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一話 牢の中のヒロイン
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ーー松明の光に、黒い影法師が壁に踊る。
カビた臭いのする湿った地下牢に、女のすすり泣きがこだましていたーー。
まるっきりホラーの舞台だが、泣いているのは幽霊ではない。牢の中でうずくまっている、ピンクの髪の少女……まだ生きている、人間だ。
「ーーまったく。好き勝手してくれたものね?」
靴音高く牢の前に現れたのは、場違いはなはだしい、黄金の縦ロールにドレス姿の、紛う事なき貴族の令嬢。
「あんた……」
顔を上げたピンク髪の少女が、怨嗟のこもった声で唸った。
容貌それ自体はとんでもなく可愛らしいが、表情は般若のそれである。
「何しに来たの?」
「ご挨拶ね。恨み言を言いたいのは、こちらの方でしてよ」
「はあ!?」
縦ロール令嬢の蔑みの眼差しに、ピンク髪の少女は、飛び上がって鉄格子に掴みかかる。
「誰の所為で、あたしがこんな事になってると思ってんのよ!?人でなし!!」
「自業自得でしょう?王太子の婚約者でもある公爵令嬢に対して、罪の捏造、侮辱、逆上した挙げ句の殺人未遂……全部、実際にあなたがした事じゃない」
「あんたがちゃんと“悪役令嬢”しないからでしょう!!!」
話の通じない少女に、顔をそむけた令嬢が溜息をつく。
「大体!そっちはどうでもいいでしょ!?スパイとか国家反逆罪って、それで処刑って、どういう事よ!!あたし、そんなの知らない!」
噛み付くように叫ぶ少女は怒りの形相だが……よく見れば顔は青褪め、鉄格子を握る手が震えている。
それに気付いて、令嬢は少女に憐れみの視線を向けた。
「あなたが言った事でしょう?この国の次期首脳陣を、“攻略”するつもりだったって。そんな不穏当な発言をして、目を瞑ってもらえると思っているの?」
「あたしはヒロインよ!?攻略対象を攻略して、何がいけないのよ!?」
「……まさか知らないの?“攻略”っていうのはね、“攻め落とす”という意味なのよ。王太子や次期宰相に色仕掛で迫る女がそんな事を言えば、国の乗っ取りを企んでいると思われて当然でしょう?」
「……え」
「だから、あなたは次期首脳陣をハニートラップで“攻略”しようとしていたスパイ。国の乗っ取りを企んだ男爵家は、国家反逆罪。あなたはその家の娘にして実行犯だから、処刑。ーーおわかり?」
ぽかんと立ち尽くしていた少女の額に、じわじわと冷汗が滲んでくる。
「しっ、知らない知らない!!あたしそんなの知らない!あたしはただ、攻略対象に好きになってもらうのが“攻略”だと思って……!!」
「お馬鹿さん。乙女ゲームの存在しない世界で、そんな言い訳が通じると思つて?」
必死の弁解を切り捨てられ、その場に崩れ落ちる少女。
頭を抱えたところで、ハッとして顔を上げた。
「“乙女ゲーム”……?あんた!!やっぱり転生者だったのね!?」
少女が憎悪もあらわに睨み付けるが、令嬢は、見下しきった瞳で堂々と受ける。
「いいえ、わたくしは転生者じゃあないわ」
「嘘!!あんたがシナリオを目茶苦茶にしたんでしょう!?許せない!あんたは断罪されたって、修道院に行かされるだけのくせに!!あたしがバッドエンドになったら、お母さんが死んじゃうのよ!?この人殺し!人殺し!人殺し!人殺し!!!」
半狂乱で喚く少女に、心底呆れ返った様子で、令嬢が嘆息した。
「今更、“お母さん”?よく言うわね。男漁りに熱中してお見舞いにも行かなくなっていたのは、誰だったかしら?」
「そ、それは……!だって……」
うつむいて唇を噛み締めた少女は、しかしまた、令嬢を恨めしげに睨む。
「なんで、あんたがそこまで知ってんのよ……」
「ああ、そうね。忘れるところだったわ」
急ににこりと笑う令嬢に、少女は思わず後ろに躙る。
「わたくしあなたに、種明かしをして差し上げに参りましたの」
ぱちん、と、松明がはぜる。
「種明かし……?」
「ええ。乙女ゲームと、転生について」
