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懺悔録2 ゴルデルゼの独白
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ーーどうして、こんな事になってしまったのだろう?
わかっている。わたくしが悪い。
“バッドエンドらしくしよう”などと、軽い気持ちであんなエンディングを差し込んだから……。
いや、そもそも、あれをキャロラインに見せる予定はなかったのだが。
ならば、彼女の力を見誤り、魂の器に選んだのが悪かったのだろうか。
……今度こその、召喚だったのに。
一人目は、神が直接協力を求めた。
結果は、最悪だった。
世界が何度も滅びる光景を共有して、幼い魂は恐怖に狂い、肝心の生命力まで枯渇させてしまった。
二人目は、託宣者から助けを求めた。
魂は快く応えてくれたが、文化の違いからこの世界に馴染めず、あっという間に命を落とした。
神はすぐさまその魂を喚び戻し、託宣者は今度は、彼女の存在とその意義を、広く知らしめた。
最初はうまくいったかのように見えた。
彼女は国を挙げて護られ、世界を救う聖女ともてはやされた。
しかし、いつしか彼女は増長し、気に入らない人間の命を求めるところまで堕ちていた。
神は“魂を蘇らせる為”と許容したが、人間はそれを許せず……一人の騎士が、彼女を誅殺した。
神はそれをまだ別の器に入れようとしたが、彼女の魂は既に老い、使い物にならなくなっていた。
三人目は、託宣者が庇護した。
無意味だった。
若い世界の魂の急速な老化の原因が、託宣者の悪影響にあるとわかっただけだった。
わたくしは、いっそ赤子の魂を召喚し、こちらで一から育てたらどうかと提案した。
だが、“合意のない召喚”は、あちらの神が許さなかった。
それでも召喚自体が容認されているのは、異世界転生を夢見る少年少女が後を絶たないかららしいーー。
だからわたくしは、この世界を舞台にしたゲームを作る事にした。
若い世界の魂は、ただこの世界で健やかに過ごし、活力を振り撒いてくれればそれでいいのだ。
何を成す必要もない。ただ楽しく幸せに、長生きしてくれればいい。
こちらの窮状を訴える必要など、なかったのだ。
ーー大好きなゲームそっくりの世界に転生して、幸せに生きるーー。
そういう風にお膳立てしてあげれば、うまくいくように思えた。
バトル要素はいらないから、日常と恋愛だけの乙女ゲームにした。
託宣者と関わらないよう、わたくしを悪役令嬢にして、現実でも王太子と仮初に婚約した。
ヒドイン化を防ぐため、ハーレムエンドは作らなかった。まじめに勉強する事で好感度を得られる仕組みにもした。
ゲームと現実を同一視されないよう、明確な差異のある平行世界をルートに設定したし、現実では悪役演技などせず、初手からキャロラインを避けた。
最善を尽くした、つもりだった。
それなのに、まさか。
器に選んだ娘が、自分の不幸を作られたものだと思い込み、男を落とさなければ母の命が奪われると解釈して、娼婦の真似事をしようとするだなんて!
勤勉さで好感度が上がる仕組みにしたのに、どうして……?
せめてゲーム通りに攻略しようと勉強に打ち込んでくれればまだ救いはあったのに、手管もないのに男に言い寄って、キャロラインは爪弾きにされてしまった。
挙句にわたくしを転生者と誤認。陥れようとして失敗し、逆恨みから凶行に及んだ。
『あれは世界を救う存在だから、わたくしが責任をもつ』
そんな言葉で庇える状況ではなくなってしまった。
どこまでも愚かで可哀想な、キャロライン。
だが……一番滑稽だったのは、わたくしだろう。そんな彼女を、異世界からきた魂だと信じ込んでいたのだから。
神が罰を命じてきた時点で、気付くべきだった。
社会を乱しただの、人を傷付けただの……そんな事で神が人間を罰する事などない。
神はただ嘆くだけ。
人の罪を裁くのは、人だ。
『あの子にこの世界の魂を蘇らせる力はありません。もうこの世界に現れないよう、烙印を。あなたが罰を告げなさい』
……知っていたのだ。神は。
キャロラインが、この世界のキャロラインである事も。
彼女が、召喚した魂を追い出した事も。
だから、放逐という罰を下した。
神がこの世界の為に召喚した魂を退けたという、罪で。
ーー神に対して、世界に対して犯された、罪。
そんなもの、どう申し開きしてやればいい?
わたくしの勘違い。わたくしの失敗の犠牲者ーーそんな事実、何にもならない。
いや。たとえ申し開きができたとしても、手遅れだ。わたくしは既に、あり得ないほど近くで、あり得ないほど長く会話をし、神から得た太古の記憶まで語ってしまった。
烙印は既に捺された。
キャロラインの魂は、もう生まれ変われない。今やわたくしと同じ、燃え尽きるだけの魂になってしまったのだ。
わたくしが言った事だ。今更、もう、何も、どうにもならない。
「……ごめんなさい」
せめて、もう二度とこのような事は起こさないと、誓ってあげられたらよかったのに。
どれだけ失敗しようが、どれだけ犠牲者が出ようが、わたくしはやめる訳にはいかない。
早く魂を蘇らせなければーー神が人間を見限ってしまう。
既に人間は何度も何度も何度も、神を失望させてきた。今度神が世界を滅ぼしたら、新たな世界に、人間の姿はないだろう。
次の召喚こそ、成功させなければ。
…………だけど、どうやって?
ああ、どうしよう。どうすればいい?
