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本編
第四十二話 神と王の戦いか。痺れるじゃねぇかよ。
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「ブグ……、ブグ……、ブグ……」
タルフの喉に空いた穴から血液の泡が出入りする。彼の命はまさに消えようとしていた。
「タルフよ 情けない 我の力を 分けたというのに」
いつからそこにいたのか、氷業神魔が死にゆくタルフの枕元に立ち見下ろしている。
タルフは氷業神魔に手を伸ばそうとするが、腕はなく、肩が少し持ち上がるだけだった。
「死ぬのが 怖いか」
氷業神魔が問う。タルフはその問いに頷くように目を見開いた。
「ならば 我が力を 与えよう」
そう言うと、氷業神魔はタルフの肩を抱え、口を重ねた。氷業神魔の体が萎んでゆき、タルフの目に生気が戻る。傷口が塞がり、出血が止まった。
タルフの足元に、皮だけになった氷業神魔の体が転がる。タルフは床に口を寄せ、それを啜り飲んだ。
「これで一つだ。 そして失った身体を、作り直さねばならぬ」
タルフは残った右足で宙を蹴り上げる。空間が裂け、光が漏れる。その裂け目に右足を突っ込み、器用に人を取り出す。
取り出されたのはタルフの三人の娘カムュ、オキァ、リグゥだ。
「父上……そのお姿は……?」
娘たちは巨大化した父の姿に驚いている。
「娘たち……。氷業神魔よ、何を考えている?」
「タルフよ この者たちの 命を 啜るのだ」
「そのようなことは……むぅっ?」
タルフの皮膚から無数の触手が生え、どんどん娘たちの方に伸びてゆく。
「ひぃっ!」
娘たちは触手から逃れようとするが、すぐに部屋の隅に追いやられてしまった。
「カムュ姉さま……どうすれば……」
「これは……父上ではありません! 父上の姿を盗んだ不浄な者にクルト家の意地を見せるのです。」
「はい、姉さま」
「土系防壁魔法!」
長女のカムュが防壁魔法を発動する。地面から壁が突き出し触手の進行を妨げる。
すかさず次女のオキァが攻撃魔法を放つ。
「このような不潔な触手、焼き尽くしてしまいますわ! 強火炎魔法!」
オキァの攻撃魔法が触手の表面を焦がす。肉の焼ける匂いがあたりに広がる。
しかし、無数の触手は次々に娘たちに迫った。
最初に触手の餌食となったのは末妹のリグゥだった。
防壁の間から侵入してきた触手が足に絡みつく。
「お姉さま! 助けて!」
「今助けるわリグゥ! 強火炎魔法!」
次女オキァが攻撃魔法をリグゥの足元に放つ、しかし触手は捉えたリグゥを盾とする。リグゥに攻撃魔法は直撃した。
「ギィっ! お……お姉さ……ま……」
「リグゥ!」
触手はそのまま息も絶え絶えなリグゥを引きずる。やがてリグゥは触手の中に埋もれて見えなくなった。
「おのれ! よくもリグゥを! オキァ、ここはなんとか逃げるのです」
「はい姉さま」
「風系速度向上魔法 オキァ、この触手を飛び越えましょう」
カムュは自身とオキァに身体能力向上魔法をかけた。
超人的な身体能力を得た二人は、触手の上を跳び、この場を脱出しようと試みる。
「娘たち 逃しは しないぞ」
空中に跳ねた二人のちょうど着地点に触手が渦を巻いた。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「ね……姉さま!」
二人の娘は触手の渦に飲み込まれた。
「氷業神魔よ、やめてくれ。娘たちの命はどうか助けてやってくれ」
「安心しろ タルフ 娘は 生き続ける」
「……お前の 中でな」
◇
