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婚約を解消します
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うららかな陽射しが降り注ぐ、花咲き乱れる庭園のテラス。
瀟洒なテーブルには、わたくし好みの菓子と、さわやかな香りを広げる紅茶の湯気。
向かいの席には、優男……いえ、非常に端正な容貌の、わたくしの婚約者。
完璧です。
完璧なおもてなしですわ。
――わたくしの婚約者の傍らに、なぜか彼の恋人だという噂でもちきりの、可愛らしい小動物のようなご令嬢がいなければ。
「……それで、本日はどのようなご用向きでしょうか?カイル様」
「すまない……。僕は、運命の人に出会ってしまった。この、リリス・スペクトル男爵令嬢を、心から愛してしまったんだ!どうか、許してほしい……」
「カイル様……!」
頭を下げる婚約者と、目をうるませて彼に寄り添うご令嬢。
いや、知ってましたけど?
寧ろ、あなた方は知らないんですか?
婚約者がわたくしをほっぽらかして、隅でこそこそご令嬢といちゃついてるって、色んな方から聞いてますけど?知らない人はいないくらいの勢いですよ?
まあ、火遊びで済ませるつもりがないというのであれば、仕方がありません。
「かしこまりました。婚約の解消、承ります」
「は!?」
がばりと顔を上げた婚約者……元婚約者?が、信じられないという眼差しでわたくしを見ます。
「ど、どうしてそんな……許してくれないのか?」
「許したつもりですけれど……運命のお相手と結ばれる為に、わたくしに婚約解消をしてほしいというお話ではありませんの?」
「そんな無法な事、望む訳がない。家の為に結婚するのは、貴族の義務だ」
いや、きりりとしたお顔でおっしゃってくれますけども。
結婚しようという相手に運命の人を紹介するのは、無法じゃありませんの??
「そ、そうです……。私に侯爵夫人なんて、とても務まりません」
気弱げに頭を振るご令嬢。
そうなのよね。
わたくしの婚約者……元になりそうな婚約者?カイル・ラビリンスは、侯爵令息。しかも次期当主です。彼との婚姻は、次期侯爵夫人となる事を意味します。
まあ、身の程をわきまえているのは良い事だと思いますわ。
身分差は、養子縁組先を見つければどうにかなりますけども。本人の資質がちょっとね……。
男爵令嬢の中でもおっちょこちょいと評判の、遠くから見ている分には可愛い系令嬢の彼女ではねぇ。
嗚呼。言ってる側から、震える手で紅茶を飲もうとしてカップをひっくり返しているし……。
侯爵家のメイドの底力が全速力で展開している光景から目を逸らして、わたくしは婚約者……元になりそうな婚約者?もう面倒臭いから侯爵令息でいいわ。に、訊ねます。
「わたくしと婚姻を結ぶつもりであれば、“許す”とはどういう事ですの?わたくし元より、ラビリンス様のプライベートに口を挟む気はございませんが」
「ア、アンジェリーナ!!」
わたくしの一歩引いた呼び名に焦ったのか、侯爵令息がファーストネーム呼び捨てに走ります。
うん。本気みたいですわね。
「僕は君と結婚する。侯爵夫人は君だ。だからどうか……彼女を家に入れる事を、許してほしい」
真摯な表情で訴える侯爵令息と、なんとか立ち直って、祈るように手を組んでわたくしを見つめるご令嬢。
……いや、正気か?
