしょう?」
「それはそうかもしれませんが...。本当にここが穏やかに過ごせる場所なんですか...?」
「喫茶店も宿もほとんど常連さんしか来ないし、仕事量も多くはないから、大丈夫よ」
「それならまぁ、良いのかも?」
「なんで疑問形なのよ。結構良い待遇だと思うんだけど?それこそ、あなたが前働いていたところよりもね!」
「た、確かにそうですね!でも、働いてみないと分かりませんから!」
リゼが機嫌を悪くしたようにムスッとすると、キャメルは慌てて言葉を取り繕った。リゼがどれだけ待遇の良さを語ったところで、貴族暮らしのキャメルにはその待遇の良さがどれだけのものか、分かりかねていた。
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「それにしても、宿屋に常連さんがいるなんて、変なところですね」
「普通のところはね。まっ、それも夜になったら分かるわ。それよりも立ち話もなんだし早く入りましょう」
リゼにそう急かされると、キャメルは大きい鞄を片手に喫茶店のドアを開けた。
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