SE魔剣士、二つの世界で稼働中!

灰猫ベル

文字の大きさ
上 下
19 / 60
本編

第十九話 さて、どうしたものか……

しおりを挟む
「カイマ、生きていたのか」
「あぁ。死ぬかと思ったけどね」

 カイマは辺りを見回す。

「あれ……? ここは……ケマじゃないか。こんなところになんの用なんだい?」

「大宝神魔の封印を解きに来たんだ」

「はははっ! あのクソ野郎の?」

 カイマは目をむき出して笑った。

「クソ野郎?」

「アンタは大宝神魔がどんなやつかわかってないみたいだな」

「あぁ、全然知らないからな」

「俺が戦争をするように最初に仕向けたのは大宝神魔だぜ?」

「何?」


 サトシとカイマが会話している間にさっきまで逃げていた男たちがぞろぞろと戻ってきた。
 騒ぎを聞きつけたのか、町の有力者と思われる大男もやってきた。

「これはこれはカイマ様。こんなところまでご足労ご苦労さんです」

 卑屈な笑顔を浮かべる大男をカイマは冷たい目で見ている。

「この通り、ケマはワシらが防衛しとります。ワシらが守る限り封印には指一本触れさせませんぞ! がっはっは」

 大男はカイマの冷たい視線に気づくことなく、胸を張っている。

「ところで、カイマ様ぁ……」

 大男は下卑た笑顔を浮かべ、サトシの後ろに隠れている少女を指さして言った。

「あの娘っ子、ワシらに貰えませんかねぇ。悪いようにはしませんぜ。へへへ……」

「あの子をどうするつもりだ?」

「そりゃぁ、もうお楽しみですわ。がっはっはっは!」

 カイマは大男の腹に手を触れた。手の平に黒い光が灯る。

「お前らは本当に下衆だな……無属性攻撃魔法ヌルポインターエクセプション

 空間が軋む音とともに大男の胴体から首にかけてまで大きな穴が開いた。

「?」

 大男はそのまま地面に倒れる。大穴から内臓がこぼれ落ちる様を不思議そうに見ながら大男は息絶えた。


「お前の部下じゃないのか?」

 倒れた大男を見下ろしながらサトシは尋ねた。

「そうだよ。でもこういう奴ら、ホントは嫌いなんだよね」

 そう言ったカイマは、大男に触れていた手を洋服で拭った。まるで汚物を触った後のように。

「親分!」

「うわっ親分がやられた」

 集まっていた男たちは再び逃げ出した。
 その逃げる方向に向かって、カイマは攻撃魔法を放つ。
 黒い光が男たちを包む。男たちは叫び声を上げる間もなく蒸発した。

「ふぅ、さっぱりした」

「あんた、容赦ないな」

「ゴミみたいな連中だからなぁ。死んだ方が良いと思って」

「そのゴミみたいな連中を使って、人々を苦しめていたのはお前だろう?」

 サトシには納得がいかない。

「毒を以て毒を制す、だよ」

「……毒?」

「そう、猛毒。神魔信仰は人間にとって猛毒なのさ」

「どういう意味だ?」

「大宝神魔の封印はこの国の人間を救うためにやったことだった」

「……話が見えないな」

「それなのに、民たちは折角封印した大宝神魔の封印を解こうとしやがった」

「それは信仰の対象だから当然のことだろう?」

「最初は警備兵を置いて、この町への侵入を制限した。でも駄目だった」

「駄目……というのは?」

「兵たちも信心がある。それに正規兵たちは自国の人間に対して手を出せるような奴はいなかった。だからうまくいかなかったのさ。俺は国内にうろついていた荒くれ者をこの町の警備と信仰の弾圧に使った」

「何故そんなに封印する必要があったんだ? ただの信仰だろう?」

 サトシがそう言うと、カイマは鼻で笑った。

「あんたは神魔の事を分かってない。あいつら……神魔は人間の天敵だよ」

「天敵?」

「今の戦争はね、神魔たちが始めたものさ」

「神魔が始めた?」

「そう。この世界には大宝神魔以外にも何人か神魔がいて、そいつら同士で勢力争いをしてるんだよ。最近……といっても数百年周期なんだろうけど、最近の流行は自分の統治している国の人間を使った戦争ゲームだ」


