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本編
第四十話 ちゃっちゃと頼むぜ
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魔法国家ロスワ首都西方にある砲台の町跡地。あちこちからまだ煙が昇っている。
町の中心にある塔の中層からタケルは集結する自軍勢を眺めている。
「おぉ、こりゃ壮観だなァ」
タケルは感心してつぶやいた。そのつぶやきにアルデが反応する。
「ざっと見て……フム。五万ちょいってところじゃのう」
アルデの目測が正しいかどうかもはやわからない。個々がうごめいていて、正確な人数など測れるわけもない。いずれにしても大人数だった。
「五万……結構な数だな」
「それも有象無象じゃねぇ。ヌージィガの精鋭部隊だ」
今度はソウコウが返事をした。その表情に「どうだ?」という自信のようなものをタケルは感じた。
「これで落とせねぇ敵はねぇってか」
タケルは十数キロ先だろうか、遠くに見える輝く塔に目をやった。
その塔はこれから落とす予定であるロスワの首都グジンの中央部だ。
「そういうことになるな。どうする? いつでも出れるぞ」
ソウコウは急かすわけでもなく尋ねる。
一瞬、一秒に満たないくらいの間でタケルは考える素振りをしたが、そもそも考え込むことで答えを出すタイプでもない。
タケルは自分の直感に従って決めた。
「日が暮れる前に攻め込もう。……そう、今からだ」
ソウコウは微笑むような表情を浮かべた。彼にとってこの答えはあまりにも想像通りだったからだ。
「イシュファラ、聞こえるか」
タケルは何もない空間に向かって話しかける。
――はい聞こえます。
何もない空間から声が返ってくる。音の主は九大将の一人「音術」の使い手イシュファラだ。
「各部隊に伝えろ、これより敵首都に攻め込むとな」
一瞬の間。おそらく遠くにある本陣でイシュファラはクローディアにタケルの命令の妥当性を確認しているようであった。
数十秒後にイシュファラは返事をした。
――王様、承知いたしました。これより各部隊に進軍命令を出しますね。
「おぅ、ちゃっちゃと頼むぜ」
◇
タケルが塔を降りはじめ、アルデもそれに続こうとしたところをソウコウが止めた。
「アルデ」
「……ん? 何じゃ?」
アルデは首を傾げて尋ねた。
「お前……この世界の者じゃねぇな?」
その言葉を聞いた途端、アルデの目は見開かれた。が、すぐにいつもの悪戯な微笑みに戻る。
ソウコウはアルデの目を見ていたが、その口から期待通りの返事が返ってくるはずはないと悟り、その場を去った。
後にはアルデとレイミだけが残った。
「さて、妾たちも行くかの」
「あの、アルデさん。……この世界の者じゃないって、もしかして……」
レイミが尋ねる。
「なんの話かさっぱりじゃな。さぁ、行こうぞ」
アルデはレイミの手を引き、タケルとソウコウを追った。
◇
同日、昼過ぎ。
ヌージィガ軍はロスワ方面に展開している全部隊をもって、ロスワ首都グジンに攻め込んだ。
上空から見ると、さながら蟻の群れが芋虫を襲うかのような形になる。
「攻撃する者だけを狙え、無抵抗な者には手を出すな」
「火は使うな、物理攻撃主体で攻めるのだ」
各部隊長の声が戦場に響く。
ロスワ側は戦闘の役割についていない民衆は一切抵抗しない。
ヌージィガ軍にとっては進軍しやすくはあったが、自国存亡の危機に一切関心のない民衆というのは不気味に感じられた。
その不気味さの正体はこの国の体制にあった。
ロスワはすべての国民に役割が定められており、役割外の行動は厳しく制限されている。そのため、兵士以外の者には戦闘行為は許されてはいないのだ。また、兵士においてもその行動理念は自国への忠誠心ではなく、あくまでも役割ということになる。
