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本編
第十三話 対応完了報告致します。
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サトシの「いじめられっ子」発言は王の逆鱗に触れた。
カイマは顔を真っ赤にしている。
「黙れ!」
カイマの大振りの蹴りをサトシは剣で受ける。
敵の足首から先がスパッと切れるが、切れたところから復元する。
カイマは常時回復魔法を発動しながら戦っている。
その魔法の常識はずれな効果にサトシは動揺しつつも、それを隠して挑発する。
「大方いじめられっ子が力を得て、調子に乗ったのが今の君なんだろう?」
「うるさいなぁ……バカにすんな!」
「バカにはしてないよ。ただ、君は情けない男だと思っている」
「はぁ? なめんなよ」
「なめられるのは君の余裕がないからだ。余裕がない男がなめられるのは当たり前だ」
「余裕? あるんですけど?」
「どこに? 君を見てるとただの拗らせたガキにしか見えないよ」
いきなりカイマは地面を踏みつけた。衝撃がこちらまで伝わってくる。すごい力だ。
メタルドラゴンが衝撃に興奮してカイマに襲いかかる。
カイマは噛みつき攻撃をサイドステップで避け、竜の脇腹に渾身のパンチを見舞った。
金属製の鱗がひしゃげ、先の魔法で受けた内傷に突き刺さる。竜は痛みにのたうち回る。
「そうやって力を見せたら俺がビビるとでも思ったか? 君のお友達は子供だったから上手くいったのかもしれないが、大人には通用しないぞ」
カイマは冷静さを欠いていた。
涙を見られたことに対する決まりの悪さと、悪夢のような記憶を呼び出した原因を一刻も早くこの世から消したいと考えていた。
その様子をサトシは観察する。
そして、相手に攻撃させるようにきっかけを与えてやる。
「来てみろよ。子供騙しの能力なんて俺は怖くないぞ」
「なんだと……じゃぁ見せてやる!」
カイマは怒りに任せて一直線にサトシに対して突っ込んできた。サトシの希望通りの攻撃だ。
速いが駆け引きを意識しない単純な攻撃。サトシには簡単に見切ることができる。
サトシはタイミングを合わせて敵の眉間目掛けて剣を思い切り突いた。
流石というべきか、敵は眉間を貫かれる直前に首を振って切っ先を避けた。
剣はカイマの左肩に深く突き刺さり、サトシの懐にカイマが飛び込んでくる形になった。
「死ね!」
カイマの蹴りがサトシの脇腹に入る。
ギリギリ避けたつもりではあったが、視界が大きくズレる。サトシは数メートル吹っ飛ばされた。
肋骨も数本骨折した。
さらに敵は追い打ちの飛び蹴りを繰り出してきた。
――死ぬ……!
サトシは覚悟したが、敵の攻撃は当たらなかった。
カイマはサトシに集中するあまり、他の者が見えていなかった。
彼の胸にターニャの薙刀が刺さっていた。
「なん……だと……」
「ソウコウ! 今だよ!」
ターニャの声に合わせて発せられたソウコウの雷撃魔法がカイマに直撃する。
王はその場で膝をつく。その後頭部を鉄鬼アルデが蹴り飛ばす。
変な方向に首が曲がった状態で地面を転がるカイマ。
相当な手練でも死んでいるところだろうが、カイマは地に手をついて跳ね起きた。
「そうか、俺を挑発して判断力を鈍らせようとしてるんだな?」
さすがにバレたようだ。何か言い返したいが呼吸が整わず喋ることができない。
「挑発に乗るつもりはないけど……アンタ、ムカつくから最初に殺してやるよ」
「そうはいかないよ」
サトシとカイマの間にキリークが立った。
「王様、ここで死ぬのは君なんだ」
すかさずサーシャがサトシの負傷を魔法で治療し始める。
「キリーク、アンタごときが俺に勝てると思ってるのか」
「一人じゃ難しいだろうねぇ……でも、見てごらんよ。こちらに何人いるか」
