SE魔剣士、二つの世界で稼働中!

灰猫ベル

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本編

第三十二話 ご無沙汰しております。

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 敵の魔道士部隊に遭遇するというハプニングはあったものの、それ以外に大きな困難もなくサトシ一行はロスワ主要部へと近づいていた。

 ――王様、今どのあたりですか?

 イシュファラが位置確認のためにサトシに話しかける。

「グジンの南方を移動中。地図通りに行けばあと一時間ほどでグジンに到着する想定だ」

 ――承知いたしました。くれぐれもお気をつけください。

「あぁ。ありがとう」

 ――はい。

 イシュファラは王から想定外の謝辞をもらい、戸惑ったのだった。
 そのようなことは知るよしもなく、アルデのマシンはグジン目指して進行している。

「アルデのマシンは本当に便利だな」

 ソウコウが感心したように呟く。
 この世界での移動は徒歩が主だ。まれに高い地位の者などは馬車を使用しているが、車輪はクッション性の無いものであるため揺れがひどかった。その点アルデのマシンは車輪の揺れを吸収するバネが車軸に取り付けてあり、快適そのものだった。
 快適さもさることながら、そのスピードは早馬よりも早く、目的地までの高速移動を可能にし、敵に発見されても交戦になる前にその場を離れることができた。

「ここに来るまでに多少敵に見つかっておる。ここから先、人の住んでおる地域ではわらわたちを待ち伏せておる兵がおるじゃろう」

 アルデの予感はすぐに的中することになった。
 ロスワの首都グジンの南方約五〇キロの地点、人家もポツポツと見え始めるあたりで敵は動いた。





 最初に動いたのはロスワ国内の首都警備部隊の本隊だった。
 約千人で構成された大部隊だ。
 部隊の多くは魔法能力の無い低階級出身の者たちで構成されている。
 将校として低級魔道士のティンバーレインがこの部隊を指揮していた。

「ティンバーレイン様、南方より何かが接近してきます」

「何者だ?」

「未だ視認できておりませんので何者かは不明ですが、恐らくはヌージィガの者かと」

「あい分かった。者共横隊編成を敷け。装備は重装、槍とせよ!」

 ティンバーレインの命令は直ちに各班に伝えられ、千人の兵は素早く重鎧ヘビーアーマーを着込んで横三列に並んだ。
 横隊の横幅はおよそ五〇〇メートルとなった。





「敵がすでに展開しておるのう。敵主要部に近づいている証拠じゃな」

 ティンバーレインの部隊がアルデの目に止まった。

「どうするのじゃサトシ?」

 サトシに対応を尋ねる。
 サトシの答えは最初から決まっていた。

「このまま真っ直ぐだ。このスピードなら敵にぶつかってもこっちがダメージを受けることは無いだろう」

「了解した!」

 アルデはスロットルを全開にした。





 時を同じくして、グジン郊外にある砲台の町、その中央塔最上階で観測手ダーヤンは千里眼の能力でサトシたちを捕捉した。
 敵発見の情報を連絡係に伝える。

「南東五時半の方向に敵を発見……距離は馬で四時間……」

 連絡はすぐさま町中に届き全体がどよめく。過去にここまで敵の接近を許した事はない。

「落ち着くのだ。愚か者ども」

 どよめく魔道士たちを町の長ユーイが諌めた。

「どのような敵が来ようとも、我らの砲撃魔法の前には無力である。全員ただちに呪法開始するのだ」

 町は一瞬にして静まり、全ての魔道士は呪文を静かに唱え始めた。
 町全体が巨大な魔法陣を構成しているため、周囲は魔法光に包まれる。

 やがて上空に太陽と見間違うような巨大な光の球が生まれた。
 光の球は大きくなりながら上空高く昇ってゆく。





「あ! 超長距離砲撃魔法じゃ!」

 アルデが敵軍のはるか後方に光の球を発見した。

「アルデ、あそこに向かって全速前進だ」

 マシンは眼前に展開されたティンバーレインの部隊を突っ切る形で接近する。
 奇しくもその突入箇所は敵将ティンバーレインのいる中央部だった。

「いけぇぇぇっ!」


 マシンは敵部隊の中央部を、そこに立つ兵をなぎ倒しながら突破する……はずだった。


 サトシたちの予想に反し、敵は吹き飛ぶことはなかった。
 敵将ティンバーレインは猛スピードで突進する金属の塊を両手で受け止めたのだ。
 衝突の衝撃でレイミは車外に投げ出され、地面を激しく転がった。せっかく貯めた尿の樽も衝撃で倒れ、辺りに撒き散らされる。