もっとも、「役割」として与えられた指名については逆らうことはできず、自らの命よりもその役割は優先されるものであった。
傍観するだけの民衆と、命尽きるまで戦闘をやめない兵士のコントラストがこの国の制度整備の徹底と、独特の不気味さを醸し出していた。
とはいえ、ヌージィガ軍の攻め手は精鋭部隊「紅月隊」だ。一抹の不気味さを感じながらも、確実に敵を仕留めてゆき、ほとんど自軍の被害を出すことなく戦場を制圧していった。
◇
攻略開始から約二時間ほど経った頃には、グジンの敵部隊はほぼ無力化。残るはロスワ中央評議会の籠もる白亜の中央塔の攻略のみとなっていた。
「ここに敵の首脳部が籠ってるってわけだな」
タケルが塔を見上げる。
塔の高さは八〇〇メートルはあろうか。少しクリームがかった白い艶のある素材で作られており、先端に向かってカーブがかかっている。まるで三日月が地面に刺さっているかのようだ。
「よし、いっちょ敵を降伏させてくるか」
塔に向かおうとするタケルをソウコウが止めた。
「待てよ、アンタは王だ。何かあってもいけない。ここは代理を遣わすべきだ」
「おぉ、そりゃそうか」
タケルはつい自分で動こうとしてしまう。
ソウコウはこのままでは若い王の命は恐らくそう長くはないだろうと感じた。
◇
タケル達の前に集結した紅月隊の幹部たちは命令を待っている。
「敵に降伏勧告をする。大使はだれがいい?」
タケルは宙に聞いた。やがて直接耳に返事が返ってくる。声の主はイシュファラだ。
――ここは七番隊隊長のヴェアーに行かせましょう。
「七番隊隊長のヴェアーって誰だ?」
長身の男が一歩前に出た。
真一文字の口元に吊り上がった眉、細く鋭い目つきをしている。
「私がヴェアーです」
「ヴェアー、よろしくな。話は簡単だ。この塔の上にいるであろう連中に降伏勧告をしてきてほしい」
「了解しました」
そう言うとヴェアーは後ろにいる女に目配せした。
「当隊副長のリマを同伴させてもよろしいですか」
「もちろん。一人は危ねぇしな。頼んだぜ」
◇
グジン中央の巨塔最上階、ロスワ中央評議会議場では、今まさに攻めてこようとしているヌージィガ軍への対応が議論されている。
「打って出るか、待ち受けるか……いずれにしても魔砲台を陥落させるほどの敵を抑える力はこの街にはない」
「降伏すると言う手もある」
「この街の人口は敵軍に量で勝る。なれば民を敵に立ち向かわせれば良い」
「敵は少数精鋭、こちらも中央守備兵団で対抗すればあるいは勝機が在るのではないか」
活発に意見は出るが、その意見を取りまとめる者がおらず、時間だけが過ぎてゆく。
やがて重い木でできた議会場の扉が開き、ヴェアーとリマが入ってきた。
「ヌージィガ王の代理の者だ。この中の代表者は誰だ」
ヴェアーは落ち着いた声で幹部たちに尋ねた。しかし幹部たちは互いに目を合わすばかりでヴェアーの問に答えられない。最高権限を持っている議長タルフが不在のため、重要な決定を下す事ができる者はいないのだ。
「も……申し訳ない、今、ここに議長はおらんのだ」
一人の幹部がそう答えた。ヴェアーは表情を変えず質問を変えた。
「ならば、お主らでよい。この戦、我々ヌージィガに利があることは明白。ここで降伏するか否か選ばれよ」
「わかった……少し時間をくれんか」
そう言うと幹部たちはその場で相談を始めた。
この状況において答えは無条件降伏しかない。幹部たちはそれを再度確認し合った。誰一人として認識の違いはない。
少しの相談の後、先程の幹部が問に答えた。
「降伏しよう」
「うむ、順当だ。ならば……」
ヴェアーがこの後の流れを話そうとしたその時だった。
