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ねばる婚約者
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わたくしの婚約解消宣言に、慌てふためく侯爵令息とご令嬢ですけれど。
そんなに驚く事かしら?
「ど、どうしてなんだ、アンジェリーナ……!」
どうしてはこちらの台詞ですが、苦悩に顔を歪めていた侯爵令息は、はっとしたように目を見開きます。
なんでしょう。嫌な予感しかしないですわ。
「まさか!僕は君を傷つけてしまったのか!?素っ気ないふりをして、本当は、僕を愛して……」
「そんな……!!」
「あり得ない事をおっしゃらないでください。わたくし達の婚約は、百パーセント政略です」
薄気味悪い事言うな。は、さすがに飲み込みましたけれど。
心の底からきっぱり否定すると、悲痛な表情で寄り添っていたカップルは一時停止しました。
「…………うん。そうだよね。そうだと思った」
死んだ目になる侯爵令息に、またも慌てたご令嬢が、こちらを非難します。
「アンジェリーナ様!カイル様にひどい事をおっしゃらないでください!」
「“アンジェリーナ様”?」
「あ、いえ……グラジオラス侯爵令嬢様」
そこで様は付けません。
まあ、こんなところで礼儀作法の指導なんかしてもしようがありませんけども。
「ともかく、これはあなた方への誠意です。わたくしは、恋人のいる方に気をもたせる素振りする趣味はございません。それは誘惑と同義だと思いますわ」
しゅんとするご令嬢ですが。
恋でなくとも婚約している侯爵令息に気のある素振りをして恋人になっちゃったあなたへの、かなり直截な皮肉ですわよ?そこわかってます?
追求すればこちらの墓穴ですが、ここで選手交代です。
「アンジェリーナ……僕に想いがないなら、どうしてなんだ?妾や愛人を持つのは、珍しい話じゃないだろう?」
潔癖な純愛主義者にはゲスと言われそうな事を、悲しげかつ真摯に訴える紳士。なんちゃって。
まあ、珍しくないのは事実です。
お互い政略ですと、罪悪感のハードルは低いですし。
わたくしだって、お金がほしい方の面倒をみて、恋愛ごっこを楽しみたいというのであれば認めましたわ。けれど。
運命の人では、ねえ?
「寧ろ、想いがあったのなら、お側にいる為に耐える選択肢もあったかもしれませんわね。ですが、わたくしは家の為の結婚をするつもりです」
「ならば尚更だ!君もこの婚約の重要性は理解しているだろう?今度の事業は一年や二年の話じゃない、僕らの家の結び付きは不可欠だ!」
そこまでわかっていて、どうしてこんな話を持ちかけてきましたの?
「だからこそ、ですわ。もはやわたくし達の婚姻に価値がなくなったので、婚約を解消するのです」
言われている事がわからないらしく茫然としている侯爵令息に、思わず溜息がこぼれました。
「ご存知ないようなのでお伝えしておきますが、社交界において、お二人のご関係は周知の事実です」
「「え!?」」
「そこで彼女を迎え入れれば、ラビリンス侯爵令息のお心がどちらにあるかは明らか。つまり、わたくしはお飾りの妻として見下げられる事になります」
「そんな事はさせない!僕は君を侯爵夫人として、正当に扱うつもりだ!」
義憤をあらわに拳を握る侯爵令息ですが。
表面を取り繕えば、面白おかしい裏話の噂を断てると思うなど。貴族として大甘にも程があります。
「礼儀を尽くしていただいたところで、わたくしに女性としての魅力がない事には変わりありません」
「そ、そんなつもりはない。君は充分魅力的な人だ。ただ、僕にはリリスが運命の人だったというだけで……」
そこで目が泳ぐからダメなのですわ。
「それが問題なのです。わたくしの容姿は、両親から受け継いだもの。わたくしの身に纏う物は、当家で贖われたもの。わたくしの知識も、所作も、当家の教育で培われたもの……わたくしは、グラジオラス侯爵家の結晶なのです。そのわたくし以外の方を最愛の女性として迎えるという事が、当家に対してどういう意味を持つか、おわかりになりませんか?」
率直に言えば、「おまえんとこは娘育てんのに失敗してんだよ」と言うも同然の所業です。
当家に喧嘩売ってますわ。
「結び付きどころか禍根になる婚姻など、なかった事にするのが一番ですわ」
そんなに驚く事かしら?