数分後、タルフの居た場所には巨大な肉塊が転がっていた。
その内部では父と娘によるおぞましい交わりが行われている。
娘たちの穴という穴に触手が入り込む。口腔はもちろんのこと、鼻腔、耳孔、肛門、膣、尿道、眼窩に至るまで。
触手の太さは様々で、棍棒のように太いものもあれば、糸のように細いものもある。それらが娘たちの穴を侵し、内部組織に根を張る。
触手はタルフの神経と結合されており、娘たちの粘膜が裂けてゆく感覚が触手を通じてタルフに伝わる。
「ひぎぃっ……んぎぃっ……」
タルフは長女カムュの居る位置にじわりと濡れる暖かな感触を感じた。失禁だろうか。それとも何らかの分泌液だろうか。他の娘たちのいた場所でも同様に暖かな感触が広がる。
粘膜を押し広げる感覚から、それが膣であることを感じる。姉妹でありながらもそれぞれ異なった感触を感じつつ、父親である己が娘の処女を奪っていることがタルフの心を引き裂く。
「おぉ……お……娘たち……」
タルフの魂の慟哭は声を成すも肉に埋もれ、誰にも届かない。
「ゆくぞ タルフ 反撃の 時だ」
タルフであった肉塊は塔の窓から飛び出した。
◇
一方、塔前に展開したヌージィガ本陣ではヴェアーが帰陣した。
「王様、申し訳ありません。降伏勧告は失敗しました」
「その様子じゃぁ戦闘になったか」
タケルは、ヴェアーが下ろしたリマの様子を見て言った。
「はい、ロスワ評議会幹部に降伏勧告を行ったところ、こちらの申し出を先方が拒否。戦闘となりました」
「なるほど、ところで彼女……お前の部隊の副長だったか。大丈夫なのか?」
瀕死のリマに対し、魔法部隊が回復を試みている。
「ここまで連れ戻りましたが、恐らく助からないでしょう」
ヴェアーは表情もなく静かに言った。もちろん、ヴェアーにとってリマの喪失は小さなものではないが、戦場にいる限り命を失うという可能性がある認識は常にしている。
「レイミ」
「はい」
タケルは横にいるレイミに声をかけた。レイミの能力であれば命を取り戻す可能性は大いにある。
「彼女の回復を頼めるか?」
「わかりました、お任せください」
レイミはすっと立つと、リマの側に寄りスカートをたくし上げ、腰を前に突き出した。
「……!」
ヴェアーが眉をひそめる。
レイミは周囲の視線にうつむきながら、耳まで赤く染めて、放尿した。
レイミの尿がリマの全身に降り注ぎ周囲にはアンモニア臭が漂う。
「王様、これは何を……?」
ヴェアーは戸惑いながらタケルに尋ねた。
「レイミの体液は万能の回復薬になるんだ、しばらくすりゃお前の副長も回復するだろうよ」
「なんと! 有難き御計らい、感謝いたします」
「で、状況について聞かせてくれ」
「はい。戦闘の結果、ロスワの評議会幹部はいずれも絶命、生存者はおりません」
「そうか」
「それと……」
「それと?」
「今回の戦い、人外の者が現れました。『議長』と呼ばれておりましたが、大きさが人のそれの数倍はありました」
「人外……」
タケルはソウコウ、アルデと目配せする。
「その人外についても倒しております」
「なるほど……ご苦労だった。下がっていいぜ」
「はい」
タケルは一つため息をついた。
「さて……、ロスワの意思決定は誰に聞きゃぁいいんだ……」
――王様。
「イシュファラか」
タケルの耳に直接イシュファラの声が響く。
――クローディア様が、ロスワの意思決定に関わる生き残りがどこにいるのかわからないならば、ロスワに関しては制圧したものとみなし、制圧軍による統治を行ってはどうかと。
「おう、そうだな。俺もそれがいいと思う」
タケルが全軍に対し勝利宣言を行おうとした、その時だった。
ズン!
