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本編
第五十六話 過去の経緯についてヒアリングを実施しました。
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「貴女の兄弟を殺すことになる。許してくれ」
サトシはかしこまってエンディア女王スミレに言った。
「いつかこのような日が……我々が神族を滅ぼした時と同じような日が来るとは思っていました」
自分の兄弟への殺害予告をスミレは冷静に受け入れた。スミレの脳内には自分の親を殺した日の記憶が蘇っていた。
それは罪悪感を上回る自由への渇望だった。
今、人類も自由への扉に手をかけようとしている。その事実は兄弟の死という痛みの先にあるものではあったが、スミレは自分の子孫の成長に喜びを感じていた。
◇
サトシはスミレに一言の断りを入れた後、ヌージィガ王城中庭で剣を振った。
一振りごとに汗が飛び散る。
『アンタにその剣は使えない』
ソウコウの言葉が胸に引っかかる。
自分の知らない魔剣の力。それを引き出そうとして、ひたすらに素振りを繰り返す。
サトシは剣道の修行をしていたころを思い出した。
――剣が一番よく知っている……か。
黙って一心不乱に魔剣を振る。しかし、剣は何も答えることはなかった。
その様子を少し離れたところでアルデが見ている。
千本の素振りを終えたところで、アルデはサトシに近づき、話しかけた。
「ソウコウの言葉が気になっておるんじゃな?」
「あぁ……アルデ。そうなんだ。魔剣の力をどうにかして引き出したんだけど……どんな力なのかすら分からないんだ」
「フム……命を燃やす炎の種火を灯す力……じゃな」
「命を燃やす炎……どうすればできる?」
アルデは黙った。
「アルデ?」
「ソウコウには妹がおったのじゃ」
「妹。確かにアイツは兄っぽさがあるな。で、なんでソウコウの妹の話が出てくるんだ?」
「その剣……揺蕩う水の剣は、ソウコウの妹ミーニャなのじゃ」
「え……?」
サトシは剣を見た。手にした剣が人間とは考えたこともなかった。
「以前、盗賊を倒した時、死んだ盗賊がクロスボウになったじゃろう。それと同じことじゃ」
サトシは以前ケマへの道中、盗賊に襲われた時のことを思い出した。
襲ってきた盗賊を倒した際に、絶命した盗賊は息絶えたあとでアイテムに変化していた。
「じゃぁ、ソウコウの妹はもう……」
「うむ……死んでおる。その剣はミーニャの亡骸そのものじゃ。そして……ミーニャの心は未だにその剣に宿っておる」
「ミーニャのこと、よかったら教えてくれないか?」
「そう言われてもな……、妾も伝え聞いただけなのでな……」
「俺が教えてやるよ」
いつの間にか二人の後ろにソウコウがいた。
ソウコウはポツリポツリと妹ミーニャのことを話し始めた。
◇
俺の村。レイブってんだけど、レイブは戦士の育成が盛んな村で、村の若者は皆男女問わず戦士を目指してた。
紅月隊の一番隊長のターニャと二番隊長のキリークに前会ったろ? アイツらも同じレイブの出身だ。
ミーニャは俺と二つ離れた妹だった。能力を持って生まれなかった時点で、死亡時発動能力者であることはわかってた。
勇者の家系ってのは代々雷撃の魔法を引き継いでいる。俺もミーニャも雷撃魔法の使い手だった。
雷撃魔法の使い手であることで、戦闘用の能力を持たないミーニャも一端の戦士としてやっていける、それだけの力はあった。
王のカイマは周囲の国々と戦争をしていて、俺は兵士として国内の治安維持についていた。
その頃、国神への信仰が厚い地域に治安維持部隊が派遣されて、国民を弾圧しているって噂を聞いていた。
俺は噂に過ぎないと思ってたんだ。
……自分の村、レイブへの民間人鎮圧作戦の噂が出るまではね。
レイブは戦士の村であると同時に、神魔信仰の厚い村でもあった。戦と信仰ってのは相性がいいからな。
俺はレイブ鎮圧作戦の立案中に軍を抜け出して、レイブに戻った。
俺がタケルと初めて会ったのは、レイブの村だった。
この世界に来たばかりのタケルは、レイブの村で言葉が通じないが身振り手振りでうまくやっていた。
タケルは、サトシが知っているように気のいい男だ。言葉が通じなくてもそれはわかった。
ミーニャは他のやつ以上にタケルのことを気にかけていた。アイツは優しいやつだったからな。
鎮圧作戦が実行されることを俺は村の皆に伝えた。血気盛んな連中ばかりの村だ、すぐに戦闘準備はととのった。
やがて村に来た鎮圧部隊は簡単に返り討ちにしてやった。
タケルも村の仲間と一緒に村を守って戦った。剣の腕はかなりのもので、俺も感心したほどだ。