一瞬大きくなった炎に黄金の髪をきらめかせながら、縦ロールの令嬢は妖艶な微笑を浮かべた。
カビた臭いのする湿った地下牢に、女のすすり泣きがこだましていたーー。
まるっきりホラーの舞台だが、泣いているのは幽霊ではない。牢の中でうずくまっている、ピンクの髪の少女……まだ生きている、人間だ。
「ーーまったく。好き勝手してくれたものね?」
靴音高く牢の前に現れたのは、場違いはなはだしい、黄金の縦ロールにドレス姿の、紛う事なき貴族の令嬢。
「あんた……」
顔を上げたピンク髪の少女が、怨嗟のこもった声で唸った。
容貌それ自体はとんでもなく可愛らしいが、表情は般若のそれである。
「何しに来たの?」
「ご挨拶ね。恨み言を言いたいのは、こちらの方でしてよ」
「はあ!?」
縦ロール令嬢の蔑みの眼差しに、ピンク髪の少女は、飛び上がって鉄格子に掴みかかる。
「誰の所為で、あたしがこんな事になってると思ってんのよ!?人でなし!!」
「自業自得でしょう?王太子の婚約者でもある公爵令嬢に対して、罪の捏造、侮辱、逆上した挙げ句の殺人未遂……全部、実際にあなたがした事じゃない」
「あんたがちゃんと“悪役令嬢”しないからでしょう!!!」
話の通じない少女に、顔をそむけた令嬢が溜息をつく。
「大体!そっちはどうでもいいでしょ!?スパイとか国家反逆罪って、それで処刑って、どういう事よ!!あたし、そんなの知らない!」
噛み付くように叫ぶ少女は怒りの形相だが……よく見れば顔は青褪め、鉄格子を握る手が震えている。
それに気付いて、令嬢は少女に憐れみの視線を向けた。
「あなたが言った事でしょう?この国の次期首脳陣を、“攻略”するつもりだったって。そんな不穏当な発言をして、目を瞑ってもらえると思っているの?」
「あたしはヒロインよ!?攻略対象を攻略して、何がいけないのよ!?」
「……まさか知らないの?“攻略”っていうのはね、“攻め落とす”という意味なのよ。王太子や次期宰相に色仕掛で迫る女がそんな事を言えば、国の乗っ取りを企んでいると思われて当然でしょう?」
「……え」
「だから、あなたは次期首脳陣をハニートラップで“攻略”しようとしていたスパイ。国の乗っ取りを企んだ男爵家は、国家反逆罪。あなたはその家の娘にして実行犯だから、処刑。ーーおわかり?」
ぽかんと立ち尽くしていた少女の額に、じわじわと冷汗が滲んでくる。
「しっ、知らない知らない!!あたしそんなの知らない!あたしはただ、攻略対象に好きになってもらうのが“攻略”だと思って……!!」
「お馬鹿さん。乙女ゲームの存在しない世界で、そんな言い訳が通じると思つて?」
必死の弁解を切り捨てられ、その場に崩れ落ちる少女。
頭を抱えたところで、ハッとして顔を上げた。
「“乙女ゲーム”……?あんた!!やっぱり転生者だったのね!?」
少女が憎悪もあらわに睨み付けるが、令嬢は、見下しきった瞳で堂々と受ける。
「いいえ、わたくしは転生者じゃあないわ」
「嘘!!あんたがシナリオを目茶苦茶にしたんでしょう!?許せない!あんたは断罪されたって、修道院に行かされるだけのくせに!!あたしがバッドエンドになったら、お母さんが死んじゃうのよ!?この人殺し!人殺し!人殺し!人殺し!!!」
半狂乱で喚く少女に、心底呆れ返った様子で、令嬢が嘆息した。
「今更、“お母さん”?よく言うわね。男漁りに熱中してお見舞いにも行かなくなっていたのは、誰だったかしら?」
「そ、それは……!だって……」
うつむいて唇を噛み締めた少女は、しかしまた、令嬢を恨めしげに睨む。
「なんで、あんたがそこまで知ってんのよ……」
「ああ、そうね。忘れるところだったわ」
急ににこりと笑う令嬢に、少女は思わず後ろに躙る。
「わたくしあなたに、種明かしをして差し上げに参りましたの」
ぱちん、と、松明がはぜる。
「種明かし……?」
「ええ。乙女ゲームと、転生について」
一瞬大きくなった炎に黄金の髪をきらめかせながら、縦ロールの令嬢は妖艶な微笑を浮かべた。
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