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第2章 フェルミ通商条約機構の一員として
第21話 修羅場
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プレアデスは中立文明レーヴァからの物資輸送船の護衛任務にあたっている。
今回の貿易は軍需品の調達だ。敵の襲撃が予想される。
◇
フェルミ通称条約機構にもジェミ軍事同盟にも加盟していない文明はある。
フェルミもジェミもそれら中立の文明を無視はできない。
戦時であるため、大量の物資が必要となる。物資の調達のためにはどうしても中立文明との交流が不可欠なのだ。
中立文明のうち、大きなものとしてはレーヴァの他にケヴァス、ビラングなどがある。
これらの大文明はフェルミとジェミの戦争において、その立会人であるとともに軍需品の調達先でもある。この戦争で最も得をしているのは彼等かもしれない。
フェルミに加盟している文明は比較的に豊かなものが多く、ジェミはほとんどが貧困の文明により構成されている。そのため、各文明ではジェミに対して同情的な世論は少なからず存在する。
地球文明において国際法があるように、宇宙文明間にも星間法というものが存在する。非戦闘員を標的とした攻撃の禁止などがこれにあたる。
フェルミは大文明により構成されるという性質上、ジェミ以上に中立文明の目を気にしており、星間法は比較的順守する傾向にあった。
一方でジェミは星間法に違反する行為がある。これに対し中立文明は不快感を表明していた。
そのような状況でボロンのカテゴリ2昇格は大きな意味を持った。
それまで悪印象を持たれたジェミであったが、ボロンの「紳士的な」戦争のやり方を英雄視する世論が各文明に少しずつ表れてきている。そしてその象徴の一つが『白炎のコボル』だった。
フェルミにも英雄はいる。新規に機構に加盟した「赤い月」。
強敵であるカテゴリ2を破った彼らは救国の英雄として扱われつつあった。特に旗艦プレアデスの艦長ソウコウは『赤い稲妻』と呼ばれ始めている。
◇
「赤い稲妻に白い炎か。まるで紅白戦だな」
サトシはソウコウをからかった。
「まぁ悪い気はしないな」
ソウコウは自信ありげに返答する。
いかにも大物然とした青年だ。
「ところでサトシ、ユカはお前の妻なのか?」
「え!? なんでそんなことを今聞くんだ!?」
突然の質問にサトシは焦る。
作戦室全員の視線がサトシに集まる。
ユカが、アルデが、サーシャがサトシを見ている。
「えっと……、妻じゃない。妻じゃないんだけどなんていうか……」
モゴモゴ言うサトシを見てユカは作戦室を離れた。
その後ろ姿を見てサトシはなにも言えなかった。
場が静まる。
「片山さん、酷いっすよ」
吉川が呆れている。
今のサトシには敏腕マネージャーの威厳など欠片もない。
その時、サーシャが敵を感知した。
「敵艦発見、水平5時、垂直4時の方向から追ってきます」
「数は!?」
「15隻、小型の船です」
アルデが望遠モニタを起動する。そこには黒い船団が映っている。
「あれは敵駆逐艦隊。砲撃は弱いですが高速で移動する船です。恐らくギガフレアは当たらないと思います。」
ウサが敵を解説する。
「わかった。サトシ、アルデ、アイラ出撃だ」
「了解!」
サトシが格納庫に向かおうとしたその時、カタパルトの射出音が聞こえた。
「誰だっ!? 今出たのはっ!?」
サーシャが顔色を変える。
「ユカさんです! ユカさんが7号機で発艦しました!」
「なにやってんだ馬鹿野郎!」
サトシたちは作戦室を飛び出し、格納庫に走った。
「2号機エレクトラ、サトシだ!」
「3号機タユゲテ、アイラ発艦します!」
「4号機アルキュオネ、アルデ発艦じゃ!」
サトシたちもユカを追いかけ発艦した。
「ユカ! お前実戦初めてだろ!」
サトシが通信機で呼び掛ける。
「知らない!」
敵駆逐艦がユカに砲撃を行う。
砲弾はユカが搭乗した7号機メロペの右足に着弾。メロペの右足は吹き飛び、胴体は激しく縦回転する。
ーーやられる!!!