「ゲーム……」

「そんな事を知らなかった俺は最初、この世界で勇者として他の神魔が率いる国と戦った。俺の軍は強くてな。どんどん勝ったよ」

「仲間に聞いたよ。数年で国土を倍以上にしたらしいな」

「ああ。そんで、いよいよ隣の国の暁光神魔ぎょうこうしんまを倒そうとした時に、アイツ……大宝神魔が目の前に現れて言ったんだよ」

「『これは遊びだから。暁光神魔きょうだいには手を出すな。人間だけを殺せ』って」

「それを聞いて俺はわけわかんなくなったんだ。だっておかしいじゃん? 遊びで人間をたくさん死なせておいて、自分たちは無事でいようなんてさ」

「確かに……」

「だから俺は大宝神魔を封印した。各国の神魔も倒して、この世界の人間を解放しようとした」

「なるほど、君は人類のために神魔を封印したと」

「あぁそうだ。だから大宝神魔の封印解除はしないでくれないか?」

 サトシは考える素振りも見せず返答した。

「それはできない」


「……は?」

「君の妃のレイミ。あの子は元の世界に帰りたいってさ。そのためには神魔の力が必要なんだ」

「レイミが……そうか……」

「こっちの言い分は理解できたか?」

「あぁ。分かったよ。レイミのためなら……大宝神魔の封印場所に案内してやる」

「ただし、俺も同席させてもらおう。用が済んだら封印しなおさなきゃいけないからな」





 サトシはアルデ、レイミ、メリルと合流した。
 メリルは完全に恐怖している。

「か……カイマ様ぁ……ひぇぇ」

「大丈夫、取って食ったりはしないよ」

「カイマ君……生きてたんだ……」

 レイミは涙を流した。その様子を見て、アルデはドン引きし、小声でサトシに言った。

「この女、したたかにもほどがあるわい」


「……ここだ」

 カイマが町の中央広場の一角にある石碑を指さして言った。

「この石が大宝神魔の封印石だ」

 石碑はかすかに鈴虫のような音を立てている。


「しかし、信仰の対象である神魔が人間の命を食い物にしておるとは、にわかには信じ難いのう」

「まだ、彼のウソである可能性もある」

「なんだと?」

「カイマ、お前が本当の事を言っている証拠はないだろう?」

「疑うなら大宝神魔本人に聞いてみるがいい」

「あぁ。そうさせてもらう」


 カイマは封印石に向かって両手をかざす。

無属性攻撃魔法ヌルポインターエクセプション!」

 黒い光が封印石周辺の地面をえぐるように蒸発させると、その穴から白い煙が噴き出した。

「大宝神魔のお出ましだ」

 アルデとメリルは地にひざまずいた。
 カイマは身構える。連られてサトシも剣を正眼に構えた。
 煙の中に人影が見える……が、でかい。身長は五メートルくらいあろうか。巨人だ。
 その巨人がこちらにゆっくりと近づいてくる。

