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第2章 フェルミ通商条約機構の一員として
第33話 暗殺
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「フェルミ・セントラル」はフェルミ通商条約機構の中央議会がある大規模宇宙ステーションだ。
フェルミ勢力圏の奥深くに存在し、ジェミ軍事同盟の侵攻を許さない。
要人たちが居住するステーションであるため、警備の体制も万全だ。
各文明の強者で構成された警備兵団に加え、ほとんどの文明が自国の兵を独自に駐屯させている。
タルフ副議長のロスワ星、テマロック副議長のギガン星も例に漏れず独自の兵団を駐屯させていた。
プレアデスは今、フェルミ・セントラルの付近を航行している。
プレアデス艦長室にはソウコウとマァルが向かい合って座っている。
「……というわけだ、マァル」
ソウコウは今回の作戦の概要をマァルに説明した。
今回の作戦とは、タルフ副議長、テマロック副議長の暗殺だ。
この2人はジェミ軍事同盟への寝返りを画策している。
2人を暗殺することで、同様に寝返りを検討している他の文明に対し牽制をかける事が目的だ。
告発、弾劾という正規ルートを取らなかったのは、両文明が古くからある強大な文明であるため、そのメンツを保ってやるためだ。
「なるほど。よかろう」
マァルはこの作戦を快諾した。
もとより殺戮をこよなく愛するマァルだ。断る理由もない。
「ではこれより1時間後に任務を開始する」
◇
プレアデスはフェルミ・セントラルに着艦した。
表向きには「赤い月」大使のクローディアを訪問するという理由だ。
「みんな! 久しぶりじゃなぁ!」
クローディアは着艦ドックまで迎えに来ていた。
白いドレスをはだけさせながら、思いっきり手を振る。
「クローディア、元気だったか?」
ソウコウがクローディアに尋ねる。
クローディアはマァルの姿を探して一行の顔を見渡す。
「ウチは元気よ! ……あの……マァルは? マァルの姿が見えんのじゃけど?」
「マァルは別件で今日ここには来ていないんだ」
ソウコウが咄嗟に嘘をついた。
サトシの予感は確信に変わる。「やはり、ここで人が死ぬ」
クローディアの顔が一瞬曇る。しかしすぐに表情を戻し、
「せっかくです、しばらく休んで行ってなぁ」
そういうと、プレアデス乗員のためにステーション内の高級ホテルを予約させた。
「ありがとう、クローディア」
「いいえ、ウチにできるのはこれくらいじゃけぇ……」
◇
ステーション内は12時間周期で昼と夜を繰り返す。
一般的なステーションでは、照明が24時間常時点灯しているが、ここのようにハイクラスな者を対象としたステーションの場合、昼と夜があるのだ。
プレアデスが着艦して2日目の夜。マァルはフェルミ・セントラルの人通りの少ない路上にいた。
目当ての相手があと数分もすればここを車で通過する。マァルは通りを行く車を見落としなく確認する。やがて目当ての車が大通りの角を曲がり人気のない路地にやってきた。
マァルは車と並走して駆ける。マァルの身体能力は常人のそれを大きく上回る。時速にして50km程度であれば造作もないことだ。
マァルの高い身体能力は彼が魔法を使えないことと関係する。
赤い月(支配下の各星含む)では、程度の差こそあれほとんどの者が魔法を使うことが出来る。これは「声を発し言葉を話す」のと同程度の難易度だ。無論、戦闘魔法や回復魔法となると専門教育を必要とするが日常魔法(小さな灯をともすであったり、投げる石を少し遠くまで飛ばしたり)であれば10代までに使用できるようになるのが一般的だ。
マァルは魔法を使うことができなかった。それは彼の持つ魔力が「内向的な」ものであったからだ。魔法は自分の意識を外の世界に伝播する事で発現するが、彼は他者に対する興味を持っていないため、魔法が形をなさない。
このように魔法を使用できない者は赤い月においては「未熟児」として扱われ不遇な子供時代を過ごすこととなる。マァルも例に漏れず学校では成績が悪く苛められ、進学も諦めた。
マァルの人生に転機が訪れたのは兵役のための格付け審査の時だ。彼は戦闘能力において誰よりも高い評価を得た。
彼の持つ「内向的な」魔力はマァル自身が意識することもなく、彼の身体能力強化として発現していた。印を切ったり、呪文を唱えたり、精神統一したりといった面倒な手続きを必要としない、常時発動の身体強化魔法。それがマァルの能力だ。
能力を評価されたマァルは目覚ましい勢いで昇格。「ヌージィガ」との戦争時には「赤い月の四天王」として特級エキスパートに選出された。
ともあれ、彼は今標的の乗った車と並走している。
窓の中を覗きこみ、標的が目当ての人物であることを確認する。
マァルと目が合い驚く標的。その顔に浮かぶ恐怖、絶望、懇願の表情がマァルの心を刺激する。
マァルは車のボンネットに飛び乗ると、運転手を車の天井ごと大鎌で斬り捨てた。運転手は死の間際に急ブレーキを踏んだのだろう。車は急停止した。
後部座席、助手席から飛び出した警備兵がマァルを取り囲む。マァルはそれを体を捻りながら両手に持った大鎌で斬った。警備兵の胴体は上下に二分され崩れる。自分に起こったことを認識し絶望の中呻きながら絶命する兵たち。その中で怯える標的。
「な……何故だ?……なぜ私を狙う?」
問いかける標的をマァルは無言で斬った。
◇
翌朝、フェルミ全体を大きく揺るがすニュースが流れた。
