魔法宇宙戦艦プレアデス!

灰猫ベル

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第3章 フェルミとの決別

第36話 反乱軍始めました

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 フェルミ通商条約機構とジェミ軍事同盟の停戦協定が結ばれた。
 両陣営は停戦協定に基づき「赤い月」を分割統治する運びとなった。

 これに対し、赤い月の住人は当然各地で反乱運動を起こしている。


 赤い月の魔法宇宙戦艦プレアデスは、フェルミ中央議会のある「フェルミ・セントラル」宇宙ステーションから脱出、赤い月を目指して航行中だ。

 そのプレアデスの行く手をフェルミの艦隊が阻む。





「昨日の味方は今日の敵ってか」

 西野が軽口を叩く。

「西野、あんた口が軽くなったんじゃない?」

 ユカがそれとなくたしなめる。

「そっすか?」

 西野は吉川の死以降、明らかに変わった。吉川を意識したような言動が随所にみられる。

 サトシとユカは自分の部下を失ったものの、この状況を受け入れつつあった。
 しかし恐らく西野は未だに吉川の死を受け入れることができていないのだろう。
 二人は同僚でライバルで親友だった。
 学歴も年齢も異なるが、いつも同じプロジェクトのゴールを見つめてそこに向かって走ってきた仲だ。

「まぁ、どうにかなるっしょ♪ 艦長、出撃ですよね?」

「西野、ちょっと待て。サーシャ、敵の数は?」

「主力はギガンの戦闘艦約100隻、それ以外に各軍の戦闘艦が約100隻といったところです」

「敵の数が多いな……ギガフレアは使えるか?」

「はい、いつでも発射可能です」

「準備だけはしておいてくれ」


「ソウコウ、通信が入ってるよ」

 通信士官のユウナが通信受信をソウコウに報告した。

「誰からだ?」

「ギガンの艦から。ラーファって人」

「繋いでくれ」

 ユウナはソウコウの意識とラーファの意識を「マインドトランス」で繋ぐ。
 マインドトランスでの通信は直接意識をつなぐため、傍受されることはない。

『ソウコウ、ラーファだ』

『よぉ、ラーファ』

『第8エリア宙域では世話になったな』

『当然のことをしたまでだぜ。で、何の用だ?』

『まず、我々の非礼を謝りたい。申し訳なかった。
 ジェミと裏でつながり、あまつさえ仲間であった君たちをこのような目に合わせるなど、到底許されることではない』

『まぁ、お偉方の考えることなんて、俺たちみたいな現場にゃわかんねえよ。気にすんな』

『それではワシの気が済まん。実は今ワシらはプレアデスの撃墜を命じられてここにおる』

『だろうな』

『君たちを見逃そう。それで我々の汚名がそそがれる訳ではないが……』

『ラーファ……助かる』

『しかし、今回だけだ。次に会いまみえる時は……』

『あぁ……その時は……だな』


 ラーファとの通信は途絶えた。

「サーシャ、ギガンの旗艦目掛け全速前進。ギリギリをすり抜けるんだ」

「承知いたしました」


 プレアデスは全速力でラーファの乗るギガンの旗艦目掛け発信した。
 ギガンの各艦がプレアデスの方向に向け艦砲射撃を行うが、その弾はプレアデスに命中しない弾道で放たれた。
 形式上の戦闘をし、プレアデスはギガン旗艦とすれ違う。

 すれ違う瞬間、両艦の作戦室が肉眼で見えた。
 ギガン兵は一列に並び、敬礼をしてプレアデスを見送る。


 プレアデスは無事にフェルミの包囲網を抜け、そのまま全速で赤い月に向かった。


 ラーファのもとへ他軍の艦より通信が入る。

「ラーファ! 逃がしてしまったではないか! 追わんか!」

「無駄だ、速力においてはプレアデスにかなう艦は存在しない。ここで撤退する」

「何? 貴様! 軍法会議ものだぞ!」

「好きにすれば良い」





 プレアデスは赤い月の付近まで到達した。
 赤い月は4つの星で構成される文明だ。
 その内、赤い月、白い月はジェミの支配下にあり、青い月、ヌージィガはフェルミの支配下にある。


「さて、どこから攻めるか……」

 ソウコウは攻め口を考えている。

「赤い月から解放しましょう」

 アイラが提案する。
 サトシはソウコウに助言を与えた。

「いや、それは賢明じゃぁないな。フェルミの方が戦力を把握している分、青い月かヌージィガの方が対応は容易いだろう」

「流石は知多星、冴えてるな。青い月から攻めるとしようか」

「しかし、赤い月は我らが本国……」

 アイラは引き下がらない。

「そうだな、お前にとっては赤い月は本国だ。でも生憎俺たちは違うんだよ」

 ヌージィガ出身のソウコウにとっては正直赤い月の事などどうでも良かった。
 むしろ、五年前まで敵国同士だったのだ。猶更優先的に解放する理由はない。

「解放するっていうけど、こちらの出方次第では敵が星ごと滅ぼす可能性があるんじゃないの?」

 ユカは敵の星への直接攻撃を懸念している。
 いくらソウコウらでも星ごと殲滅されてしまうと死んでしまう可能性は高い。
 しかし、その懸念をサトシは否定した。

「大丈夫だ、あいつらの狙いは『魔法』だ。だから住人が皆殺しになるようなことはしないだろう」


「サーシャ、まずは青い月に降りる。転送魔法でここから青い月まで届くか?」

「はい、大丈夫です」

「俺、サトシ、アルデはプレアデスが着陸できるように拠点の攻略を行う。
 クローディアも案内のために来てくれ」

「うん、分かったです」

「残りの者は艦への敵襲があった場合の対応を頼む」

 ソウコウ、サトシ、アルデ、クローディアの四人は青い月に転送降下した。





 青い月はフェルミの治安維持部隊によって占領されていた。

 二人の哨兵が町の外を歩いている。警戒感は皆無だ。

「まったく……赤い月ってこの間まで味方だった文明だろ? なんでこんな風に占領しないといけないんだ?」

「まぁ、そうぼやくな。赤い月は実質無政府状態だ。だから俺たちがこうやって治安維持をしてるのさ」

「治安維持ねぇ……なんもやることねぇけどなぁ」

「…………」

「ん? なんか言えよ」

 哨兵が振り返った時、視界に入ったのは煌めく刃だった。
 何が起きたのか理解する間もなく、口から上を失う哨兵の体。

 無論、斬ったのはソウコウだ。


「サーシャ、聞こえるか?」

 サトシがプレアデス艦内のサーシャに呼びかける。

「はい、聞こえております」

「この星にいる人間の概数は分かるか?」

「はい、大体五百万人程度かと」

「クローディア、この星の住民の人口は?」

「大体四百万人です」

「であれば、敵の数は全部で百万か……いけるな」

「サトシ相変わらず冴えてるな」

 ソウコウは微笑んだ。


「大体、クローディアを含めない俺たち三人で一時間当たりに始末できる敵の数は一万人ってところだ」

「まぁ、そんなもんじゃな」

 アルデが妥当だという反応をみせる。

「休憩を考えると、一日に戦うことができるのはせいぜい五時間だろう。つまり、敵を『殲滅』させるとしても一か月でことは済む。でも実際には『全滅』、つまり三割程度の兵を撃破できれば俺たちの勝ちだ」

「よし、一週間でカタをつけるぞ」
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