ユカは咄嗟に反撃を試みる。
しかし、脳裏にサトシとアルデが楽しそうに開発している姿が過った。
「……こんなもん、使ってやるもんか」
ユカは全てを投げ出し、回転に身を任せた。
「ユカァァァ!!」
サトシが敵艦とユカの間に割って入り、激しい敵の砲撃をサトシは防御魔法を全開にして受け止める。
敵のうち5隻がサトシたちを攻撃、残りの10隻は輸送船に照準を合わせる。アルデとアイラはそれに対して速射火炎魔法を叩き込んだが、艦船相手にはやはり火力不足だった。
「ここは新しい機能を使ってみるかのう」
アルデは魔法石を多重起動し敵を見据えた。
「熱源追尾魔法、大爆発魔法合成。熱源追尾爆発魔法速射じゃ!」
アルキュオネの前方空間が歪み火球が現れ、高速で敵艦に飛翔した。
着弾。
敵艦は一撃で大破した。
「これはすごいのぅ!」
「私もっ!鎖組成魔法、大爆発魔法合成。鎖状爆発魔法!」
タユゲテの右手から鎖のムチが伸びる。数キロにわたる長大なムチは、敵に触れる度に大爆発を起こす。
「うわぁっ!」
アルデの後下方でサトシが吹き飛ばされた。
防御魔法が砲撃に耐えかねたのだ。
「サトシっ!」
アルデはサトシを庇うため、敵とサトシの間に入ると共に防御魔法を展開した。
続いてアイラがサトシたちに砲撃する敵艦に横から接近。至近距離から爆発魔法を叩き込む。爆風に巻き込まれながらもアイラは敵艦を落とした。
かくして、敵駆逐艦隊の攻撃を止めたが、物資輸送船は半数以上が撃墜された。戦いには勝ったが、任務は失敗に終わった。
◇
プレアデス艦内。
「お前! 自分がなにしたか判ってんのか! お前のせいで人が死んでいるんだぞ!」
サトシはユカを問い詰めた。
自分の優柔不断さが招いた事態であることは判ってはいたが、こうする他なかったのだ。
「まぁサトシ、その辺にしておけ」
アルデが制止する。
「妾の事を気にしとるなら、その必要はないぞ。お前らはようお似合いじゃよ」
アルデは普段通りの悪戯な笑顔で言った。
「そうか。 ……ごめん、ユカ。俺が悪かった」
「……ごめんなさい……」
消え入るような声でユカは謝った。その両頬には涙が伝う。
「ふむ、これにて一件落着じゃの」
そう言うとアルデは背を向け去った。
すれ違いにアイラがサトシの前に立つ。
アイラはサトシを睨み付け、渾身の力で殴り付けた。
倒れ込むサトシ。
「アイラ!? 何をする!?」
「皆の思いを代行しました。失礼」
そう言うとアイラもその場を立ち去った。
今回の貿易は軍需品の調達だ。敵の襲撃が予想される。
◇
フェルミ通称条約機構にもジェミ軍事同盟にも加盟していない文明はある。
フェルミもジェミもそれら中立の文明を無視はできない。
戦時であるため、大量の物資が必要となる。物資の調達のためにはどうしても中立文明との交流が不可欠なのだ。
中立文明のうち、大きなものとしてはレーヴァの他にケヴァス、ビラングなどがある。
これらの大文明はフェルミとジェミの戦争において、その立会人であるとともに軍需品の調達先でもある。この戦争で最も得をしているのは彼等かもしれない。
フェルミに加盟している文明は比較的に豊かなものが多く、ジェミはほとんどが貧困の文明により構成されている。そのため、各文明ではジェミに対して同情的な世論は少なからず存在する。
地球文明において国際法があるように、宇宙文明間にも星間法というものが存在する。非戦闘員を標的とした攻撃の禁止などがこれにあたる。
フェルミは大文明により構成されるという性質上、ジェミ以上に中立文明の目を気にしており、星間法は比較的順守する傾向にあった。
一方でジェミは星間法に違反する行為がある。これに対し中立文明は不快感を表明していた。
そのような状況でボロンのカテゴリ2昇格は大きな意味を持った。
それまで悪印象を持たれたジェミであったが、ボロンの「紳士的な」戦争のやり方を英雄視する世論が各文明に少しずつ表れてきている。そしてその象徴の一つが『白炎のコボル』だった。
フェルミにも英雄はいる。新規に機構に加盟した「赤い月」。
強敵であるカテゴリ2を破った彼らは救国の英雄として扱われつつあった。特に旗艦プレアデスの艦長ソウコウは『赤い稲妻』と呼ばれ始めている。
◇
「赤い稲妻に白い炎か。まるで紅白戦だな」
サトシはソウコウをからかった。
「まぁ悪い気はしないな」