「六対一か。やれやれ、本当に絵に書いたような敵役だなアンタたちは」
「何とでも言えばいいよ。時代は勝者のもんだから。君がそうだったみたいにね」
「おいおい、台詞まで悪役じゃないかキリーク。そんなこと言われちゃ絶対に勝たないとな」
「勝てるといいねぇ」
キリークが念動力で八つの鉄球を宙に浮かべ、金棒を振りかぶる。
「死んでもらうよ、王様」
耳をつんざくような金属音が響き、打球がカイマに襲いかかる。
「避けてもいい……だがっ!」
カイマは打球を避けず手を突き出した。
「全方位無属性攻撃魔法!」
カイマを中心とした黒い衝撃波が打球の威力を殺すとともに、背後で待ち構えていたターニャを吹き飛ばした。
「きゃぁっ!」
「アンタたち兄妹の作戦はお見通しだぜ」
「そうかい。じゃぁ俺の手に対してはどう出る?」
ソウコウは馬車の横に立っている。その距離カイマから数十メートルの距離だ。
そしてその腕の中にはカイマの第一妃、レイミがいた。
「……どういうつもりだ?」
「どうもこうもねぇよ。この中にはアンタの女がいるんだろ。見りゃわかるだろう? 人質だよ」
「人質とは……どこまでも卑怯な奴らだな」
ソウコウのなりふり構わなさにはサトシも驚いた。
ターニャも唖然としている。
装甲に隠れて見えないがキリークとアルデも同じような表情をしているのだろう。
ただ一人サーシャだけはこの展開を想定していたようだ。
「流石ですね、ソウコウ様は」
「おい、どうするんだ? アンタが突っ込んでくるより早く俺はこの女を殺すぜ? アンタご自慢の回復魔法も意味をなさないほど黒焦げだ」
そう言うとソウコウは電光まとう剣をレイミにそっと触れた。
レイミはビクンとのけぞり、ぐったりとする。
その股間からは液体が滲み出る。失禁したようだ。
「やめろ!」
「アンタの命と引き換えにこいつを助けてやるよ。どうする?」
「……俺の命と引き換えに……」
「そうだ、どっちの命を取るか選ばせてやるって言ってんだよ。有情だろ?」
「カイマ君……」
レイミは訴えるような目でカイマを見る。
「レイミ……」
カイマは何かを言いかけたが、笑顔を作って言った。
「……良いよ、俺が死ぬ。レイミが無事なら俺はいいんだ」
「カイマ君……」
ここが唯一のチャンスだろう。
今度こそとどめを刺さねばならない。
「アルデ、そいつをメタルドラゴンに向かって投げろ」
ソウコウがアルデに命じる。
「了解じゃ」
アルデはカイマを掴み、メタルドラゴン向かって投げつけた。
何日もの絶食状態と痛みに殺気立った竜は、カイマの体に齧り付く。
「レイミ、この世界楽しかったな……」
復元を繰り返すカイマの肉体と、メタルドラゴンの食欲がせめぎ合う。
「そうだね、カイマ君」
レイミは涙を流しながら微笑んだ。
「さよなら……」
食欲が復元力に勝った。カイマはメタルドラゴンに飲み込まれた。
異世界で国の王となった少年は、魔獣の餌となってその短い生涯を閉じたのであった。
捕獲
サトシはカイマを平らげたメタルドラゴンを再び捕獲した。
「怖い女ですね」
サーシャが言った。
◇
「アンタ、ひどい女だな」
ソウコウが笑みを浮かべながらレイミに言った。
「アイツ、最後までアンタのことを信じてたぜ」
「そうでしょうね。そうなるように振る舞ってきましたから」
レイミは笑顔で答えた。
「親友も、好きな人も彼に殺されました。……これで私の仇討ちは終わりました」
「さて、この後のことだけども……」
キリークが切り出す。
「この後の国政なんだけど、君に国を治めてもらおうかと考えている」
そう言うとキリークはサトシの肩を叩いた。
「ソウコウ君には国を治められるとは思っていないし、僕達には国境線を維持するという役割があるからね」
マジか? サトシにもタケルにもそんな力があるとは思えないぞ?