戦いの中で、ミーニャとタケルは通じ合ったんだろうな。すぐに仲良くなったよ。
ミーニャはタケルにこの世界の言葉を教えてやり、タケルはミーニャに剣を教えてやってた。
二人が男女の仲になるのに、そんなに日はかからなかった。
半月くらいしてからだな。レイブに再びヌージィガの治安維持部隊がやってきた。今度は結構な大軍でな。
俺たちは戦って、負けた。
生き残った村民は王への復讐を胸に、散り散りになった。
俺とタケルとミーニャは西へと逃げた。西の村はレイブと同じく信仰に厚い村だった。
村の神官だったサーシャに事情を話すと、彼女は俺たちを匿った。
やがて西の村もレイブ同様に治安維持部隊に攻め込まれて滅びた。
ミーニャもその時に命を落とした。
死にゆくミーニャはタケルの腕の中で剣に姿を変えた。
タケルはその剣に、カイマを倒すことを誓った。剣はタケルの思いに答え、その力を解放した。
敵は多くの兵がいたが、タケルによって引き出された魔剣の炎はその場にいる敵の命を燃やし尽くした。
そして俺とタケルとサーシャの三人は、治安維持部隊に攻撃される村を守って各地を転々とした。
その中でアルデと出会って四人になった。
四人になって、俺達は更に多くの村を救った。
俺たちはいつしかヌージィガに伝わる神魔の使い、『暁の四人』の再来と言われるようになった。
◇
「……これが、サトシと会う前の俺たちの話だ」
アルデは頷きながら聞き、サトシは内容を理解しようとしっかりと耳を傾けた。
「兄である俺もその剣の力を引き出そうとした。でも、俺にさえ力を引き出すことはできなかった」
「そうか、ソウコウにも無理だったのか」
「ミーニャは最後までタケルを愛して、最後はタケルを守り死んだ。……ミーニャが認め、愛した唯一の男、それがタケルだ」
タケルとソウコウの妹の話を聞いて、サトシは自分では魔剣を扱えないと言われた意味を理解した。
「……なら、俺は俺のやり方で戦うしかないな」
ソウコウが呆れる。
「だから、今のお前では神魔に勝つことは……」
ソウコウの言葉をサトシが片手で遮る。その目には闘志が宿る。
「確かにタケルは強い。体だけでなく心も強い男だ。俺だって知ってるさ。……でもな、俺だって負けてばかりじゃいられない」
「魔剣が力を貸してくれないなら、俺はタケルにはできない戦いをしてやるだけさ」
サトシはこの戦いを諦めてはいない。
ソウコウとアルデはサトシの表情を見て、不思議と「こいつならやれるかもしれない」と期待を抱いた。
サトシはかしこまってエンディア女王スミレに言った。
「いつかこのような日が……我々が神族を滅ぼした時と同じような日が来るとは思っていました」
自分の兄弟への殺害予告をスミレは冷静に受け入れた。スミレの脳内には自分の親を殺した日の記憶が蘇っていた。
それは罪悪感を上回る自由への渇望だった。
今、人類も自由への扉に手をかけようとしている。その事実は兄弟の死という痛みの先にあるものではあったが、スミレは自分の子孫の成長に喜びを感じていた。
◇
サトシはスミレに一言の断りを入れた後、ヌージィガ王城中庭で剣を振った。
一振りごとに汗が飛び散る。
『アンタにその剣は使えない』
ソウコウの言葉が胸に引っかかる。
自分の知らない魔剣の力。それを引き出そうとして、ひたすらに素振りを繰り返す。
サトシは剣道の修行をしていたころを思い出した。
――剣が一番よく知っている……か。
黙って一心不乱に魔剣を振る。しかし、剣は何も答えることはなかった。
その様子を少し離れたところでアルデが見ている。
千本の素振りを終えたところで、アルデはサトシに近づき、話しかけた。
「ソウコウの言葉が気になっておるんじゃな?」
「あぁ……アルデ。そうなんだ。魔剣の力をどうにかして引き出したんだけど……どんな力なのかすら分からないんだ」
「フム……命を燃やす炎の種火を灯す力……じゃな」
「命を燃やす炎……どうすればできる?」
アルデは黙った。
「アルデ?」
「ソウコウには妹がおったのじゃ」
「妹。確かにアイツは兄っぽさがあるな。で、なんでソウコウの妹の話が出てくるんだ?」
「その剣……揺蕩う水の剣は、ソウコウの妹ミーニャなのじゃ」
「え……?」
サトシは剣を見た。手にした剣が人間とは考えたこともなかった。
「以前、盗賊を倒した時、死んだ盗賊がクロスボウになったじゃろう。それと同じことじゃ」
サトシは以前ケマへの道中、盗賊に襲われた時のことを思い出した。
襲ってきた盗賊を倒した際に、絶命した盗賊は息絶えたあとでアイテムに変化していた。
「じゃぁ、ソウコウの妹はもう……」
「うむ……死んでおる。その剣はミーニャの亡骸そのものじゃ。そして……ミーニャの心は未だにその剣に宿っておる」