ソウコウは自信ありげに返答する。
いかにも大物然とした青年だ。
「ところでサトシ、ユカはお前の妻なのか?」
「え!? なんでそんなことを今聞くんだ!?」
突然の質問にサトシは焦る。
作戦室全員の視線がサトシに集まる。
ユカが、アルデが、サーシャがサトシを見ている。
「えっと……、妻じゃない。妻じゃないんだけどなんていうか……」
モゴモゴ言うサトシを見てユカは作戦室を離れた。
その後ろ姿を見てサトシはなにも言えなかった。
場が静まる。
「片山さん、酷いっすよ」
吉川が呆れている。
今のサトシには敏腕マネージャーの威厳など欠片もない。
その時、サーシャが敵を感知した。
「敵艦発見、水平5時、垂直4時の方向から追ってきます」
「数は!?」
「15隻、小型の船です」
アルデが望遠モニタを起動する。そこには黒い船団が映っている。
「あれは敵駆逐艦隊。砲撃は弱いですが高速で移動する船です。恐らくギガフレアは当たらないと思います。」
ウサが敵を解説する。
「わかった。サトシ、アルデ、アイラ出撃だ」
「了解!」
サトシが格納庫に向かおうとしたその時、カタパルトの射出音が聞こえた。
「誰だっ!? 今出たのはっ!?」
サーシャが顔色を変える。
「ユカさんです! ユカさんが7号機で発艦しました!」
「なにやってんだ馬鹿野郎!」
サトシたちは作戦室を飛び出し、格納庫に走った。
「2号機エレクトラ、サトシだ!」
「3号機タユゲテ、アイラ発艦します!」
「4号機アルキュオネ、アルデ発艦じゃ!」
サトシたちもユカを追いかけ発艦した。
「ユカ! お前実戦初めてだろ!」
サトシが通信機で呼び掛ける。
「知らない!」
敵駆逐艦がユカに砲撃を行う。
砲弾はユカが搭乗した7号機メロペの右足に着弾。メロペの右足は吹き飛び、胴体は激しく縦回転する。
ーーやられる!!!
ユカは咄嗟に反撃を試みる。
しかし、脳裏にサトシとアルデが楽しそうに開発している姿が過った。
「……こんなもん、使ってやるもんか」
ユカは全てを投げ出し、回転に身を任せた。
「ユカァァァ!!」
サトシが敵艦とユカの間に割って入り、激しい敵の砲撃をサトシは防御魔法を全開にして受け止める。
敵のうち5隻がサトシたちを攻撃、残りの10隻は輸送船に照準を合わせる。アルデとアイラはそれに対して速射火炎魔法を叩き込んだが、艦船相手にはやはり火力不足だった。
「ここは新しい機能を使ってみるかのう」
アルデは魔法石を多重起動し敵を見据えた。
「熱源追尾魔法、大爆発魔法合成。熱源追尾爆発魔法速射じゃ!」
アルキュオネの前方空間が歪み火球が現れ、高速で敵艦に飛翔した。
着弾。
敵艦は一撃で大破した。
「これはすごいのぅ!」
「私もっ!鎖組成魔法、大爆発魔法合成。鎖状爆発魔法!」
タユゲテの右手から鎖のムチが伸びる。数キロにわたる長大なムチは、敵に触れる度に大爆発を起こす。
「うわぁっ!」
アルデの後下方でサトシが吹き飛ばされた。
防御魔法が砲撃に耐えかねたのだ。
「サトシっ!」
アルデはサトシを庇うため、敵とサトシの間に入ると共に防御魔法を展開した。
続いてアイラがサトシたちに砲撃する敵艦に横から接近。至近距離から爆発魔法を叩き込む。爆風に巻き込まれながらもアイラは敵艦を落とした。
かくして、敵駆逐艦隊の攻撃を止めたが、物資輸送船は半数以上が撃墜された。戦いには勝ったが、任務は失敗に終わった。
◇
プレアデス艦内。
「お前! 自分がなにしたか判ってんのか! お前のせいで人が死んでいるんだぞ!」
サトシはユカを問い詰めた。
自分の優柔不断さが招いた事態であることは判ってはいたが、こうする他なかったのだ。
「まぁサトシ、その辺にしておけ」
アルデが制止する。
「妾の事を気にしとるなら、その必要はないぞ。お前らはようお似合いじゃよ」
アルデは普段通りの悪戯な笑顔で言った。
「そうか。 ……ごめん、ユカ。俺が悪かった」
「……ごめんなさい……」
消え入るような声でユカは謝った。その両頬には涙が伝う。
「ふむ、これにて一件落着じゃの」
そう言うとアルデは背を向け去った。
すれ違いにアイラがサトシの前に立つ。
アイラはサトシを睨み付け、渾身の力で殴り付けた。
倒れ込むサトシ。
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