嘘を囁いた唇にキスをした。それが最後の会話だった。

わたあめ

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二章 のんびり日常

1.道中の女子旅

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「へぇ、それじゃああなた、元々、王宮の方で書記をやっていたの!凄いわね」

「ええ、そうなんです。エセルター領では新しいことをやってみたくて」

「いわゆる都会疲れというやつね。エセルター領は他よりも治安は良いし、物価もそれなりだし、きっと休暇にはうってつけの場所になるわ」

「そうね。もし、何か新しい服があったら私の服屋にいらっしゃい。タダとはいはないけど、安くしてあげるから」

「気分転換したかったら、私の花屋にも来て!沢山の花に囲まれると絶対癒されるから!」

「えぇ、ぜひ行かさせてもらいますね」

エセルター領に向かう道すがら、キャメルはお茶を飲みながら、エセルター領に来た目的やアンたちの仕事のことなどを話していた。今のキャメルの設定は「王宮で書記を一年間やっていたが、残業や人間関係に疲れ、エセルター領に引っ越すことを決めた少女」だ。と言っても、書記の仕事は何も分からない。もし、それ関係の仕事に就いた暁には嘘が明るみになって、リゼたちに白い目で見られることだろう。彼女たちとは良好な関係を築いているからこそ、それはなんとしてでも避けたいことだった。

「まだ何をするかは決めていないんでしょう?」

「そうですね。出来れば穏やかに過ごせるところがあれば良いんですが...」

「穏やか、ね。そしたら、町外れの喫茶店とかはどう?客はあまり多くないし、煩くもないわよ」

「喫茶ですか。・・・いいかもしれませんね」

リゼの提案にキャメルは少し考えてから頷いた。人目に付きやすいところは決まって貴族に見つかりやすいし、喧騒さが際立つ。喫茶店で自分が働く姿は想像出来なかったが、町外れでのんびり出来るのなら、それはどうでも良かった。

「それじゃ、決まりね!」

リゼは自分のことのように上機嫌そうに笑いながら、キャメルの手を握った。キャメルはそれが何だかおかしな雰囲気な気がして、アンとマリーの方を見ると彼女らもまたニコニコと微笑んでいた。

「な、なんでそんなに皆さん、ご機嫌なんですか?」

「もちろん、決まってるじゃない。こんなに可愛い子がで働いてくれるのよ!こんな幸福、見たことないわ!」

「えっ!?」

リゼが嬉々とした表情を浮かべるのと対照的に、キャメルの表情は驚きを浮かべていた。そして、キャメルは助けを求めるように、アンとマリーの方に視線を移した。

「ごめんなさいね。私も違う案を言おうと思ったんだけれど、人が少なくて、穏やかな場所と言ったら、リゼの喫茶店しか思いつかなくて」

「そうだよね。私とマリーが働いてるところは中央通りに面してるから静かとは言えないし、エセルター領も賑わってる方だしね。中々、見つからないよ?リゼの喫茶店みたいな雰囲気は」

アンとマリーは渋々ながら、けれど自信満々に答えた。彼女たちがそんな風に信頼するのなら、確かなものなのだろうが、それでもキャメルは明らかに早すぎる職の内定に、何か不味いことでもやらされるのではないか、と一抹の不安を抱いていた。

「ちょうど人手も足りなかったところだし、本当に良い出会いだわ」

「まだ決まってませんから!」

清々しそうに髪を靡かせるリゼにキャメルはそう絶叫した。
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