SE魔剣士、二つの世界で稼働中!

灰猫ベル

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本編

第二十三話 大規模案件を立ち上げる事になりました。

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 サトシの意識はタケルの体に入り込んでいる。
 今期の入れ替わりは頻繁かつ一度の入れ替わり時間が長い。
 こんな事は過去に無かった。

 ――さて、入れ替わった以上タケルの人生を生きなければならない。
 ――とはいえアイツも俺の体で好き勝手やっているんだ。俺も好き勝手やらせてもらう。


 タイミングとしては、ヌージィガの国神、大宝神魔との接触の後。
 今後の動き方について国の方針を決めようという会議がこれから行われる。
 各部門の大臣、及び軍幹部が会議の間の巨大な円卓に集められている。

「王様、全て揃いました」

 召使のメリルがサトシに報告する。

 内務大臣、外務大臣、軍務大臣、王直属部隊「紅月隊」の隊長。
 そうそうたる面々が集められた。
 円卓には前王のカイマ、サトシと冒険を共にしたアルデ、ソウコウ、サーシャの姿もある。 

「おう、じゃぁ始めようか……」

 サトシは大宝神魔と接触したこと、カイマから聞いた事を家臣に話した。
 概要としてはこうだ。


 大宝神魔を始めとする神魔は、人間の信仰心を利用して戦争をけしかけている。
 神魔たちが戦争をさせていることに合理的な理由はなく、神魔たちは戦争を単純に余興として認識している。
 そのため、神魔が飽きない限りは戦争に終わりは無い。
 我々ヌージィガ国については、このまま大宝神魔の意思に従い戦争を継続するのか、それとも現在行っている戦争を終了させる方向に持っていくのか、それを決めたい。