ソウコウはそれを知り驚愕する。
「嘘だろ……?」
フェルミ通商条約機構中央議会議長ニオータが惨殺された。
フェルミ勢力圏の奥深くに存在し、ジェミ軍事同盟の侵攻を許さない。
要人たちが居住するステーションであるため、警備の体制も万全だ。
各文明の強者で構成された警備兵団に加え、ほとんどの文明が自国の兵を独自に駐屯させている。
タルフ副議長のロスワ星、テマロック副議長のギガン星も例に漏れず独自の兵団を駐屯させていた。
プレアデスは今、フェルミ・セントラルの付近を航行している。
プレアデス艦長室にはソウコウとマァルが向かい合って座っている。
「……というわけだ、マァル」
ソウコウは今回の作戦の概要をマァルに説明した。
今回の作戦とは、タルフ副議長、テマロック副議長の暗殺だ。
この2人はジェミ軍事同盟への寝返りを画策している。
2人を暗殺することで、同様に寝返りを検討している他の文明に対し牽制をかける事が目的だ。
告発、弾劾という正規ルートを取らなかったのは、両文明が古くからある強大な文明であるため、そのメンツを保ってやるためだ。
「なるほど。よかろう」
マァルはこの作戦を快諾した。
もとより殺戮をこよなく愛するマァルだ。断る理由もない。
「ではこれより1時間後に任務を開始する」
◇
プレアデスはフェルミ・セントラルに着艦した。
表向きには「赤い月」大使のクローディアを訪問するという理由だ。
「みんな! 久しぶりじゃなぁ!」
クローディアは着艦ドックまで迎えに来ていた。
白いドレスをはだけさせながら、思いっきり手を振る。
「クローディア、元気だったか?」
ソウコウがクローディアに尋ねる。
クローディアはマァルの姿を探して一行の顔を見渡す。
「ウチは元気よ! ……あの……マァルは? マァルの姿が見えんのじゃけど?」
「マァルは別件で今日ここには来ていないんだ」
ソウコウが咄嗟に嘘をついた。
サトシの予感は確信に変わる。「やはり、ここで人が死ぬ」
クローディアの顔が一瞬曇る。しかしすぐに表情を戻し、
「せっかくです、しばらく休んで行ってなぁ」
そういうと、プレアデス乗員のためにステーション内の高級ホテルを予約させた。
「ありがとう、クローディア」
「いいえ、ウチにできるのはこれくらいじゃけぇ……」
◇
ステーション内は12時間周期で昼と夜を繰り返す。
一般的なステーションでは、照明が24時間常時点灯しているが、ここのようにハイクラスな者を対象としたステーションの場合、昼と夜があるのだ。
プレアデスが着艦して2日目の夜。マァルはフェルミ・セントラルの人通りの少ない路上にいた。
目当ての相手があと数分もすればここを車で通過する。マァルは通りを行く車を見落としなく確認する。やがて目当ての車が大通りの角を曲がり人気のない路地にやってきた。
マァルは車と並走して駆ける。マァルの身体能力は常人のそれを大きく上回る。時速にして50km程度であれば造作もないことだ。
マァルの高い身体能力は彼が魔法を使えないことと関係する。
赤い月(支配下の各星含む)では、程度の差こそあれほとんどの者が魔法を使うことが出来る。これは「声を発し言葉を話す」のと同程度の難易度だ。無論、戦闘魔法や回復魔法となると専門教育を必要とするが日常魔法(小さな灯をともすであったり、投げる石を少し遠くまで飛ばしたり)であれば10代までに使用できるようになるのが一般的だ。
マァルは魔法を使うことができなかった。それは彼の持つ魔力が「内向的な」ものであったからだ。魔法は自分の意識を外の世界に伝播する事で発現するが、彼は他者に対する興味を持っていないため、魔法が形をなさない。
このように魔法を使用できない者は赤い月においては「未熟児」として扱われ不遇な子供時代を過ごすこととなる。マァルも例に漏れず学校では成績が悪く苛められ、進学も諦めた。
マァルの人生に転機が訪れたのは兵役のための格付け審査の時だ。彼は戦闘能力において誰よりも高い評価を得た。
彼の持つ「内向的な」魔力はマァル自身が意識することもなく、彼の身体能力強化として発現していた。印を切ったり、呪文を唱えたり、精神統一したりといった面倒な手続きを必要としない、常時発動の身体強化魔法。それがマァルの能力だ。
能力を評価されたマァルは目覚ましい勢いで昇格。「ヌージィガ」との戦争時には「赤い月の四天王」として特級エキスパートに選出された。
ともあれ、彼は今標的の乗った車と並走している。
窓の中を覗きこみ、標的が目当ての人物であることを確認する。
マァルと目が合い驚く標的。その顔に浮かぶ恐怖、絶望、懇願の表情がマァルの心を刺激する。
マァルは車のボンネットに飛び乗ると、運転手を車の天井ごと大鎌で斬り捨てた。運転手は死の間際に急ブレーキを踏んだのだろう。車は急停止した。
後部座席、助手席から飛び出した警備兵がマァルを取り囲む。マァルはそれを体を捻りながら両手に持った大鎌で斬った。警備兵の胴体は上下に二分され崩れる。自分に起こったことを認識し絶望の中呻きながら絶命する兵たち。その中で怯える標的。
「な……何故だ?……なぜ私を狙う?」
問いかける標的をマァルは無言で斬った。
◇
翌朝、フェルミ全体を大きく揺るがすニュースが流れた。
ソウコウはそれを知り驚愕する。
「嘘だろ……?」
フェルミ通商条約機構中央議会議長ニオータが惨殺された。
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