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本編

第二十四話 ミーティングをセットアップしましたのでご参集のほどよろしくお願いいたします。

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 サトシの命で停戦協定を結ぶため、外務大臣配下の外交官たちは奔走した。
 日々書き換わる国境線と戦況の中、諸外国との交渉は困難を極めた。
 すべての外交官が生還出来たわけではなかった。
 各国に派遣している外交官の中には殺された者、拷問を受けたものもいる。

 サトシは、国境線を挟む各国へ停戦の意思を表すために、軍部へは戦線は現在の位置を死守、原則として前進を禁じた。


 現時点で最強の国であるヌージィガからの停戦協定の申し出に、ほとんどの国は受け入れの意思を表明してきた。

 しかし、隣国のうちでも大国である二国「魔法国家ロスワ」と「戦闘国家ギガン」この両国からは何の返事もない。
 この二国は徹底した情報統制が行われており、相手国の内部情報をヌージィガ軍部はほとんど持っていない。
 いわば謎の敵だ。

 小国エンディアも同様だ。
 小国ながらヌージィガの侵攻を完全に抑えている新興の国家だ。
 エンディアも前述の二国同様に謎に包まれている。
 

「王様、会議の準備が整いました」

 メリルがサトシを呼びに来た。
 サトシは手持ちの中でも最も大仰なマントを羽織って、会議場へ向かう。

 会議場は巨大な石で出来た長机の間だ。
 国内の会議は活発な意見の交換をしたいので円卓の間を使うが、今回のように力関係を見せつけたほうがいい場面では序列のわかりやすい長机が良い。

 会議場には十数か国の代表が着席していた。

「各国の皆さん。よく来てくれた」

 各国の代表に対しまずはねぎらいの言葉をかける。

「俺は長話は嫌いだ。結論を述べると、今ここに居る国々との戦争を一旦やめたいと思っている」

 会議場がざわめく。
 これまで圧倒的武力で諸国を蹂躙してきた国の代表の言葉だ。
 そう簡単には信じられないだろう。

「すぐに信用出来ないのはわかる。証拠には不十分かも知れないが、今現在も我が国は周辺国への攻撃を停止している」

 一人の代表が手を挙げた。

「君、意見があれば聞こう」

「所領は安堵してもらえるのでしょうか……?」

「うん、良い質問だ」

 一同がサトシの次の発言に注目している。真剣な視線が痛いほどだ。

「過去のどの時点の国境線を適用すれば良いか。それについては申し訳ないが現時点の国境線を正とさせてもらう」

 各国の代表たちの反応は様々だ。ホッとした表情を浮かべる者もいれば、明らかに怒っている者もいる。
 自国の領土が減った国々については、受け入れ難い話だったのだろう。
 そこでサトシは補填の案を提示する。