「グハハハハ! 捕まえたぞ!」

「馬鹿な! なんて力だ!」

「我が名はティンバーレイン! 郊外守備本隊の大将じゃぁ!」

 横隊がマシンを取り囲むように回り込んでくる。次々に槍を突き出してきた。
 サトシとソウコウは槍の攻撃を紙一重で避けつつ剣を抜く。
 アルデはマシンのコックピットに潜り込みスイッチを押す。マシンが変形しアルデの身を覆い、またたく間に人型となった。

「敵が多いな。サトシ、竜を頼む」

「あぁ。ここはエーレーンの出番だな」

 ――リリ……

 サトシが意識を集中しようとしたところで敵兵の槍がその集中を破る。

「なかなか隙を与えてくれないかッ」

「サトシ何やってる! もたもたしてると砲撃の的になるぞ!」

 ソウコウが怒鳴る。

「ここはわらわに任せよ」

 鉄鬼と化したアルデがサトシと敵兵の間に割って入った。

くろがねの巨人……噂に聞く『鉄鬼』か! 相手に不足なし!」

 サトシをかばうように立ったアルデの足にティンバーレインが組み付く。
 大きさこそアルデの方が大きいが、馬力については敵が上回っていた。

「こやつ……人間離れした力をしよって……!」

「グハハハ! ワシの能力は剛力! 色気は無いが猪口才な手には負けんぞ!」

 そう言うとティンバーレインはアルデを持ち上げ、ジャイアントスイングの要領でグルグルと回し始めた。
 巨大な鋼鉄の塊がうなりを上げて回転する。少しでも触れれば命は無い。

「うぉ、危ない!」

 サトシとソウコウはその回転円からバックステップで飛び出た。そこを敵の槍が襲う。サトシの太腿を槍が貫いた。

「しまった……!」

 体勢を崩したサトシの顔面を他の兵が蹴り上げる。
 重い鎧を着た重装兵の一撃はハンマーの一撃のようなものだ。顎に強烈な一撃を食らったサトシは意識を失った。
 倒れ行くサトシの体を回転するアルデがキャッチする。

 サトシを抱きかかえたアルデをティンバーレインが放り投げる。
 アルデは轟音を立てて地面を転がった。

「グハハハ! 仲間たちは戦闘不能! 絶対絶命だな!」

 ティンバーレインが高らかに笑った。
 敵兵たちも勝利を確信した表情を浮かべる。

「まったく……敵の笑い顔ってやつは、いつ見ても腹が立つ」

 ソウコウが憎々しげに呟いた。

「これで終わりじゃァ! 者共かかれぇい!」

 敵兵が一斉にソウコウに襲い掛かる。同時に突き出される槍先には逃げる隙間もない。
 さながら刃の壁に押しつぶされるような状態だ。

拡散雷撃魔法ギガスパーク!」

 ソウコウは勇者の家に代々伝わる雷撃魔法を放った。
 まばゆい雷光が走り、ソウコウ周辺のロスワ兵は一気に感電してその場に崩れ落ちた。

「ほぉ……雷撃魔法とは……貴様珍しいものを扱うな」

 ティンバーレインが感心する。雷撃魔法は魔法国家であるロスワでも使用できるものはわずかしかいない希少性の高い魔法だ。
 魔法を使用するには、事象を明確にイメージする必要があるが、雷は火や水と異なり触れたうえで生きている者が少ないため、そのイメージを伝承できずにいるのだ。

 感心するティンバーレインではあったが、相手が希少性の高い魔法の使い手だからといって怯むような小心者ではない。すぐさま槍を捨て鉄の鎧を脱いだ。鍛え上げられた肉体が露わになる。