「その必要はない!」
大きな声が響く。声は塔の外、何もあるはずのない空中から聞こえた。一同が声の方向に目をやる。
塔の最上階に空いた大きな窓の外、空中に裸の男が浮いていた。
白く長い髭をたくわえた長身の男。ロスワ中央評議会の議長、タルフだ。
「タ……タルフ議長!」
そう叫んだ幹部は直後、タルフの姿に違和感を覚えた。
「ちょっと待て……あれは本当に議長か……?」
議長と呼ばれたその男は、明らかに人ではなかった。大きいのだ。
プロポーションこそ人のそれではあったが、背は議会場の天井ほど、高さだけでも人間の五倍はある。
握りこぶし大の眼球が左右非同期に動き、そこにいる者たちを見回す。
「皆よ降伏の必要はない。私は神より力を授かった」
そう言うとタルフは魔法の詠唱を始めた。その声は多重に異なる呪文を詠う。
「隊長……あの者、複数の呪文を同時に使用しております」
「うむ。注意せよリマ。あの詠唱は火魔法と風魔法だ」
タルフは窓の外の空中にいるため、ヴェアーとリマは弓を番え放った。
同時にタルフは魔法を発動する。
「火炎竜巻魔法」
炎を伴う竜巻が矢の軌道上に発生。矢は瞬時に燃え尽きた。
火炎竜巻は窓から議会場に移動、絨毯を燃やし、周囲のものを吸い込みながらヴェアーとリマに襲いかかる。
燃えた絨毯は風に絡まり、ヴェアーとリマを包んだ。
激しい炎の柱が二人の立っていた位置に渦を巻く。
燃える敵将を見ながら、恐れに満ちた表情で幹部の一人が言った。
「タルフ様、魔法を多重に……?」
少し高揚したような声でタルフは答えた。
「多重詠唱……能力を用いるのは卑しい行為なのだがな……この状況では仕方がなかろう?ンン?」
「は……はい、そのとおりです」
タルフは幹部の返事に満足そうに頷くと、命令を発した。
「ヌージィガ軍に対し、これより残存兵力で攻撃を加ェる」
「しかし、議長……」
反論しようとした幹部の一人に向かってタルフは手をかざした。
手の平から鋭い氷の刃が放たれ、議員の額を貫通する。
「これは決定事項だ。すぐ行動に移せィ」
町の中心にある塔の中層からタケルは集結する自軍勢を眺めている。
「おぉ、こりゃ壮観だなァ」
タケルは感心してつぶやいた。そのつぶやきにアルデが反応する。
「ざっと見て……フム。五万ちょいってところじゃのう」
アルデの目測が正しいかどうかもはやわからない。個々がうごめいていて、正確な人数など測れるわけもない。いずれにしても大人数だった。
「五万……結構な数だな」
「それも有象無象じゃねぇ。ヌージィガの精鋭部隊だ」
今度はソウコウが返事をした。その表情に「どうだ?」という自信のようなものをタケルは感じた。
「これで落とせねぇ敵はねぇってか」
タケルは十数キロ先だろうか、遠くに見える輝く塔に目をやった。
その塔はこれから落とす予定であるロスワの首都グジンの中央部だ。
「そういうことになるな。どうする? いつでも出れるぞ」
ソウコウは急かすわけでもなく尋ねる。
一瞬、一秒に満たないくらいの間でタケルは考える素振りをしたが、そもそも考え込むことで答えを出すタイプでもない。
タケルは自分の直感に従って決めた。
「日が暮れる前に攻め込もう。……そう、今からだ」
ソウコウは微笑むような表情を浮かべた。彼にとってこの答えはあまりにも想像通りだったからだ。
「イシュファラ、聞こえるか」
タケルは何もない空間に向かって話しかける。
――はい聞こえます。
何もない空間から声が返ってくる。音の主は九大将の一人「音術」の使い手イシュファラだ。
「各部隊に伝えろ、これより敵首都に攻め込むとな」
一瞬の間。おそらく遠くにある本陣でイシュファラはクローディアにタケルの命令の妥当性を確認しているようであった。
