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1「師匠、しっかりして下さい!」

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師匠が生まれた街だという『ヴァルゴ』は、代々女性が領主をするという変わった風習のある街だ。この異世界全体の時代と風習は中々古臭く、前世で例えるなら江戸時代~明治時代に近い。移動手段は徒歩か馬車。女性は髪が長く男性は短い。街により男尊女卑傾向が強く、働いている女性は僅かだ。そんな中、領主が女性。しかも、働いている男女比はほぼ半々という、大変珍しい街。通称『女性の街』というのがヴァルゴの特色である。故に、気の強い女性が多いかと思いきや、大和撫子を描いたような女性が多いのもこの街の変わった点だ。

「師匠、仕事は終わりましたか?」
「あー、うん」

師匠が仕事を終わらせるまで喫茶店の前で待っていた私は、師匠の姿を見つけて駆け寄る。何だかいつもより顔色が良くない師匠は、辺りをキョロキョロと見渡すと、私を抱えてその場からそそくさと逃げ出すように歩き始めた。いつもなら仕事が終わると、手に入ったお金で好きなおやつを1つ買ってくれるのに…。喫茶店のショーケースに目を付けていた私はヨダレが垂れそうなのを我慢して、様子のおかしい師匠の耳元に口を寄せた。

「し、師匠、どうしたんですか? お仕事で何か…?」
「あぁ、ごめん。仕事はいつも通り上手くいったよ。だけど、ちょっとね。嫌なことを思い出して…」

もごもごと言葉を濁す師匠にこれはただ事じゃないと察する。何せ、師匠はこのヴァルゴの街が苦手で中々寄り付かない。仕事で仕方なく来ることはあれど、遊びになんて絶対行かないと断言するくらいには嫌いだ。そんな嫌いになるには何か理由があると思っていたが、その理由を思い出したのならば、それはただ事じゃないハズなのだ。

「大丈夫ですか、師匠…」
「心配…ぐ!?」

私を安心させようとして目を合わせるが、それでも師匠は歩くのをやめない。それほどまでにこの場から離れたかったらしいが、不意に走った衝撃によりそれは叶わなかった。咄嗟に落とされないよう師匠にしがみついた私は、やや遅れてその存在に気付く。

「どうし…師匠、ひ、人が…!?」

倒れているではないか。あわあわと師匠に抱えられたまま慌てる私と、その人を見て天を仰ぐ師匠。師匠とぶつかってそのまま倒れてしまったらしい人に私が駆け寄ると、師匠は小さく「アーメン」と呟いていた。

「ちょ、師匠! ぼーっとしてないで手を貸してください!」
「メグリ…あのだね…」
「大丈夫ですか!? どこか打ち所が…」
「あまり、関わらない方が…」
「師匠ぉー! 気を失っていますぅう!!」
「…はぁぁぁ」

テンパって涙目な私を見て、深い深ーいため息をついた師匠。これが不運の始まりだなんて私は知る由もなかったのだ。
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