「剛力能力に身体能力向上魔法を追加した! さあ、かかってこい!」

 ティンバーレインの体が魔法光で淡く光る。それはまるで命を持った彫像のようだ。
 ソウコウは少し目を細め、相手を睨みつけた。それは彼が相手を強敵と感じた時の癖だ。

 最初に動いたのはソウコウだ。
 相手の肉体を見たときから斬撃は捨てている。ソウコウはティンバーレインの心臓あるいは喉を貫くべく低い体勢から突きを繰り出した。その突きの速さは常人の目には止まらぬ速度だ。
 しかし、ティンバーレインはその軌道を読み、間一髪でかわした。

 ――何ッ?

 渾身の一撃をかわされたソウコウは前のめりの体勢となっている。そこをティンバーレインは蹴り上げた。ソウコウは吹っ飛ばされる。
 鎧の上からとはいえ、普通の人間であれば意識を失うレベルの衝撃がソウコウを襲った。

 ソウコウは地面に衝突する前に左手で地面を叩き、その勢いを利用して再び構えを作る。
 蹴りを受けた腹部は痺れるような痛みが残っているが、ソウコウは一切怯むことはない。





「サトシ……大丈夫か……」

 アルデは平衡感覚を失い倒れつつも腕の中のサトシを心配した。
 顎を切って出血しているが、息はある。命は助かったようだ。意識もすぐ戻るだろう。

「……良かった……サトシ……お主が無事で……」

 段々平衡感覚が戻ってくる。同時に精神状態も落ち着いてくる。
 少し戦闘の中央から離れた事で状況を把握する事が出来た。

 腕の中にはぐったりした状態のサトシ。
 すぐ横には下半身丸出しでレイミが倒れている。
 目の前でソウコウはティンバーレインと対峙している。
 そして敵兵はソウコウの雷撃魔法を警戒しているのか、二人の戦いの邪魔をしないようにしているのか遠巻きになっている。

 敵兵のうち、何人かがアルデが立ち上がった事に気づき、アルデの方へ向かってきた。
 アルデは片手でサトシを抱いたまま、敵兵を殴り倒す。

 相手は重装兵ではあったが、鉄鬼アルデの質量に比べればアルミ缶のようなものだ。
 巨大な鋼鉄の拳が敵兵の命を刈り取ってゆく。

「ん……」

 サトシが目を覚ました。
 アルデは敵兵とサトシの間に自分を置きつつ、サトシを地面に下ろした。

「この鉄鬼アルデがおる限り、サトシには攻撃させないのじゃ!」





 その時。空が急に明るくなった。
 サトシもアルデも、向かい合っていたソウコウとティンバーレインも、ロスワの兵たちも一斉に空を見た。


 ――太陽が降ってきた。


 圧倒的な熱。眩しい光。大きな火の玉を前にして誰もがそう感じた。
 それは魔法陣の町から放たれた砲撃だった。

 火の玉は巨大だ、直径にして数キロはあろうか。それがあと数秒程度で地面に激突するのだ。逃げ場は無い。その場にいた全員が死を予感した。

 しかし「その男」は諦めてはいない。この状況でなんとか生き延びようと考えた。

「ソウコウ! アルデ! こっちへ下がれ!」

 男が叫ぶ。その声に従い、二人は下がった。

「よぉし、いい子だ」


 火の玉が落ちてきた。



 ――解放リリース


 空間が裂け、その中から巨大な鋼の鱗を持った竜が飛び出した。
 竜には何が起こったのか理解出来なかった。ただ自分の肉が焼けてゆくのを感じながら意識を失った。


 竜が傘になった部分を除き、周囲は焦土と化した。
 ロスワの兵たちも、ティンバーレインも灰になった。


「ふぅ……あぶねぇあぶねぇ。間一髪だったなァ」

 竜の屍骸の下で生き永らえたその男は、屈託のない笑顔を浮かべながら立ち上がった。


「タケル……」

 その男の名をソウコウが呟いた。
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