「おいおい、サトシに国を治められるとでも?」
「大丈夫。僕達の傀儡になってもらうから」
そういうことか。
御しやすいからサトシを王に据えて、実権は軍部が握るというわけだ。
かくしてサトシは一介の魔剣士から国王となったのだった。
カイマは顔を真っ赤にしている。
「黙れ!」
カイマの大振りの蹴りをサトシは剣で受ける。
敵の足首から先がスパッと切れるが、切れたところから復元する。
カイマは常時回復魔法を発動しながら戦っている。
その魔法の常識はずれな効果にサトシは動揺しつつも、それを隠して挑発する。
「大方いじめられっ子が力を得て、調子に乗ったのが今の君なんだろう?」
「うるさいなぁ……バカにすんな!」
「バカにはしてないよ。ただ、君は情けない男だと思っている」
「はぁ? なめんなよ」
「なめられるのは君の余裕がないからだ。余裕がない男がなめられるのは当たり前だ」
「余裕? あるんですけど?」
「どこに? 君を見てるとただの拗らせたガキにしか見えないよ」
いきなりカイマは地面を踏みつけた。衝撃がこちらまで伝わってくる。すごい力だ。
メタルドラゴンが衝撃に興奮してカイマに襲いかかる。
カイマは噛みつき攻撃をサイドステップで避け、竜の脇腹に渾身のパンチを見舞った。
金属製の鱗がひしゃげ、先の魔法で受けた内傷に突き刺さる。竜は痛みにのたうち回る。
「そうやって力を見せたら俺がビビるとでも思ったか? 君のお友達は子供だったから上手くいったのかもしれないが、大人には通用しないぞ」
カイマは冷静さを欠いていた。
涙を見られたことに対する決まりの悪さと、悪夢のような記憶を呼び出した原因を一刻も早くこの世から消したいと考えていた。
その様子をサトシは観察する。
そして、相手に攻撃させるようにきっかけを与えてやる。
「来てみろよ。子供騙しの能力なんて俺は怖くないぞ」
「なんだと……じゃぁ見せてやる!」
カイマは怒りに任せて一直線にサトシに対して突っ込んできた。サトシの希望通りの攻撃だ。
速いが駆け引きを意識しない単純な攻撃。サトシには簡単に見切ることができる。
サトシはタイミングを合わせて敵の眉間目掛けて剣を思い切り突いた。
流石というべきか、敵は眉間を貫かれる直前に首を振って切っ先を避けた。
剣はカイマの左肩に深く突き刺さり、サトシの懐にカイマが飛び込んでくる形になった。
「死ね!」
カイマの蹴りがサトシの脇腹に入る。
ギリギリ避けたつもりではあったが、視界が大きくズレる。サトシは数メートル吹っ飛ばされた。
肋骨も数本骨折した。
さらに敵は追い打ちの飛び蹴りを繰り出してきた。
――死ぬ……!
サトシは覚悟したが、敵の攻撃は当たらなかった。
カイマはサトシに集中するあまり、他の者が見えていなかった。
彼の胸にターニャの薙刀が刺さっていた。
「なん……だと……」
「ソウコウ! 今だよ!」
ターニャの声に合わせて発せられたソウコウの雷撃魔法がカイマに直撃する。
王はその場で膝をつく。その後頭部を鉄鬼アルデが蹴り飛ばす。
変な方向に首が曲がった状態で地面を転がるカイマ。
相当な手練でも死んでいるところだろうが、カイマは地に手をついて跳ね起きた。
「そうか、俺を挑発して判断力を鈍らせようとしてるんだな?」
さすがにバレたようだ。何か言い返したいが呼吸が整わず喋ることができない。
「挑発に乗るつもりはないけど……アンタ、ムカつくから最初に殺してやるよ」
「そうはいかないよ」
サトシとカイマの間にキリークが立った。
「王様、ここで死ぬのは君なんだ」
すかさずサーシャがサトシの負傷を魔法で治療し始める。
「キリーク、アンタごときが俺に勝てると思ってるのか」
「一人じゃ難しいだろうねぇ……でも、見てごらんよ。こちらに何人いるか」
「六対一か。やれやれ、本当に絵に書いたような敵役だなアンタたちは」
「何とでも言えばいいよ。時代は勝者のもんだから。君がそうだったみたいにね」
「おいおい、台詞まで悪役じゃないかキリーク。そんなこと言われちゃ絶対に勝たないとな」