数十秒後にイシュファラは返事をした。
――王様、承知いたしました。これより各部隊に進軍命令を出しますね。
「おぅ、ちゃっちゃと頼むぜ」
◇
タケルが塔を降りはじめ、アルデもそれに続こうとしたところをソウコウが止めた。
「アルデ」
「……ん? 何じゃ?」
アルデは首を傾げて尋ねた。
「お前……この世界の者じゃねぇな?」
その言葉を聞いた途端、アルデの目は見開かれた。が、すぐにいつもの悪戯な微笑みに戻る。
ソウコウはアルデの目を見ていたが、その口から期待通りの返事が返ってくるはずはないと悟り、その場を去った。
後にはアルデとレイミだけが残った。
「さて、妾たちも行くかの」
「あの、アルデさん。……この世界の者じゃないって、もしかして……」
レイミが尋ねる。
「なんの話かさっぱりじゃな。さぁ、行こうぞ」
アルデはレイミの手を引き、タケルとソウコウを追った。
◇
同日、昼過ぎ。
ヌージィガ軍はロスワ方面に展開している全部隊をもって、ロスワ首都グジンに攻め込んだ。
上空から見ると、さながら蟻の群れが芋虫を襲うかのような形になる。
「攻撃する者だけを狙え、無抵抗な者には手を出すな」
「火は使うな、物理攻撃主体で攻めるのだ」
各部隊長の声が戦場に響く。
ロスワ側は戦闘の役割についていない民衆は一切抵抗しない。
ヌージィガ軍にとっては進軍しやすくはあったが、自国存亡の危機に一切関心のない民衆というのは不気味に感じられた。
その不気味さの正体はこの国の体制にあった。
ロスワはすべての国民に役割が定められており、役割外の行動は厳しく制限されている。そのため、兵士以外の者には戦闘行為は許されてはいないのだ。また、兵士においてもその行動理念は自国への忠誠心ではなく、あくまでも役割ということになる。
もっとも、「役割」として与えられた指名については逆らうことはできず、自らの命よりもその役割は優先されるものであった。
傍観するだけの民衆と、命尽きるまで戦闘をやめない兵士のコントラストがこの国の制度整備の徹底と、独特の不気味さを醸し出していた。
とはいえ、ヌージィガ軍の攻め手は精鋭部隊「紅月隊」だ。一抹の不気味さを感じながらも、確実に敵を仕留めてゆき、ほとんど自軍の被害を出すことなく戦場を制圧していった。
◇
攻略開始から約二時間ほど経った頃には、グジンの敵部隊はほぼ無力化。残るはロスワ中央評議会の籠もる白亜の中央塔の攻略のみとなっていた。
「ここに敵の首脳部が籠ってるってわけだな」
タケルが塔を見上げる。
塔の高さは八〇〇メートルはあろうか。少しクリームがかった白い艶のある素材で作られており、先端に向かってカーブがかかっている。まるで三日月が地面に刺さっているかのようだ。
「よし、いっちょ敵を降伏させてくるか」
塔に向かおうとするタケルをソウコウが止めた。
「待てよ、アンタは王だ。何かあってもいけない。ここは代理を遣わすべきだ」
「おぉ、そりゃそうか」
タケルはつい自分で動こうとしてしまう。
ソウコウはこのままでは若い王の命は恐らくそう長くはないだろうと感じた。
◇
タケル達の前に集結した紅月隊の幹部たちは命令を待っている。
「敵に降伏勧告をする。大使はだれがいい?」
タケルは宙に聞いた。やがて直接耳に返事が返ってくる。声の主はイシュファラだ。
――ここは七番隊隊長のヴェアーに行かせましょう。
「七番隊隊長のヴェアーって誰だ?」
長身の男が一歩前に出た。
真一文字の口元に吊り上がった眉、細く鋭い目つきをしている。
「私がヴェアーです」
「ヴェアー、よろしくな。話は簡単だ。この塔の上にいるであろう連中に降伏勧告をしてきてほしい」
「了解しました」
そう言うとヴェアーは後ろにいる女に目配せした。
「当隊副長のリマを同伴させてもよろしいですか」