「ミーニャのこと、よかったら教えてくれないか?」
「そう言われてもな……、妾も伝え聞いただけなのでな……」
「俺が教えてやるよ」
いつの間にか二人の後ろにソウコウがいた。
ソウコウはポツリポツリと妹ミーニャのことを話し始めた。
◇
俺の村。レイブってんだけど、レイブは戦士の育成が盛んな村で、村の若者は皆男女問わず戦士を目指してた。
紅月隊の一番隊長のターニャと二番隊長のキリークに前会ったろ? アイツらも同じレイブの出身だ。
ミーニャは俺と二つ離れた妹だった。能力を持って生まれなかった時点で、死亡時発動能力者であることはわかってた。
勇者の家系ってのは代々雷撃の魔法を引き継いでいる。俺もミーニャも雷撃魔法の使い手だった。
雷撃魔法の使い手であることで、戦闘用の能力を持たないミーニャも一端の戦士としてやっていける、それだけの力はあった。
王のカイマは周囲の国々と戦争をしていて、俺は兵士として国内の治安維持についていた。
その頃、国神への信仰が厚い地域に治安維持部隊が派遣されて、国民を弾圧しているって噂を聞いていた。
俺は噂に過ぎないと思ってたんだ。
……自分の村、レイブへの民間人鎮圧作戦の噂が出るまではね。
レイブは戦士の村であると同時に、神魔信仰の厚い村でもあった。戦と信仰ってのは相性がいいからな。
俺はレイブ鎮圧作戦の立案中に軍を抜け出して、レイブに戻った。
俺がタケルと初めて会ったのは、レイブの村だった。
この世界に来たばかりのタケルは、レイブの村で言葉が通じないが身振り手振りでうまくやっていた。
タケルは、サトシが知っているように気のいい男だ。言葉が通じなくてもそれはわかった。
ミーニャは他のやつ以上にタケルのことを気にかけていた。アイツは優しいやつだったからな。
鎮圧作戦が実行されることを俺は村の皆に伝えた。血気盛んな連中ばかりの村だ、すぐに戦闘準備はととのった。
やがて村に来た鎮圧部隊は簡単に返り討ちにしてやった。
タケルも村の仲間と一緒に村を守って戦った。剣の腕はかなりのもので、俺も感心したほどだ。
戦いの中で、ミーニャとタケルは通じ合ったんだろうな。すぐに仲良くなったよ。
ミーニャはタケルにこの世界の言葉を教えてやり、タケルはミーニャに剣を教えてやってた。
二人が男女の仲になるのに、そんなに日はかからなかった。
半月くらいしてからだな。レイブに再びヌージィガの治安維持部隊がやってきた。今度は結構な大軍でな。
俺たちは戦って、負けた。
生き残った村民は王への復讐を胸に、散り散りになった。
俺とタケルとミーニャは西へと逃げた。西の村はレイブと同じく信仰に厚い村だった。
村の神官だったサーシャに事情を話すと、彼女は俺たちを匿った。
やがて西の村もレイブ同様に治安維持部隊に攻め込まれて滅びた。
ミーニャもその時に命を落とした。
死にゆくミーニャはタケルの腕の中で剣に姿を変えた。
タケルはその剣に、カイマを倒すことを誓った。剣はタケルの思いに答え、その力を解放した。
敵は多くの兵がいたが、タケルによって引き出された魔剣の炎はその場にいる敵の命を燃やし尽くした。
そして俺とタケルとサーシャの三人は、治安維持部隊に攻撃される村を守って各地を転々とした。
その中でアルデと出会って四人になった。
四人になって、俺達は更に多くの村を救った。
俺たちはいつしかヌージィガに伝わる神魔の使い、『暁の四人』の再来と言われるようになった。
◇
「……これが、サトシと会う前の俺たちの話だ」
アルデは頷きながら聞き、サトシは内容を理解しようとしっかりと耳を傾けた。
「兄である俺もその剣の力を引き出そうとした。でも、俺にさえ力を引き出すことはできなかった」
「そうか、ソウコウにも無理だったのか」
「ミーニャは最後までタケルを愛して、最後はタケルを守り死んだ。……ミーニャが認め、愛した唯一の男、それがタケルだ」
タケルとソウコウの妹の話を聞いて、サトシは自分では魔剣を扱えないと言われた意味を理解した。
「……なら、俺は俺のやり方で戦うしかないな」
ソウコウが呆れる。
「だから、今のお前では神魔に勝つことは……」
ソウコウの言葉をサトシが片手で遮る。その目には闘志が宿る。
「確かにタケルは強い。体だけでなく心も強い男だ。俺だって知ってるさ。……でもな、俺だって負けてばかりじゃいられない」
「魔剣が力を貸してくれないなら、俺はタケルにはできない戦いをしてやるだけさ」
サトシはこの戦いを諦めてはいない。
ソウコウとアルデはサトシの表情を見て、不思議と「こいつならやれるかもしれない」と期待を抱いた。
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