 そういった旨の話をした。


 最初に内務大臣が口を開く。

「王様、話は承知いたしました。実は前王であるカイマ様からも本件については聞いておりました」


 続いて外務大臣が話す。

「我々も元は大宝神魔を信仰しておったので、にわかには信じがたい話ではありました」


 サトシは自分の意見を述べる。

「神魔はこの国にとって信仰に足る存在なのか? 信仰することによるメリットは?」


 サトシの質問にはカイマが答えた。

「神魔は祭ることで豊穣を約束してくれるんだよ。腐っても神だ」

「豊穣か……」


 内務大臣が口をはさむ。

「王様、王様の元いた国ではどうかは知りませぬが、この国に生きる民にとっては、季節ごとの農産物や海産物はその年を生き抜くために欠かせないものなのです」


 カイマが更に続ける。

「豊穣を神魔の力にたよる限り、神魔から解放はされない。だから俺は人間の手で豊かになるように農業を盛んにしたんだ」


「そして神魔への信仰を否定した。そういうわけだな?」

 サトシはカイマに問った。

「その通りだ」


「やり方はかなり下衆だったけどな」

 ソウコウが吐き捨てるように言う。

「いくら信仰の否定のためとはいえ、ならず者を雇い国民を弾圧したことが許されるとでも思ってんのか? お前」


「……別に許してもらおうなんて思ってないよ」

 カイマは薄笑いを浮かべて返答した。

「ただね……、そうでもしないと無理なんだよ。宗教の無力化ってのは。元いた世界でも宗教をなくすには粛清しかないことは歴史が証明してるんだよね」


 サトシもその歴史認識については同じだ。

「カイマの意見も一理ある。確かに俺の認識としても宗教をなくすには、徹底した弾圧以外考えられない」

「じゃぁタケル……いや、サトシだな? お前もカイマと同じように神魔を信仰する国民を虐殺するのか?」

 ソウコウが食って掛かってくる。
 返答次第ではこの場で殺されてしまいそうだ。

「いや、俺の考えとしては信仰についてはその自由を保証しようと考えている」

「なら、このまま神魔の言いなりになって戦争を続けるってわけだな?」

「そこをどうするのか、この場で話したいと言っている」

「アホか。神魔に逆らうか、従うか。どっちかしかねぇじゃねぇか」

 ソウコウとは段々喧嘩のようになってきた。
 一旦、一息つく。
 そしてサトシは自分の意見を述べた。

「今回、神魔の思惑で戦争が起きていることが分かった。俺の意見としては神魔の言いなりになることをやめ、この戦争を終えたい。これは……人間の尊厳の問題だ」


 一同が沈黙した。
 サトシの意見はなにかまずかったのだろうか。

 重々しく口を開いたのは外務大臣だ。

「戦争の終結……それはないでしょうね。たとえ神魔が介在しなくとも、人間が人間の意思で戦争を行う」

「それはなんでだ?」

 サトシはソウコウを見た。多分……睨んでいただろう。
 ソウコウはサトシを睨み返して言った。

「わかんねぇのかお前。神魔からの解放は分かった。それが人間の尊厳を賭けた戦いだということも理解した。その上での話だが、今俺たちが直面している戦争にも目を向けないといけない。神魔が引き起こしている戦争と言えども、戦争はすでに始まっている。これまでに人も大勢死んでいる。どの国も後には引けない状況になっている。ヌージィガが手を引くと宣言してみろ、これまで広げた国土を取り返すために隣国が攻めてくる。ヌージィガに取り込まれて亡国の民となった者たちも蜂起するだろう。これにどう対応する?」


 内務大臣もソウコウに続ける。

「人間が自分の意思で方向を決められることは重要だと考えております。ただし、それは個人の話です、国というものは個人とは違う。施政者の意思で動くものです。その施政者が人間であろうと神魔であろうと国民の置かれる状況に違いはない」


「違いがないなら家畜でいいということか、尊厳はないのか!」

 サトシは興奮してしまった。
 現実世界ではサトシは長いものに巻かれる主義だったはずだ。
 「好きなように生きる」そう決めたからだろうか。
 それとも……このタケルの体に染み付いた自由への気風がそうさせるのだろうか。
 サトシにも解らなかったが、サトシは人間が神魔に支配されていることに強い屈辱を感じていた。

「確かに……知らなければ済む話だ。知ったから屈辱を感じるだけだ。でも俺はもう知ってしまった。屈辱に耐えるつもりはない」

「じゃぁ、どうするんだよ?」

「……神魔を退治する」

「神魔を信じる人々はどうする?」

「信仰すればいい。だからと言って弾圧はしない。信じるのは自由だ」


 サトシはまた一息ついてカイマに意見を求めた。


「カイマ、君はなぜ国民を弾圧したんだい?」

 カイマは素直に答えた。

「俺が弾圧したのは封印を解かれる可能性が少しでもあったからだ。封印でなく、殺すことができれば問題はない」


 誰かが言った。

「神魔を殺す、そんな事ができると思っているのか?」


「神魔を殺す……可能であればそれが良いんだろうな。カイマは一人で神魔を封印した。複数名でいけば殺すこともできるかもしれない」


 一同がざわめく。
 神魔を殺すなどということができるか、それを疑っているようだ。

 サトシは軍務大臣と紅月隊の隊長に向かって言った。

「協力してくれないか。軍部の力が必要だ」


「ちょっと待て」

 カイマが今度は口を挟む。

「片山さん、アンタは甘い。神魔対人間の構図は俺も考えた。駄目だ。庶民はもちろん軍部の人間にも理解はできない。表には出さなくてもみんな腹の底では神魔を信仰している。それに今、国民には目の前の敵がいる。隣国の奴らだ。そいつらがいる限りみんな自分の生活を守るための戦いを優先するだろう……だから俺はすべての国を滅ぼして、一つの世界を作った後で人類対神魔の構図を描こうとしたんだ」

「一つの世界……」


 結局、戦争は不可避なのか。
 神魔の言いなりになる他ないのか……


「外務大臣、ダメもとでお願いしたい。各国に停戦協定の打診をしてくれないか」

「非常に難しいことだとは思いますが……一応手配してみましょう」

「頼む」


「おい」

 ソウコウが乱暴に声をかけてくる。

「もし停戦協定が結ばれなかったその時はどうするつもりだ?」


「その時は腹をくくるしか無い。この世界を武力で統一して、その後で人類対神魔の戦いをするだけだ」

「結局、カイマのやったことと同じだな。俺達のクーデターに意味はなかった」


 サトシは返す言葉も無かった。
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