「勝てるといいねぇ」
キリークが念動力で八つの鉄球を宙に浮かべ、金棒を振りかぶる。
「死んでもらうよ、王様」
耳をつんざくような金属音が響き、打球がカイマに襲いかかる。
「避けてもいい……だがっ!」
カイマは打球を避けず手を突き出した。
「全方位無属性攻撃魔法!」
カイマを中心とした黒い衝撃波が打球の威力を殺すとともに、背後で待ち構えていたターニャを吹き飛ばした。
「きゃぁっ!」
「アンタたち兄妹の作戦はお見通しだぜ」
「そうかい。じゃぁ俺の手に対してはどう出る?」
ソウコウは馬車の横に立っている。その距離カイマから数十メートルの距離だ。
そしてその腕の中にはカイマの第一妃、レイミがいた。
「……どういうつもりだ?」
「どうもこうもねぇよ。この中にはアンタの女がいるんだろ。見りゃわかるだろう? 人質だよ」
「人質とは……どこまでも卑怯な奴らだな」
ソウコウのなりふり構わなさにはサトシも驚いた。
ターニャも唖然としている。
装甲に隠れて見えないがキリークとアルデも同じような表情をしているのだろう。
ただ一人サーシャだけはこの展開を想定していたようだ。
「流石ですね、ソウコウ様は」
「おい、どうするんだ? アンタが突っ込んでくるより早く俺はこの女を殺すぜ? アンタご自慢の回復魔法も意味をなさないほど黒焦げだ」
そう言うとソウコウは電光まとう剣をレイミにそっと触れた。
レイミはビクンとのけぞり、ぐったりとする。
その股間からは液体が滲み出る。失禁したようだ。
「やめろ!」
「アンタの命と引き換えにこいつを助けてやるよ。どうする?」
「……俺の命と引き換えに……」
「そうだ、どっちの命を取るか選ばせてやるって言ってんだよ。有情だろ?」
「カイマ君……」
レイミは訴えるような目でカイマを見る。
「レイミ……」
カイマは何かを言いかけたが、笑顔を作って言った。
「……良いよ、俺が死ぬ。レイミが無事なら俺はいいんだ」
「カイマ君……」
ここが唯一のチャンスだろう。
今度こそとどめを刺さねばならない。
「アルデ、そいつをメタルドラゴンに向かって投げろ」
ソウコウがアルデに命じる。
「了解じゃ」
アルデはカイマを掴み、メタルドラゴン向かって投げつけた。
何日もの絶食状態と痛みに殺気立った竜は、カイマの体に齧り付く。
「レイミ、この世界楽しかったな……」
復元を繰り返すカイマの肉体と、メタルドラゴンの食欲がせめぎ合う。
「そうだね、カイマ君」
レイミは涙を流しながら微笑んだ。
「さよなら……」
食欲が復元力に勝った。カイマはメタルドラゴンに飲み込まれた。
異世界で国の王となった少年は、魔獣の餌となってその短い生涯を閉じたのであった。
捕獲
サトシはカイマを平らげたメタルドラゴンを再び捕獲した。
「怖い女ですね」
サーシャが言った。
◇
「アンタ、ひどい女だな」
ソウコウが笑みを浮かべながらレイミに言った。
「アイツ、最後までアンタのことを信じてたぜ」
「そうでしょうね。そうなるように振る舞ってきましたから」
レイミは笑顔で答えた。
「親友も、好きな人も彼に殺されました。……これで私の仇討ちは終わりました」
「さて、この後のことだけども……」
キリークが切り出す。
「この後の国政なんだけど、君に国を治めてもらおうかと考えている」
そう言うとキリークはサトシの肩を叩いた。
「ソウコウ君には国を治められるとは思っていないし、僕達には国境線を維持するという役割があるからね」
マジか? サトシにもタケルにもそんな力があるとは思えないぞ?
「おいおい、サトシに国を治められるとでも?」
「大丈夫。僕達の傀儡になってもらうから」
そういうことか。
御しやすいからサトシを王に据えて、実権は軍部が握るというわけだ。
かくしてサトシは一介の魔剣士から国王となったのだった。
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