地面に鈍い衝撃。
不吉な肉塊が落ちてきた落下音だ。
落下点にいた数名の兵が卵のように割れてつぶれる。
肉塊から伸びる触手が飛び散った兵の破片を掴み、肉塊の表面に空いた無数の穴に放り込む。
「なんだこれは?」
「奇怪な!」
「魔界の化生か!」
紅月隊の隊員がさっと集まり、肉塊を中心とした円状に取り囲む。
肉塊はその表面に生えた触手の先端を尖らせ、兵たちを突いてきた。
精鋭部隊である紅月隊の面々である。触手の攻撃を次々にいなしては切り落とした。しかし触手の数が勝る。
触手は兵たちの鎧の切れ目に刺さり、体組織を吸う。肉塊に近い兵から順々に倒れてゆく。
その様子にヴェアーが動いた。
「お前たちは下がれ、この物はおそらく先程の人外。こやつの相手は私が務める」
「隊長!」
「異界の地より出し不浄な者め、この鋼のヴェアーが引導を渡してくれん」
わっと歓声が上がる。
ヴェアーが大きく大剣を振りかぶる。
その瞬間、超高速で無数の触手がヴェアーを貫いた。全身を串刺しにされたヴェアーはその場に倒れ込む。
歓声が悲鳴に変わる。
「そんな……隊長がやられた!」
「この魔物め!」
「魔物 とは 心外 だな」
「魔物が喋った!」
そう叫んだ兵士の喉に触手が突き刺さる。
「我が名は 氷業神魔 ロスワの 国神」
「神魔」という言葉を聞いて大部分の兵が怯んだ。
ヌージィガでは敬虔な国神信仰者が大多数を占める。それは精鋭部隊である紅月隊の隊員たちにおいても同様だ。
神魔に逆らうことは、この世界の摂理に逆らうことに等しいと彼らは考えている。
「おうおう、神魔の名前を出した途端にこうなるわけだ」
この世界の住人ではないタケルにとって「神魔」とは、人間を支配する人外という認識しかない。
その存在に対する畏れの心はなかった。
「いいよ、お前たちはよくこの国を落としてくれた」
タケルは兵たちをねぎらった。そして神魔を睨みつけつつ、
「ここからは俺たちの仕事だ。なぁ?」
タケルはソウコウとアルデに目を向けた。二人は頷いた。
「神と王の戦いか。痺れるじゃねぇかよ」
タケルは魔剣をゆっくりと構えた。
タルフの喉に空いた穴から血液の泡が出入りする。彼の命はまさに消えようとしていた。
「タルフよ 情けない 我の力を 分けたというのに」
いつからそこにいたのか、氷業神魔が死にゆくタルフの枕元に立ち見下ろしている。
タルフは氷業神魔に手を伸ばそうとするが、腕はなく、肩が少し持ち上がるだけだった。
「死ぬのが 怖いか」
氷業神魔が問う。タルフはその問いに頷くように目を見開いた。
「ならば 我が力を 与えよう」
そう言うと、氷業神魔はタルフの肩を抱え、口を重ねた。氷業神魔の体が萎んでゆき、タルフの目に生気が戻る。傷口が塞がり、出血が止まった。
タルフの足元に、皮だけになった氷業神魔の体が転がる。タルフは床に口を寄せ、それを啜り飲んだ。
「これで一つだ。 そして失った身体を、作り直さねばならぬ」
タルフは残った右足で宙を蹴り上げる。空間が裂け、光が漏れる。その裂け目に右足を突っ込み、器用に人を取り出す。
取り出されたのはタルフの三人の娘カムュ、オキァ、リグゥだ。
「父上……そのお姿は……?」
娘たちは巨大化した父の姿に驚いている。
「娘たち……。氷業神魔よ、何を考えている?」
「タルフよ この者たちの 命を 啜るのだ」
「そのようなことは……むぅっ?」
タルフの皮膚から無数の触手が生え、どんどん娘たちの方に伸びてゆく。
「ひぃっ!」
娘たちは触手から逃れようとするが、すぐに部屋の隅に追いやられてしまった。
「カムュ姉さま……どうすれば……」
「これは……父上ではありません! 父上の姿を盗んだ不浄な者にクルト家の意地を見せるのです。」
「はい、姉さま」
「土系防壁魔法!」