早く。早く。早くしなければ。
……神が見ている。
わかっている。わたくしが悪い。
“バッドエンドらしくしよう”などと、軽い気持ちであんなエンディングを差し込んだから……。
いや、そもそも、あれをキャロラインに見せる予定はなかったのだが。
ならば、彼女の力を見誤り、魂の器に選んだのが悪かったのだろうか。
……今度こその、召喚だったのに。
一人目は、神が直接協力を求めた。
結果は、最悪だった。
世界が何度も滅びる光景を共有して、幼い魂は恐怖に狂い、肝心の生命力まで枯渇させてしまった。
二人目は、託宣者から助けを求めた。
魂は快く応えてくれたが、文化の違いからこの世界に馴染めず、あっという間に命を落とした。
神はすぐさまその魂を喚び戻し、託宣者は今度は、彼女の存在とその意義を、広く知らしめた。
最初はうまくいったかのように見えた。
彼女は国を挙げて護られ、世界を救う聖女ともてはやされた。
しかし、いつしか彼女は増長し、気に入らない人間の命を求めるところまで堕ちていた。
神は“魂を蘇らせる為”と許容したが、人間はそれを許せず……一人の騎士が、彼女を誅殺した。
神はそれをまだ別の器に入れようとしたが、彼女の魂は既に老い、使い物にならなくなっていた。
三人目は、託宣者が庇護した。
無意味だった。
若い世界の魂の急速な老化の原因が、託宣者の悪影響にあるとわかっただけだった。
わたくしは、いっそ赤子の魂を召喚し、こちらで一から育てたらどうかと提案した。
だが、“合意のない召喚”は、あちらの神が許さなかった。
それでも召喚自体が容認されているのは、異世界転生を夢見る少年少女が後を絶たないかららしいーー。
だからわたくしは、この世界を舞台にしたゲームを作る事にした。
若い世界の魂は、ただこの世界で健やかに過ごし、活力を振り撒いてくれればそれでいいのだ。
何を成す必要もない。ただ楽しく幸せに、長生きしてくれればいい。
こちらの窮状を訴える必要など、なかったのだ。
ーー大好きなゲームそっくりの世界に転生して、幸せに生きるーー。
そういう風にお膳立てしてあげれば、うまくいくように思えた。
バトル要素はいらないから、日常と恋愛だけの乙女ゲームにした。
託宣者と関わらないよう、わたくしを悪役令嬢にして、現実でも王太子と仮初に婚約した。
ヒドイン化を防ぐため、ハーレムエンドは作らなかった。まじめに勉強する事で好感度を得られる仕組みにもした。
ゲームと現実を同一視されないよう、明確な差異のある平行世界をルートに設定したし、現実では悪役演技などせず、初手からキャロラインを避けた。
最善を尽くした、つもりだった。
それなのに、まさか。
器に選んだ娘が、自分の不幸を作られたものだと思い込み、男を落とさなければ母の命が奪われると解釈して、娼婦の真似事をしようとするだなんて!
勤勉さで好感度が上がる仕組みにしたのに、どうして……?
せめてゲーム通りに攻略しようと勉強に打ち込んでくれればまだ救いはあったのに、手管もないのに男に言い寄って、キャロラインは爪弾きにされてしまった。
挙句にわたくしを転生者と誤認。陥れようとして失敗し、逆恨みから凶行に及んだ。
『あれは世界を救う存在だから、わたくしが責任をもつ』
そんな言葉で庇える状況ではなくなってしまった。
どこまでも愚かで可哀想な、キャロライン。
だが……一番滑稽だったのは、わたくしだろう。そんな彼女を、異世界からきた魂だと信じ込んでいたのだから。
神が罰を命じてきた時点で、気付くべきだった。
社会を乱しただの、人を傷付けただの……そんな事で神が人間を罰する事などない。
神はただ嘆くだけ。
人の罪を裁くのは、人だ。
『あの子にこの世界の魂を蘇らせる力はありません。もうこの世界に現れないよう、烙印を。あなたが罰を告げなさい』
……知っていたのだ。神は。
キャロラインが、この世界のキャロラインである事も。
彼女が、召喚した魂を追い出した事も。
だから、放逐という罰を下した。
神がこの世界の為に召喚した魂を退けたという、罪で。
ーー神に対して、世界に対して犯された、罪。
そんなもの、どう申し開きしてやればいい?
わたくしの勘違い。わたくしの失敗の犠牲者ーーそんな事実、何にもならない。
いや。たとえ申し開きができたとしても、手遅れだ。わたくしは既に、あり得ないほど近くで、あり得ないほど長く会話をし、神から得た太古の記憶まで語ってしまった。
烙印は既に捺された。
キャロラインの魂は、もう生まれ変われない。今やわたくしと同じ、燃え尽きるだけの魂になってしまったのだ。
わたくしが言った事だ。今更、もう、何も、どうにもならない。
「……ごめんなさい」
せめて、もう二度とこのような事は起こさないと、誓ってあげられたらよかったのに。
どれだけ失敗しようが、どれだけ犠牲者が出ようが、わたくしはやめる訳にはいかない。
早く魂を蘇らせなければーー神が人間を見限ってしまう。
既に人間は何度も何度も何度も、神を失望させてきた。今度神が世界を滅ぼしたら、新たな世界に、人間の姿はないだろう。
次の召喚こそ、成功させなければ。
…………だけど、どうやって?
ああ、どうしよう。どうすればいい?
早く。早く。早くしなければ。
……神が見ている。
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