「ラビリンス侯爵令息。あなたご自分の運命の人を、“妾として”迎え入れようとおっしゃるの?」
「ちょっ、待って!そこまでひかなくても!?」
いや、ひくでしょう。
まあ、妾にされる当人が納得しているのであれば、そこはわたくしが口を挟む筋合いではありませんけれど。
……とりあえず、これだけは言っておきます。
「ラビリンス侯爵令息。わたくしアンジェリーナ・グラジオラスは、あなたとの婚姻を、解消します!」
「「えええええ!?」」
瀟洒なテーブルには、わたくし好みの菓子と、さわやかな香りを広げる紅茶の湯気。
向かいの席には、優男……いえ、非常に端正な容貌の、わたくしの婚約者。
完璧です。
完璧なおもてなしですわ。
――わたくしの婚約者の傍らに、なぜか彼の恋人だという噂でもちきりの、可愛らしい小動物のようなご令嬢がいなければ。
「……それで、本日はどのようなご用向きでしょうか?カイル様」
「すまない……。僕は、運命の人に出会ってしまった。この、リリス・スペクトル男爵令嬢を、心から愛してしまったんだ!どうか、許してほしい……」
「カイル様……!」
頭を下げる婚約者と、目をうるませて彼に寄り添うご令嬢。
いや、知ってましたけど?
寧ろ、あなた方は知らないんですか?
婚約者がわたくしをほっぽらかして、隅でこそこそご令嬢といちゃついてるって、色んな方から聞いてますけど?知らない人はいないくらいの勢いですよ?
まあ、火遊びで済ませるつもりがないというのであれば、仕方がありません。
「かしこまりました。婚約の解消、承ります」
「は!?」
がばりと顔を上げた婚約者……元婚約者?が、信じられないという眼差しでわたくしを見ます。
「ど、どうしてそんな……許してくれないのか?」
「許したつもりですけれど……運命のお相手と結ばれる為に、わたくしに婚約解消をしてほしいというお話ではありませんの?」
「そんな無法な事、望む訳がない。家の為に結婚するのは、貴族の義務だ」
いや、きりりとしたお顔でおっしゃってくれますけども。
結婚しようという相手に運命の人を紹介するのは、無法じゃありませんの??
「そ、そうです……。私に侯爵夫人なんて、とても務まりません」
気弱げに頭を振るご令嬢。
そうなのよね。
わたくしの婚約者……元になりそうな婚約者?カイル・ラビリンスは、侯爵令息。しかも次期当主です。彼との婚姻は、次期侯爵夫人となる事を意味します。
まあ、身の程をわきまえているのは良い事だと思いますわ。
身分差は、養子縁組先を見つければどうにかなりますけども。本人の資質がちょっとね……。
男爵令嬢の中でもおっちょこちょいと評判の、遠くから見ている分には可愛い系令嬢の彼女ではねぇ。
嗚呼。言ってる側から、震える手で紅茶を飲もうとしてカップをひっくり返しているし……。
侯爵家のメイドの底力が全速力で展開している光景から目を逸らして、わたくしは婚約者……元になりそうな婚約者?もう面倒臭いから侯爵令息でいいわ。に、訊ねます。
「わたくしと婚姻を結ぶつもりであれば、“許す”とはどういう事ですの?わたくし元より、ラビリンス様のプライベートに口を挟む気はございませんが」
「ア、アンジェリーナ!!」
わたくしの一歩引いた呼び名に焦ったのか、侯爵令息がファーストネーム呼び捨てに走ります。
うん。本気みたいですわね。
「僕は君と結婚する。侯爵夫人は君だ。だからどうか……彼女を家に入れる事を、許してほしい」
真摯な表情で訴える侯爵令息と、なんとか立ち直って、祈るように手を組んでわたくしを見つめるご令嬢。
……いや、正気か?
「ラビリンス侯爵令息。あなたご自分の運命の人を、“妾として”迎え入れようとおっしゃるの?」
「ちょっ、待って!そこまでひかなくても!?」
いや、ひくでしょう。
まあ、妾にされる当人が納得しているのであれば、そこはわたくしが口を挟む筋合いではありませんけれど。
……とりあえず、これだけは言っておきます。
「ラビリンス侯爵令息。わたくしアンジェリーナ・グラジオラスは、あなたとの婚姻を、解消します!」
「「えええええ!?」」
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