長女のカムュが防壁魔法を発動する。地面から壁が突き出し触手の進行を妨げる。
すかさず次女のオキァが攻撃魔法を放つ。
「このような不潔な触手、焼き尽くしてしまいますわ! 強火炎魔法!」
オキァの攻撃魔法が触手の表面を焦がす。肉の焼ける匂いがあたりに広がる。
しかし、無数の触手は次々に娘たちに迫った。
最初に触手の餌食となったのは末妹のリグゥだった。
防壁の間から侵入してきた触手が足に絡みつく。
「お姉さま! 助けて!」
「今助けるわリグゥ! 強火炎魔法!」
次女オキァが攻撃魔法をリグゥの足元に放つ、しかし触手は捉えたリグゥを盾とする。リグゥに攻撃魔法は直撃した。
「ギィっ! お……お姉さ……ま……」
「リグゥ!」
触手はそのまま息も絶え絶えなリグゥを引きずる。やがてリグゥは触手の中に埋もれて見えなくなった。
「おのれ! よくもリグゥを! オキァ、ここはなんとか逃げるのです」
「はい姉さま」
「風系速度向上魔法 オキァ、この触手を飛び越えましょう」
カムュは自身とオキァに身体能力向上魔法をかけた。
超人的な身体能力を得た二人は、触手の上を跳び、この場を脱出しようと試みる。
「娘たち 逃しは しないぞ」
空中に跳ねた二人のちょうど着地点に触手が渦を巻いた。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「ね……姉さま!」
二人の娘は触手の渦に飲み込まれた。
「氷業神魔よ、やめてくれ。娘たちの命はどうか助けてやってくれ」
「安心しろ タルフ 娘は 生き続ける」
「……お前の 中でな」
◇
数分後、タルフの居た場所には巨大な肉塊が転がっていた。
その内部では父と娘によるおぞましい交わりが行われている。
娘たちの穴という穴に触手が入り込む。口腔はもちろんのこと、鼻腔、耳孔、肛門、膣、尿道、眼窩に至るまで。
触手の太さは様々で、棍棒のように太いものもあれば、糸のように細いものもある。それらが娘たちの穴を侵し、内部組織に根を張る。
触手はタルフの神経と結合されており、娘たちの粘膜が裂けてゆく感覚が触手を通じてタルフに伝わる。
「ひぎぃっ……んぎぃっ……」
タルフは長女カムュの居る位置にじわりと濡れる暖かな感触を感じた。失禁だろうか。それとも何らかの分泌液だろうか。他の娘たちのいた場所でも同様に暖かな感触が広がる。
粘膜を押し広げる感覚から、それが膣であることを感じる。姉妹でありながらもそれぞれ異なった感触を感じつつ、父親である己が娘の処女を奪っていることがタルフの心を引き裂く。
「おぉ……お……娘たち……」
タルフの魂の慟哭は声を成すも肉に埋もれ、誰にも届かない。
「ゆくぞ タルフ 反撃の 時だ」
タルフであった肉塊は塔の窓から飛び出した。
◇
一方、塔前に展開したヌージィガ本陣ではヴェアーが帰陣した。
「王様、申し訳ありません。降伏勧告は失敗しました」
「その様子じゃぁ戦闘になったか」
タケルは、ヴェアーが下ろしたリマの様子を見て言った。
「はい、ロスワ評議会幹部に降伏勧告を行ったところ、こちらの申し出を先方が拒否。戦闘となりました」
「なるほど、ところで彼女……お前の部隊の副長だったか。大丈夫なのか?」
瀕死のリマに対し、魔法部隊が回復を試みている。
「ここまで連れ戻りましたが、恐らく助からないでしょう」
ヴェアーは表情もなく静かに言った。もちろん、ヴェアーにとってリマの喪失は小さなものではないが、戦場にいる限り命を失うという可能性がある認識は常にしている。
「レイミ」
「はい」
タケルは横にいるレイミに声をかけた。レイミの能力であれば命を取り戻す可能性は大いにある。
「彼女の回復を頼めるか?」
「わかりました、お任せください」