「諸君の中にはこの条件を不服とする者も居るだろう。そこでだ、我が国との関税の無い自由交易ならびに関所を廃止することを考えている」

「それでは体の良い併合では無いのか?」

 不機嫌そうに言ったのはムーハ帝国のニオータ議長だ。

「不満か? それなら君の国とは戦争を継続しても良いのだが?」

 サトシは武力をチラつかせて脅迫する。
 普段、ミーティングでクライアントから契約をチラつかせて条件を飲まされる時のような感じだ。

「面白い! 貴様らがそのつもりならば我が国は最後の一兵になるまで戦うぞ!」

 ニオータは興奮している。
 唇の端に泡を吹きながら叫んだ。

「最後の一兵か。別にそれでも構わないが、君の民はどう思うだろうな。家族を殺され、財産を奪われ、娘を犯され、それでもなお戦う気力を保てるかな?」

「貴様……この外道が……」

「どうする? 選ばせてやるよ」

「……分かった、その条件を飲むとしよう」

 ニオータは肩を落とし、俯きながら条件を飲んだ。
 その様子を各国の代表は息を呑んで見ていた。

「他にこの条件で納得できないという者はいるか?」

 今度は誰も何も言わない。
 少しの沈黙が流れたので、サトシは話を終了する方向に持っていく。

「ここに居る皆よ。我々はこれより同じ経済体の同士となる。よろしく頼むぞ」





 サトシは居室に戻る。
 少ししてソウコウがやってきた。

「結局、恫喝したんだな。まぁお前にしては上等だと思うぜ」

「おう、その言葉はお褒めの言葉ととらえるよ」

「んでどうするんだ? 本命の三国が来なかったわけだが」

「……戦うしかないのか……」

「そうだな。戦争継続しかねぇだろうな」

「幸い多方面展開はなくなった分、戦局を集中できる。一つづつ潰していくしかないな」

「そういえば……」

「なんだ?」

「お前の命を狙ってる奴がたくさんいるぜ」

「……そうか」

 やはりそうか。もともとクーデター後に形式上据えただけの王だ。
 彼らの思い通りに動かないのであれば邪魔だろう。
 もし、彼らがサトシの暗殺を実行しようとしたらサトシは勝てるだろうか……。

「ソウコウ、君にお願いがある」

「なんだ?」

「俺の身辺警護をお願いしたい」

「いいぜ。今は暇だしな」





 夜になっても眠れない。王になってからいつものことだ。
 命を狙う者に心当たりがありすぎる。近隣諸国、交戦中の国、そして自分の家臣。

 命を狙われる立場になって分かった。異能力や魔法があふれるこの世界では、サトシのように平凡な能力しかない者は上の立場に立つのは難しい。
 命を狙う者に対して対抗するだけの力が圧倒的に不足している。

 日々、刺客が来ないか気を張っていないと不安だ。


 今夜、ついに不安が現実のものとなった。

 自室。暗いためサトシには輪郭をとらえることができないが、部屋の隅の方で動くものがあった。
 窓から差し込む月明りの反射光でかろうじて存在は確認できる。

「……ソウコウ、誰かいる」

 ベッドの横で待機してるソウコウに小声で伝える。
 ソウコウはすでに敵の侵入に気づいていた。剣は抜身だ。

 ――しかし……
 ソウコウ疑問に感じた。「いつからそこにいた?」
 魔法に寄る瞬間移動は魔法光を放つため、着弾時に観測可能だ。
 しかし、その侵入者は音もなく、魔法光もまとわずに現れた。

 そんなことに疑問を抱かないサトシは傍らに置いた魔剣に手をかける。

「…ァ………ォ…」

 刺客は暗闇の中で何かを呟いている。
 その事に気付いた次の瞬間、敵のいる位置に淡い光が灯った。

「魔法の使い手かっ!」

 ソウコウが一気に斬りかかる、光をまとった刺客はおよそ人間業とは思えない身のこなしでソウコウの剣をくぐるように避けた。

「速いっ!」

 速いだけじゃない、動作に無駄がなく変則的だ。
 まるで蝙蝠のように次の動きを読めない。

 サトシは刺客の逆方向へベッドから飛び降り、魔剣を正眼に構えた。
 屋内では、メタルドラゴンを解放リリースできない、クロスボウでは隙が大きすぎる。
 魔法が使えない以上、剣で敵に対するしかない。
 サトシはこの世界に来て思い知ったが、上段や下段の構えでは人間を超えた動きや飛び道具には対応できない。
 正眼の構えで敵の出方に合わせてカウンターを打つのが剣での精いっぱいの戦い方となる。


 相手の姿は見えないがにらみ合いの構図になる。
 再び敵の方向で光が灯った。魔法だ。
 敵の前方空間に一抱えほどの炎の渦が出現した。

 炎に照らされて敵の姿がはっきりと見える。
 そこには二人にとって見覚えのある顔があった。

「サーシャ!」

 刺客は暁の四人の一人、サーシャだった。
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