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一章閑話 一方その頃
1.一方その頃、ジェレマイア領では
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キャメルがエセルター領に向かっている一方でジェレマイア領は混乱に満ちていた。ヒルトンの華やかな誕生日会が行われてから数日が経ったある日のこと、突然、ジェレマイア領の当主ヴィクターとヒルトンの婚約者キャメルの訃報が知らされたからだ。
ジェレマイア領は当然、渦中に攫われたような雰囲気に包まれていたが、アルマイト伯爵家もその例外ではなかった。
「お母様、お父様!お姉様の訃報は本当なんですか!?」
ナターシャの震えた声がアルマイト領の当主、ホルスの執務室で響いた。そこにはナターシャを含め、キャメルの家族が一同に揃っていた。
「嘘だと信じたいが、本当らしい。今朝、ヒルトン様から直接、手紙を頂いたのだが...」
ホルスは悲壮感漂う声を出しながら、ヒルトンから頂いたという手紙を家族に見せた。そこにはキャメルが暗殺者によって殺されたことやキャメルを守れず、申し訳ないという旨などが懇切丁寧に書かれていた。ヒルトンが言うのなら、確かなことだろうと思いつつ、しかしながら、そんな文章だけでキャメルが死んだことをナターシャたちは認めたくなかった。
「お姉様のお身体の方はどうなんですか。最後に一度だけ見たいです」
「あぁ、それは私も頼んでみたのだが、身体も荷物も全て、犯人が持ち去っていってしまったみたいでな。医務室にあったのは備品と凶器のナイフだけだったらしい」
「そうですか...」
ナターシャたちの思いは煮え切らないまま、幾度かの夜は穀然と明けた。
それから数日が経ったある日のことだった。
ナターシャたちの元に、歓喜すべき朗報が舞い降りてきた。
「お母様、お父様!犯人が捕まったというのは本当なんですか!?」
先日とは打って変わって、ナターシャの嬉々とした声が執務室に響いた。
朗報というのは、ヴィクターとキャメルを殺した犯人が捕まったというものだ。しかも、犯人は一人の平民であったという。本来ならば、泣いて喜ぶ出来事だろうに、ホルスは顰めっ面を晒し、妻のシャローラもまた、苦虫を噛み潰したような渋い顔をして、一点を見つめていた。
「お父様方、どうしてそんな渋い顔をしていらっしゃるのですか?」
ナターシャは純粋そうに質問しながら、ヴィクターたちの視線を追った。
そこには小綺麗なひとつの白いバックが置いてあった。そして、ナターシャはそれに既視感を覚えた。
「これって、お姉様のバッグではありませんか!?私がお姉様の具合を見に行った時に傍に置いてありました!」
「でも、どうしてこれがここに?」
「捕まった犯人の家にあったものらしい」
ナターシャの問いにホルスはそう口を開いた。しかしながら、それが我が子の遺品だと言うのに、言葉の足取りは依然として重かった。そして、ホルスは一言呟く。
「何かがおかしい...」
ジェレマイア領は当然、渦中に攫われたような雰囲気に包まれていたが、アルマイト伯爵家もその例外ではなかった。
「お母様、お父様!お姉様の訃報は本当なんですか!?」
ナターシャの震えた声がアルマイト領の当主、ホルスの執務室で響いた。そこにはナターシャを含め、キャメルの家族が一同に揃っていた。
「嘘だと信じたいが、本当らしい。今朝、ヒルトン様から直接、手紙を頂いたのだが...」
ホルスは悲壮感漂う声を出しながら、ヒルトンから頂いたという手紙を家族に見せた。そこにはキャメルが暗殺者によって殺されたことやキャメルを守れず、申し訳ないという旨などが懇切丁寧に書かれていた。ヒルトンが言うのなら、確かなことだろうと思いつつ、しかしながら、そんな文章だけでキャメルが死んだことをナターシャたちは認めたくなかった。
「お姉様のお身体の方はどうなんですか。最後に一度だけ見たいです」
「あぁ、それは私も頼んでみたのだが、身体も荷物も全て、犯人が持ち去っていってしまったみたいでな。医務室にあったのは備品と凶器のナイフだけだったらしい」
「そうですか...」
ナターシャたちの思いは煮え切らないまま、幾度かの夜は穀然と明けた。
それから数日が経ったある日のことだった。
ナターシャたちの元に、歓喜すべき朗報が舞い降りてきた。
「お母様、お父様!犯人が捕まったというのは本当なんですか!?」
先日とは打って変わって、ナターシャの嬉々とした声が執務室に響いた。
朗報というのは、ヴィクターとキャメルを殺した犯人が捕まったというものだ。しかも、犯人は一人の平民であったという。本来ならば、泣いて喜ぶ出来事だろうに、ホルスは顰めっ面を晒し、妻のシャローラもまた、苦虫を噛み潰したような渋い顔をして、一点を見つめていた。
「お父様方、どうしてそんな渋い顔をしていらっしゃるのですか?」
ナターシャは純粋そうに質問しながら、ヴィクターたちの視線を追った。
そこには小綺麗なひとつの白いバックが置いてあった。そして、ナターシャはそれに既視感を覚えた。
「これって、お姉様のバッグではありませんか!?私がお姉様の具合を見に行った時に傍に置いてありました!」
「でも、どうしてこれがここに?」
「捕まった犯人の家にあったものらしい」
ナターシャの問いにホルスはそう口を開いた。しかしながら、それが我が子の遺品だと言うのに、言葉の足取りは依然として重かった。そして、ホルスは一言呟く。
「何かがおかしい...」
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