レイミはすっと立つと、リマの側に寄りスカートをたくし上げ、腰を前に突き出した。
「……!」
ヴェアーが眉をひそめる。
レイミは周囲の視線にうつむきながら、耳まで赤く染めて、放尿した。
レイミの尿がリマの全身に降り注ぎ周囲にはアンモニア臭が漂う。
「王様、これは何を……?」
ヴェアーは戸惑いながらタケルに尋ねた。
「レイミの体液は万能の回復薬になるんだ、しばらくすりゃお前の副長も回復するだろうよ」
「なんと! 有難き御計らい、感謝いたします」
「で、状況について聞かせてくれ」
「はい。戦闘の結果、ロスワの評議会幹部はいずれも絶命、生存者はおりません」
「そうか」
「それと……」
「それと?」
「今回の戦い、人外の者が現れました。『議長』と呼ばれておりましたが、大きさが人のそれの数倍はありました」
「人外……」
タケルはソウコウ、アルデと目配せする。
「その人外についても倒しております」
「なるほど……ご苦労だった。下がっていいぜ」
「はい」
タケルは一つため息をついた。
「さて……、ロスワの意思決定は誰に聞きゃぁいいんだ……」
――王様。
「イシュファラか」
タケルの耳に直接イシュファラの声が響く。
――クローディア様が、ロスワの意思決定に関わる生き残りがどこにいるのかわからないならば、ロスワに関しては制圧したものとみなし、制圧軍による統治を行ってはどうかと。
「おう、そうだな。俺もそれがいいと思う」
タケルが全軍に対し勝利宣言を行おうとした、その時だった。
ズン!
地面に鈍い衝撃。
不吉な肉塊が落ちてきた落下音だ。
落下点にいた数名の兵が卵のように割れてつぶれる。
肉塊から伸びる触手が飛び散った兵の破片を掴み、肉塊の表面に空いた無数の穴に放り込む。
「なんだこれは?」
「奇怪な!」
「魔界の化生か!」
紅月隊の隊員がさっと集まり、肉塊を中心とした円状に取り囲む。
肉塊はその表面に生えた触手の先端を尖らせ、兵たちを突いてきた。
精鋭部隊である紅月隊の面々である。触手の攻撃を次々にいなしては切り落とした。しかし触手の数が勝る。
触手は兵たちの鎧の切れ目に刺さり、体組織を吸う。肉塊に近い兵から順々に倒れてゆく。
その様子にヴェアーが動いた。
「お前たちは下がれ、この物はおそらく先程の人外。こやつの相手は私が務める」
「隊長!」
「異界の地より出し不浄な者め、この鋼のヴェアーが引導を渡してくれん」
わっと歓声が上がる。
ヴェアーが大きく大剣を振りかぶる。
その瞬間、超高速で無数の触手がヴェアーを貫いた。全身を串刺しにされたヴェアーはその場に倒れ込む。
歓声が悲鳴に変わる。
「そんな……隊長がやられた!」
「この魔物め!」
「魔物 とは 心外 だな」
「魔物が喋った!」
そう叫んだ兵士の喉に触手が突き刺さる。
「我が名は 氷業神魔 ロスワの 国神」
「神魔」という言葉を聞いて大部分の兵が怯んだ。
ヌージィガでは敬虔な国神信仰者が大多数を占める。それは精鋭部隊である紅月隊の隊員たちにおいても同様だ。
神魔に逆らうことは、この世界の摂理に逆らうことに等しいと彼らは考えている。
「おうおう、神魔の名前を出した途端にこうなるわけだ」
この世界の住人ではないタケルにとって「神魔」とは、人間を支配する人外という認識しかない。
その存在に対する畏れの心はなかった。
「いいよ、お前たちはよくこの国を落としてくれた」
タケルは兵たちをねぎらった。そして神魔を睨みつけつつ、
「ここからは俺たちの仕事だ。なぁ?」
タケルはソウコウとアルデに目を向けた。二人は頷いた。
「神と王の戦いか。痺れるじゃねぇかよ」
タケルは魔剣をゆっくりと構えた。
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