 煙が晴れ、巨人の姿が露わになる。
 髪のない頭部、魚のように真ん丸な目玉、大きく開いた口、若干細くて長い手足。異形の存在がそこに立ていた。


「封印が解かれたか 喜ばしや 喜ばしや」


 巨人は囁くような発声、だがはっきりと聞こえる声でそう言った。

「我を解放せしは誰ぞ」

 目をぎょろぎょろしながらこちらを眺める大宝神魔。
 なんの感情も読み取れない顔立ちにサトシは恐怖を覚えた。

「俺だよ大宝神魔。久しぶりだな」

 カイマが前に進み出る。

「ククク 汝か 我を 封印しておいて 自ら封印を解くとは 如何に」

「この女……俺の妃を元の世界に戻してやってほしい」

「元の 世界 戻せと   ククククク」

「何がおかしい?」

「混沌より抜きい出したるものを 混沌に戻したとて 元の流れには戻れぬもの」

「どういうことだ?」

「異なる世界 無限に存在するなれば 取り出すは易し 飛ばすも易し なれど 元の世界に戻すは叶わぬ」

「……こいつ何を言ってるんだ?」

 カイマには大宝神魔の話を理解できなかったが、サトシには直感的に理解ができた。

「多分大宝神魔はSFで言うところの並行世界の事を言っているだと思う。並行世界は無限に存在していて、時空を超えて召喚することはできるが、元の世界を特定してそこに戻すのは困難だと言っているんじゃないか」

 サトシの説明に大宝神魔は満足したようだ。口の端を引き上げている。おそらく笑っているのだろう。

「ホホ 片山タケル サトシ 良きかな 良きかな」

「……正解のようだな」

「そんな……」

 レイミはその場に崩れ落ちた。

「もう、お母さんにもお父さんにも会えない……」

「人の苦しみ また楽しや 楽しや」

 大宝神魔はレイミの悲しみを楽しんでいるようだ。
 大きく裂けた口を開けて、レイミをまるで飲み込むかのように顔を近づけてきた。

「レイミ! 危ない」

 大宝神魔の顔めがけ、渾身のパンチをカイマが放つ。
 同時にサトシも斬りかかった。
 しかし、大宝神魔はまるで風に舞う木の葉のようにその攻撃をかわし上空へ逃れた。

「人の苦しみ 甘きかな 人の涙 甘きかな ゲッゲッゲッゲッゲ」

 まるでレイミをからかうかのように円を描いて大宝神魔は飛ぶ。


「アルデ……人の信仰にケチをつけるのもアレなんだけどさ。お前らの神様って、ろくでもねぇな」

「うむ。会うのは初めてじゃが、中々にアレじゃの。これならカイマの話も信じられぬ事もない」



「どうだ? これが神魔ってやつだ」

 カイマが勝ち誇ったように言った。

「アルデには悪いけどさ、こいつ倒した方が良いのかもしれないな」

「うぅむ……そうかもしれんな。戦乱の元が国神じゃったというのは非常に残念な話じゃが」


「我を倒すと ホホ 怖い 怖い 我は逃れる」

 そういうと大宝神魔は背を向けた。

「逃がすか! 無属性攻撃魔法ヌルポインターエクセプション!」

 空中の大宝神魔に向かってカイマが攻撃魔法を放つ。しかしその攻撃は大きく逸れた。

「二度も 同じ手を 食らいはせぬ」

「チッ! 逃したか!」
 
 大宝神魔は上空で大きく息を吸う。体が風船のように膨らむ。
 そして息を吐き出しながら叫んだ。



『我は大宝神魔、封印より目覚めた。ヌージィガの民よ我に再び従え。さすれば永遠の繁栄を与えよう! 我に弓引く無法が者どもに報いを! 我がヌージィガがこの世界の覇権を握らん!』

 大宝神魔の声が国民たちの直接脳内に響く。

 遠く離れた各地の国民にその声は届いた。
 あるものは涙を流し、あるものは安堵した。

 神魔と言うのはこの国において、この数年で禁じられたとはいえ、根深く信仰されているのだ。
 多くの国民は戦争に向かって再び奮起した。



 サトシは王としての仕事を放棄するつもりだったが、この状況を見て考え方が変わった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

月の箱庭

善奈美
ファンタジー
  一つの過ちが全てを呑み込んでいく……時を越えた先に待つものとは………。  約千年前に封印された邪悪な意識が目覚めようとしていた。全ての封印は解け始め、仮初めの平和が少しずつ狂い始める……。     ※表紙イラスト、挿し絵は他サイトの絵師、大神紅葉様に描いていただいたものです。 ※エブリスタ(公開中)、ポケクリ(非公開)、メクる(閉鎖)で公開していました。 ※章によって文字数が異なります。

処理中です...