「もちろん。一人は危ねぇしな。頼んだぜ」
◇
グジン中央の巨塔最上階、ロスワ中央評議会議場では、今まさに攻めてこようとしているヌージィガ軍への対応が議論されている。
「打って出るか、待ち受けるか……いずれにしても魔砲台を陥落させるほどの敵を抑える力はこの街にはない」
「降伏すると言う手もある」
「この街の人口は敵軍に量で勝る。なれば民を敵に立ち向かわせれば良い」
「敵は少数精鋭、こちらも中央守備兵団で対抗すればあるいは勝機が在るのではないか」
活発に意見は出るが、その意見を取りまとめる者がおらず、時間だけが過ぎてゆく。
やがて重い木でできた議会場の扉が開き、ヴェアーとリマが入ってきた。
「ヌージィガ王の代理の者だ。この中の代表者は誰だ」
ヴェアーは落ち着いた声で幹部たちに尋ねた。しかし幹部たちは互いに目を合わすばかりでヴェアーの問に答えられない。最高権限を持っている議長タルフが不在のため、重要な決定を下す事ができる者はいないのだ。
「も……申し訳ない、今、ここに議長はおらんのだ」
一人の幹部がそう答えた。ヴェアーは表情を変えず質問を変えた。
「ならば、お主らでよい。この戦、我々ヌージィガに利があることは明白。ここで降伏するか否か選ばれよ」
「わかった……少し時間をくれんか」
そう言うと幹部たちはその場で相談を始めた。
この状況において答えは無条件降伏しかない。幹部たちはそれを再度確認し合った。誰一人として認識の違いはない。
少しの相談の後、先程の幹部が問に答えた。
「降伏しよう」
「うむ、順当だ。ならば……」
ヴェアーがこの後の流れを話そうとしたその時だった。
「その必要はない!」
大きな声が響く。声は塔の外、何もあるはずのない空中から聞こえた。一同が声の方向に目をやる。
塔の最上階に空いた大きな窓の外、空中に裸の男が浮いていた。
白く長い髭をたくわえた長身の男。ロスワ中央評議会の議長、タルフだ。
「タ……タルフ議長!」
そう叫んだ幹部は直後、タルフの姿に違和感を覚えた。
「ちょっと待て……あれは本当に議長か……?」
議長と呼ばれたその男は、明らかに人ではなかった。大きいのだ。
プロポーションこそ人のそれではあったが、背は議会場の天井ほど、高さだけでも人間の五倍はある。
握りこぶし大の眼球が左右非同期に動き、そこにいる者たちを見回す。
「皆よ降伏の必要はない。私は神より力を授かった」
そう言うとタルフは魔法の詠唱を始めた。その声は多重に異なる呪文を詠う。
「隊長……あの者、複数の呪文を同時に使用しております」
「うむ。注意せよリマ。あの詠唱は火魔法と風魔法だ」
タルフは窓の外の空中にいるため、ヴェアーとリマは弓を番え放った。
同時にタルフは魔法を発動する。
「火炎竜巻魔法」
炎を伴う竜巻が矢の軌道上に発生。矢は瞬時に燃え尽きた。
火炎竜巻は窓から議会場に移動、絨毯を燃やし、周囲のものを吸い込みながらヴェアーとリマに襲いかかる。
燃えた絨毯は風に絡まり、ヴェアーとリマを包んだ。
激しい炎の柱が二人の立っていた位置に渦を巻く。
燃える敵将を見ながら、恐れに満ちた表情で幹部の一人が言った。
「タルフ様、魔法を多重に……?」
少し高揚したような声でタルフは答えた。
「多重詠唱……能力を用いるのは卑しい行為なのだがな……この状況では仕方がなかろう?ンン?」
「は……はい、そのとおりです」
タルフは幹部の返事に満足そうに頷くと、命令を発した。
「ヌージィガ軍に対し、これより残存兵力で攻撃を加ェる」
「しかし、議長……」
反論しようとした幹部の一人に向かってタルフは手をかざした。
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