公爵家次男の巻き込まれ人生

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第二章 変動

29話 違和感

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本日もクレーネと共に朝食を摂っていた。こうして二人だけで食事をするのにも大分慣れてきたものだ。クレーネとシアリィルドそれぞれの体調に配慮したメニューが並んでいた。とはいえ、シアリィルド自身はそれほど気を遣われるような体調ではない。時折発熱することはあるが頻度は減ってきているからだ。
一方、クレーネは少量の食事で、メインがスープだった。足りないのではとシアリィルドも感じたが、動くことがあまりないので、これで十分なのだと言われてしまっていた。実際、その食事で何年も過ごしてきているのだ。その間のことを知らないシアリィルドには何も言えない。

「シア、今日は何をするの?」
「・・・特に何も。いつも通り過ごすつもりです」
「そう・・・ここは、貴方には退屈でしょうに。街に降りてもいいと思うのだけれど・・・」
「父上が許可しませんので」

許可するまで、外出については禁止を命じられている。せいぜい許されるのは、庭までだ。第二邸も本邸も庭は丁寧な手入れがされており、様々な花が咲いている。しかし、シアリィルドはそれほど花に興味があるわけではない。綺麗だと愛でる気持ちはあるが、それだけだ。寝転び、陽の光を浴びる程度のことしか庭に出てもやることがなかった。
クレーネは困ったように笑う。

「本当に、心配症ね」
「心配、ですか?」

心配症。意外過ぎる言葉に、シアリィルドは思わず目を見開く。誰が心配症なのか。クレーネが言っているのは、父であるルトギアスだ。それは間違いない。しかし、シアリィルドの中ではルトギアスが心配をしている姿が想像できないのだ。似合わないといってもいい。
シアリィルドの反応に、クレーネも思わず声を出して笑いだした。笑われたことに眉を寄せるが、仕方のないことだと思う。それほど、ルトギアスとは結び付かない言葉だったのだから。

「母上・・・」
「ふふっ、ごめんなさい。それほど不思議がるとは思わなかったものだから。うふふ・・・」
「・・・」

笑いが止まらないといった風のクレーネに、何かを言うのは止めてシアリィルドは食事を再開する。

「ルトは顔に出ない人なのよ。でも、本当はね。とても貴方たちを想っているわ。マナフィールも、シアのことも・・・可愛くて仕方ないのよ」
「少なくとも、可愛いはないと思います。俺も兄上も、そんな年齢ではありません」
「でもシア、小さい頃の貴方は女の子みたいだったわ・・・出来ればドレスを着せてみたかったもの」
「・・・思いとどまってくださって感謝します」

幼い頃ならば、言われるがままに着ただろう。今は、事実でないことに感謝しかない。己の小さい頃が女の子の様だったというのは、ジークランスを始めとした王族らにも言われていることなので、仕方ないと諦めてはいる。決して嬉しくはない誉め言葉はたくさんもらった。それがたとえ父だとしても、嬉しくなかったと断言できる。

「勿体ないことをしたわ・・・ルトもね、可愛くて貴方に触ることを怖がっていたの。男の子で良かったと、今でも思っているわ。女の子だったら、領地から出してもらえなかったわ」
「はぁ・・・」

話が脱線し始めているが、止めるものはいない。給仕をしている侍女らは、口を挟むことは出来ないし、執事らも同様だ。微笑ましそうにクレーネとシアリィルドを見守る彼らは、止める権利があったとしても、止めることはしないだろう。止められるのは、シアリィルドだけということになる。

「・・・母上」
「ん?まだまだ話は一杯あるのだけれど・・・」
「もう結構です」

即答する。シアリィルドでさえ、あまり覚えていない幼い頃のことなど、聞かされても反応に困るだけだ。微笑ましい視線をこれ以上浴び続けるのも、勘弁してほしいと思う。
だが、クレーネはこれを拒絶と受け取ったらしい。急に表情から笑みが消えたのだ。

「・・・シアは、お父様が嫌いかしら?」
「・・・別にそういうわけでは」
「でも、貴方をここに留めているのには納得していない?」
「まぁ・・・それは、ありますが」

父を嫌うとかではない。確かに、クレーネの言う通り納得していないこともある。領地に来たのが、クレーネに会わせるためだったとしても、その目的は達した。いつまでもここに滞在する意味はないとシアリィルドは考えている。しかし、ルトギアスはシアリィルドの外出までを禁じた。ここまでする理由は全くわからないのだ。
現在の世界状況を見る限り、戦力は必要とされている。シアリィルドも王国軍に所属する軍人の一人だ。有事の際には、戦いに赴くのが当然のこと。こうしている間にも状況は変わっているかもしれない。王都に居なければ、情報も入ってこないので、知ることが出来ないのだ。己の体調が戦闘できるまでに回復していないことはわかっているが、それでも王都から離れなければならないことにはならないはずである。恐らくは、別の理由があるのだ。シアリィルドには知らせていない何かが。

ドクンっ。

「っ・・・何だ・・・?」

刹那、シアリィルドは身の毛がよだつような悪寒が走るのを感じた。そうして次には、ピリリとした何かが襲ってくる。

「っ・・・」
「シア!?」

襲い掛かってくるモノに耐えられず、シアリィルドはテーブルを掴もうと手を伸ばすが、掴む前にその意識が遠のくのを感じた。耳の奥で、クレーネが叫んでいるのが届く。大丈夫だと言いたいが、言葉を伝えることは出来ずにシアリィルドはそのまま倒れこんでしまった。


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