「ど、どうしてなんだ、アンジェリーナ……!」
どうしてはこちらの台詞ですが、苦悩に顔を歪めていた侯爵令息は、はっとしたように目を見開きます。
なんでしょう。嫌な予感しかしないですわ。
「まさか!僕は君を傷つけてしまったのか!?素っ気ないふりをして、本当は、僕を愛して……」
「そんな……!!」
「あり得ない事をおっしゃらないでください。わたくし達の婚約は、百パーセント政略です」
薄気味悪い事言うな。は、さすがに飲み込みましたけれど。
心の底からきっぱり否定すると、悲痛な表情で寄り添っていたカップルは一時停止しました。
「…………うん。そうだよね。そうだと思った」
死んだ目になる侯爵令息に、またも慌てたご令嬢が、こちらを非難します。
「アンジェリーナ様!カイル様にひどい事をおっしゃらないでください!」
「“アンジェリーナ様”?」
「あ、いえ……グラジオラス侯爵令嬢様」
そこで様は付けません。
まあ、こんなところで礼儀作法の指導なんかしてもしようがありませんけども。
「ともかく、これはあなた方への誠意です。わたくしは、恋人のいる方に気をもたせる素振りする趣味はございません。それは誘惑と同義だと思いますわ」
しゅんとするご令嬢ですが。
恋でなくとも婚約している侯爵令息に気のある素振りをして恋人になっちゃったあなたへの、かなり直截な皮肉ですわよ?そこわかってます?
追求すればこちらの墓穴ですが、ここで選手交代です。
「アンジェリーナ……僕に想いがないなら、どうしてなんだ?妾や愛人を持つのは、珍しい話じゃないだろう?」
潔癖な純愛主義者にはゲスと言われそうな事を、悲しげかつ真摯に訴える紳士。なんちゃって。
まあ、珍しくないのは事実です。
お互い政略ですと、罪悪感のハードルは低いですし。
わたくしだって、お金がほしい方の面倒をみて、恋愛ごっこを楽しみたいというのであれば認めましたわ。けれど。
運命の人では、ねえ?
「寧ろ、想いがあったのなら、お側にいる為に耐える選択肢もあったかもしれませんわね。ですが、わたくしは家の為の結婚をするつもりです」
「ならば尚更だ!君もこの婚約の重要性は理解しているだろう?今度の事業は一年や二年の話じゃない、僕らの家の結び付きは不可欠だ!」
そこまでわかっていて、どうしてこんな話を持ちかけてきましたの?
「だからこそ、ですわ。もはやわたくし達の婚姻に価値がなくなったので、婚約を解消するのです」
言われている事がわからないらしく茫然としている侯爵令息に、思わず溜息がこぼれました。
「ご存知ないようなのでお伝えしておきますが、社交界において、お二人のご関係は周知の事実です」
「「え!?」」
「そこで彼女を迎え入れれば、ラビリンス侯爵令息のお心がどちらにあるかは明らか。つまり、わたくしはお飾りの妻として見下げられる事になります」
「そんな事はさせない!僕は君を侯爵夫人として、正当に扱うつもりだ!」
義憤をあらわに拳を握る侯爵令息ですが。
表面を取り繕えば、面白おかしい裏話の噂を断てると思うなど。貴族として大甘にも程があります。
「礼儀を尽くしていただいたところで、わたくしに女性としての魅力がない事には変わりありません」
「そ、そんなつもりはない。君は充分魅力的な人だ。ただ、僕にはリリスが運命の人だったというだけで……」
そこで目が泳ぐからダメなのですわ。
「それが問題なのです。わたくしの容姿は、両親から受け継いだもの。わたくしの身に纏う物は、当家で贖われたもの。わたくしの知識も、所作も、当家の教育で培われたもの……わたくしは、グラジオラス侯爵家の結晶なのです。そのわたくし以外の方を最愛の女性として迎えるという事が、当家に対してどういう意味を持つか、おわかりになりませんか?」
率直に言えば、「おまえんとこは娘育てんのに失敗してんだよ」と言うも同然の所業です。
当家に喧嘩売ってますわ。
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